(人材を活用する)
・実際のところ、ソフトウエア開発上の問題の多くは、技術的というより社会学的なものである。
・新人のマネージャーは、技術的問題には時間をかけて考え、人間的側面には時間を割かない傾向がある。仕事の人間的な側面より、技術面に注意を多く払う理由は、重要だからではなく、単にやりやすいからだ。
・部下が誤った判断をするのが心配で、開発手順をシステム化したり、厳格なメソドロジーを無理強いして、設計上の重大な決定をさせないと、部下はますます消極的になる。間違いを犯さないよう手段を講じたプロジェクトでは、平均的な技術レベルはそれなりに上がるかもしれないが、チームの空気は重く沈む。これとは正反対に、担当者が問題をぶちまけたら、「よくやった」と誉める。これも、彼らの給料のうちだ。
・プロジェクトメンバーを結束させる能力のある人は、普通に仕事をする人の2人分の価値がある。チームの結束はプロジェクトの成功確率を高める。
・仕事そのものをガリガリやる時間を減らして、仕事についてじっくり考える時間を増やすことが重要である。また、超人的な力が必要になる仕事ほど、チームのメンバーは相互によく交流し合い、交流を楽しむことが重要になる。
・マネージャーは、いつも部下にできるだけ多くの残業をさせようとして尻を叩き、できるだけ多くの成果を出させようとして策を巡らす。
・ワーカホリックの患者は、人生にとって大切でないこと(仕事)のために、もっと大切なもの(家族、愛情、家庭、若さ)を犠牲にしていると気がついた時、ひどく惨めな気持ちになる。
・生産性を評価する際、退職もコストに含めるべきである。そうしなければ、「生産性の向上」を達成できても、キーマンの退職という取り返しのつかない痛手を受ける。しかし、退職コストは計算することができず、コストに含めることができないのが現実である。
・早くやれとせかされれば、雑な仕事をするだけで、質の高い仕事はしない。
・オフィスで感情を刺激する最大の要因は、自尊心を傷つけられることである。大抵の人は、自尊心を自分の作った製品の品質と強く結びつける傾向がある。どんなことでも、製品の質を落としかねないことを指示すれば、それに反抗する部下たちの感情に火をつけることになる。
・達成不可能な納期をマネージャーが設定すれば、製品の品質を危険に晒すことになる。マネージャーは品質をマーケットニーズに応じて、良くも悪くも調整可能な製品の属性と考えがちである。しかし、作る側の品質理論は全く異なる。というのは、自尊心が製品の品質と非常に結びついているので、開発者は自分の品質基準を当てはめる傾向にあるからだ。
・エンドユーザーの要求を遥かに超えた品質水準は、生産性を上げる一つの手段である。価格と品質はトレードオフの関係にあるという考えは、日本には存在しない。反対に高品質がコスト低減をもたらすという考え方が広く受け入れられている。
・パーキンソンの法則に従って、期限を短く設定し、納期によるプレッシャーで集中して作業させるように促すことは、チームにとって良くない効果を与えることになる。そんなことをしたら、スタッフの品位を落とし、意欲をくじくだけである。
・誰が設定したかに関わらず、誤った目標値の設定は、スタッフのやる気を失わせる。目標値をマネージャーが設定する、マネージャーとスタッフで設定する、スタッフ自身が設定する、システムアナリストが設定するの順に生産性が上がることが検証の結果分かった。なぜなら、システムアナリストが第三者の視点から適切な目標値を設定することができるからである。さらに驚くべき結果は、全く目標値を設定しない場合の生産性が最も優れた結果になったということである。なぜなら、個人の自律性と品質への誇りが駆動力となり働くからである。
・ソフトウエア開発のマネジメントにおける7つの錯覚。
①生産性を飛躍的に向上させる方法があるはずなのに、今までずっと見落としてきた。
→生産性を飛躍的に高める方法などない。
②他のマネージャーは2倍も3倍も成果を上げている。
→そんなことを気にするな。
③技術は日進月歩で、油断するとすぐに置いていかれる。
→その通りである。
④プログラミング言語を変えれば、生産性は大幅に上がる。
→言語を変えたところで大きな差はない。
⑤バックログが多いから、すぐにでも生産性を2倍にする必要がある。
→ソフトウエアのバックログについて色々言われているが、根も葉もないことである。
⑥何もかも自動化してしまおう。そうすれば、ソフトウエア開発者がいらなくなるのではないか?
