・公務員としての奉仕の精神やエリートの誇り、矜持が薄れた時、例えば国民からのバッシングや些細なことの通報によって、公務員のモチベーションが下がり、市民に対しては形式的な手続きを求める一方、自らは最低限の仕事しかしないといった官僚主義的な姿勢が出てくる。この悪循環が、相互不信や悪意の入り混じった関係へと転落しかねない状態とする。
・日本人は、建前でやる気のある姿勢を見せるが、本音はやる気がない人が多い。ギャラップ社が2017年に行った調査によると、日本では「熱意がある」社員はわずか6%に過ぎず、139ヵ国の中で132位という結果が出ている。この問題の深刻さは、エンゲージメントの低さよりもそれが表面化しないところにある。
・社員が表面上「やる気」をアピールする一方、本心で「挑戦しない方が得だ」と考える直接の理由は、評価制度の仕組みにあると言えそうだ。減点主義で評価すると、リスクを冒して挑戦するメリットが無いのである。
・「やる気」を引き出す切り札として、成果主義が出てきたが、目標管理されるほど、目標を低めに設定しておいて、確実に100%達成しようとする動機が働く。
・本人にとって「何が得意か?」というのと、「何をしたいか」とは必ずしも一致しない。そこで、「能ある鷹は爪を隠す」という処世術を身につける。自分が着きたい仕事以外に適性がないふりをしていた方が得だというわけである。
・終身雇用制度も「何もしない方が得」を助長する制度の一つ。
・典型的な年功制の場合、貢献度と報酬の線が交差する点は概ね45歳くらいだと言われている。
・仕事でチャレンジすることが周囲との人間関係の上でマイナスになる。その理由としては、日本の会社は共同体型組織であるがゆえ、サボると他の仲間の足を引っ張るので迷惑となるが、逆に頑張り過ぎても他の人が同じように頑張らなければならなくなるので迷惑になる、という暗黙の規範による束縛が強い。このような傾向はPTA、町内会、高校、大学、受験勉強にも同じようなことが言え、「何もしない方が得」という意識がいかに根深いかがわかる。
・日本の組織や集団は、人間関係が固定化されたり、メンバーが同質的で価値観が似ている等の、一種の共同体としての特徴が強く表れているが、一方で、メンバー同士の情緒的な結びつきや連携は乏しく、長期的視点にも欠ける。そのため、本来の共同体とは似て非なるものであり、純粋な共同体ではなくメンバーの利益を優先する「利益共同体」に近い。
・利益共同体と化した組織は、出る杭は打たれる文化が根付き、不正の告発もしにくい環境となり、経営がジリ貧になっても事業内容の見直しや撤退をしない、また、組織の見直しも人事制度の抜本的な改革も行わない。あえて波風を立てずに、その場しのぎでなんとかしてきても、そんな組織はいずれ生存能力を失い、組織は存続できなくなっていく。なぜそうなったのか?
・メンバーの多様性や、個と全体の利害対立を想定せず、常に全体の視点だけで物事を考えようとする「素朴な全体主義」に基づく組織の設計や運営が
日本の社会に根強いたことによって、それを逆手に、「公」の名を借りた「私」の利益を巧みに追求する人たちが出てきた。このような行動は、個人プレーに走ったり、周囲に危害を加えるような積極的な機械主義(自分の置かれた状況を利用して私益を追求すること)ではなく、消極的な機械主義であるため、目に見えづらく対処が難しいし、規制する法的根拠もない。そうして、消極的な機械主義が蔓延るようになった。
・機械主義の暴走を防ぐ切り札として、「評判」があったが、以前ほど有効に機能しなくなった。
・「公」と「個(私)」の利害が調和しているという前提のもと構築された「素朴な全体主義」で考えるのではなく、「公」と「個」又は「個」と「個」の利害関係は対立することを前提とした社会や組織を設計する必要があり、個々人の利害の対立を統治するシステムの設計が社会に必要である。
・社会や組織が、自分の利益や権利から出発して設計されていないため、忠誠心も湧かないし、主体性も責任感も生まれない。「何もしない方が得」という態度は利己的であるが、その責任は個人にあるというより、むしろそのような仕組みを放置した側にあると言えるのではなかろうか。
・働く人に満足をもたらす要因(動機づけ要因)と不満をもたらす要因(衛生要因)とがある。衛生要因には4つの要因があり、①長時間労働、②人間関係の問題、③過剰な管理、④不公平な人事評価である。
・個々人は組織内外の条件を天秤にかけ、内部に留まるか退出するかを決める。組織の側も組織内部で適材適所を図るだけでなく、組織のメンバーとしてとどめておくか否かを判断する。というように組織の壁を薄くすることで。組織と個人の間には常に緊張関係を存在させる。
・「何もしない方が得」な世界から、「するほうが得」な世界への移行するには4つの対策がある。
・1つ目の対策は、防波堤を作る。自分や他人が何かを「する」ことによって自分の利益が脅かされない防波堤を作る必要がある。最も有効な防波堤は分化、すなわち組織や集団から個人を分けることである。分化の方法としては4つあり、①仕事や活動の分化である「ジョブ型雇用」、②物理的分化としてオフィスの仕切り、③キャリアの文化として短期に清算する