→自動化ができるはずがない
⑦部下に大きなプレッシャーをかければ、もっと働くようになる。
→違う。やる気をなくすだけだ。

・マネージャーの役割は、人を働かせることにあるのではなく、人を働く気にさせることである。

(オフィス環境と生産性)
・マネージャーは、個人差は運命だと言ってきた。個人差は生まれつきのもので、自分では変えられないということだ。しかし、企業間のばらつきは、運命論では説明しにくい。他よりも生産性、品質ともはるかに劣っている企業がある。これは、オフィス環境や企業文化に何か問題があって、優秀なプログラマーを引きつける力がないか、優秀なプログラマーがいてもうまく活かしきれないということである。
・生産性に対する配慮を全く欠いたオフィス変更は、プログラマーの作業環境に無関心・無責任であることを自ら宣言しているようなものだ。
・本当の意味での仕事は1人の時にできる。単独で作業をする場合、フロー状態になっていることが理想である。しかし、フロー状態に入るには、通常、15分以上の精神集中課程が必要と言われている。従って、騒々しいオフィスではフロー状態に達するのは困難、あるいは不可能である。
・フロー状態に入ることを妨げる最大の要因は電話である。
・知的労働者に適した、働きやすいオフィスをデザインする4つのパターンは以下の通りである。
①組み立て式オフィス。組み立て式個室は1人で仕事をするには貧弱であり、チームで仕事をするには狭すぎる。仕事をする当人がオフィスのレイアウト設計に加わることが重要である。
②窓。窓のないオフィスは凶悪犯をぶち込んでおく刑務所と変わらない。
③屋内と屋外スペース。屋外施設のあるオフィスで仕事をしたことがあれば、一日中部屋の中に閉じこもって仕事をすることなどとても考えられなくなる。
④共有スペース。

(人材を育てる)
・マネージャーは、リーダーシップを発揮して、部下のまだ見つかっていない能力を引き出さなければならない。こうした素材としての人間を形成していくことがマネジメントの本質であると考えられているが、あまり現実的とは考えにくい。実際は、彼らが最初の時点でその仕事に向いていないのであれば、ずっと向いていない。最初に人材を揃えることが何よりも重要である。つまり、マネージャーとして成功するためには、優れた人材を選ぶ能力があるかが非常に重要である。
・人を採用する際の面接で技能を測定する適性検査は実施されない。1960年代には、適性検査が大流行したが、その当時行われていた適性検査は応募者が採用された直後に行う仕事を対象としていた。そのため、短期的には良い仕事をするが、その後はあまり成功しそうにない人ばかりを選び出していた。このような背景があり、最近は適性検査が行われなくなった。
・採用に当たっては、少なくとも社会性や、人とのコミュニケーションのやり方に特に注目する必要がある。筆者たちが発見した最も良い方法は、応募者を対象としたオーディションの実施である。やり方は簡単であり、過去にやった仕事のある側面について10から15分の発表をするように依頼する。ある側面とは、新技術を初めて試みたときの経験、苦労したことを通じて得られたマネジメント上の教訓、あるいは特に興味のあるプロジェクト、と言ったものである。一つだけ注意点があり、業務と直接関係ない話は、うまく騙されやすい。また、話し手の人の心を揺さぶる情熱を垣間見て、それに引っかかりやすいが、その情熱は得てして仕事上では2度と見ることはない。
・SNS世代の若い社員たちは、「継続的な注意の分散」と呼ばれる特徴を備えており、最も効率よく仕事ができるのはこういう環境だと言われている。問題は、継続的な注意の分散という状態は、フロー状態の逆ということである。フロー状態に入れないエンジニアは、ただ力を出せないというだけでなく、様々な世代の人々から構成される結束したチームに馴染めない。
・投資した価値が残らないような行動は、欠陥のあるマネジメントの大きな要素である。
・企業活動の目的は規模拡大であり、縮小ではない。レイオフや経費節減、組織のスリム化は、基本的にはネガティヴな要素である。なぜなら、社員をクビにすることは、社員へ投資した経費を捨てることになるからである。

(生産性の高いチームを育てる)
・チームが一体となった時により良い仕事をするし、一層楽しいと感じる。
・企業の目標は、一般の社員にはいつもどうでも良いものに思われる。しかし、目標が独断的だからと言って、誰もその目標を受け入れないわけではない。チーム編成の目的は、目標を達成することではなく、チームメンバーたちの目標を一致させ、同じ方向に引っ張るための道具として機能させることにある。
・チームへの忠誠心によってマネージャーを取り込もうとする力よりも、チームの忠誠心によってマネージャーを排除しようという力の方が強くなる。チームを会社に結びつける忠誠心よりも、チーム内の忠誠心の方が強い。結束したチームは、生意気で、自己満足的で、他人を苛立たせ、排他的かもしれないが、交換可能な部品の寄せ集めよりも、マネージャーの本当の目標のためにははるかに役立つことは間違いない。
・確実にチームを結束させる方法はないが、チーム形成を妨げプロジェクトを崩壊させる確実な方策はある。それをチーム殺しと名付けた。チーム殺しの方策は7つ存在する。
①守りのマネジメント。部下を信頼しない側に大きく偏っているマネージャーが非常に多い。彼らは、部下が正しくできる限り、完全に自主的に仕事をさせても良いとの前提に立っている。これでは自主性を与えていないに等しい。本当の意味での自主性や自由とは、マネージャーとは違ったやり方で仕事を進められるということである。メソドロジーとマネージャーによる技術的な干渉が、守りのマネジメントである。この二つが揃えば、プロジェクトは長期的に見て失敗する運命にある。
②官僚主義。官僚主義は目標を与えるのではなく仕事を与え、部下にやらせる傾向が強い。チームは、どんなものであれ、チーム形成の目標を信じることが必要である。そのため、官僚主義の傾向が強い場合、チームの形成を妨げてしまう。
③作業場所の分散。チームのメンバーを一緒にしておけば、チーム形成にとって必要な日常の何気無い会話をまじ合わす機会も生まれる。また、隣にいる作業者が同じチームにいるときは、同時に静かに仕事をすることが多いから、フロー状態を中断させられることも少ない。
④時間の細分化。作業者が、4〜5件の複数のプロジェクトを同時に抱えていることは非常に効率が悪い。複数の結束したチームに同時に身を置くことはできず、固く結束したチーム内の相互作用は排他的である。時間を細分化されたチームは結束することができない。1人の人間に割り当てる仕事は同時に1つだけというだけで、時間の細分化はかなり緩和できるし、チームが結束するチャンスが与えられる。
⑤製品の品質削減。製品のコスト削減(=品質削減)が最初に破壊するのは、長い間培ってきたチームの一体感である。
⑥はったりの納期。はったりの納期を伝えるマネージャーは、部下を尊重したり、気遣ったりするつもりはない。マネージャーは、脅迫しないと部下は、何一つ仕事をしないと信じているのである。こんなプロジェクトでは、チームの結束は決して期待できない。
⑦チーム解体の方針。ある仕事から別の仕事に移る時、チームごと一緒に動いてはならないという方針や、徐々に集結に向かうプロジェクトチームでは、人事部が新しいプロジェクトに効果的に人員を投入できるように、人を次々と引き剥がす方針の会社もある。こんなことをすれば、チームは確実に破壊される。
・作業チーム内の競争心は、マネージャーが部下を大切に思い、注意深く、愛情を持って接していない時に、強くなる傾向があるのではなかろうか?話を単純化し過ぎているかもしれないが、この考え方にはきっと真実の確信となる重要なことが含まれているはずである。
・一緒に働かなくてはならない人たちの間での激しい競争もまたチーム殺しになる。
・生まれつきのマネージャーは、チームにとって何が良いかについて、潜在意識的な勘を持っている。この勘がプロジェクトを進める上での決定を左右する。小さく簡単な共同の成功の積み重ねという形で経験が組織される。そのためにマネージャーにどのような手があるかはよく見なければわからない。
・部下に自分の評価の一部を委ねることは、少々乱暴で恐ろしいことと思うかもしれないが、それが全員から最善を引き出す道である。そうすれば、チームの中に何かしら大切なものが醸し出される。チームの中に生まれたお互いの信頼関係が報われることをはっきり感じる。これがチームを形成する上で最も大きな効果がある。
・健全な会社にするための化学反応を生み出すための要素は6つある。
①品質市場主義。品質至上主義は、チームを結束するための核になる。
②満足感を与える打ち上げ。特にチームが一体となりかかった時には、頻繁な打ち上げが必要である。チームのメンバーたちには、共に成功し、それを喜ぶ癖をつけることが必要である。
③エリートチーム。優れたマネージャーは、いずれにしても部下をコントロールできるものではないということがわかっている。うまいマネジメントの本質は、チーム全体を同じ方向に向かわせ、マネージャーでさえ前進を止められないところまで燃え上がらせることにある。
④成功しているチームを守り、維持する。チームが一致団結したら、解散させてはならない。
⑤チームはネットワーク構造をしているのであって、階層構造ではない。多くの人々がリーダーシップという概念を守ろうとするが、チームではそんなものの出番はあまりない。
⑥異分子がいるから楽しい。結束したチームを作るためには、異質な人が少し混ざっていた方が効果的である。

(肥沃な土壌)
・メソドロジーは、作業を固定的な肩に押し込めようとする。その結果、次のような問題が確実に起きる。書類書きの泥沼化、手法不足、責任観念の欠如、全般的な意欲低下。
・メソドロジーは、簡潔で緩やかなものにすべきである。生産性向上させるには、ホーソン効果(人は何か新しいことをやろうとした時により良い成績を収める)が有用であるため、緩いガイドラインでも、例外を認めておいた方が良い。
・発現する確率が極めて低いリスクはマネジメントしなくても全く構わない。しかし、どのような結果になるのか「恐くて考えたくない」リスクをマネジメントしないまま放置することはありえない。
・マネジメントにおける究極の罪は、人の時間を浪費することである。
・変化への基本的な反応は、論理的なものではなく情緒的なものである。
・一般的に、どのような改善にも変化に巻き込まれる人たちがいる、ということを思い起こすのはいいことである。
・変化には少なくとも「古い状況」→「混乱」→「実践と統合」→「新しい状況」の四段階が含まれ、これより少ないことはありえない。変化を起こそうとする時、あなたを最初に襲うのは「混乱」だ。メンバーたちは新しいものの習得に躓く。マスターしてから長い年月やってきた取り組みと手法を捨て、再び初心者に戻ることは、苛立たしく納得できないことである。これが、「混乱」である。「実践と統合」は、習熟のペースが上がってきた時に入る段階である。混乱の苦痛が大きければ大きいほど、新しい状況に達した時に感じる価値が大きいというのが人間の感情の面白いところである。
・本当の意味で効果的な人生を生きられる人は、自分のものの見方には限界があることを認められる謙虚さを持ち、心と知性の交流によって得られる豊かな資源を大切にする。そういう人が個々人の違いを尊重できるのは、自分とは違うものを持つ他者と接することで、自分の知識が深まり、現実をもっと正確に理解できるようになるとわかっているからなのである。
・お互いのものの見方の違いを尊重できなければ、また、お互いを尊重し合い、どちらの見方も正しいかもしれないと思わなければ、自分の条件づけの中にずっと留まることになる。人生は「あれかこれか」の二者択一で決められるわけではない、答えは白か黒のどちらかだけではない、必ず第3の案があるはずだと思えない限り、自分だけの解釈の限界を越えることはできないのである。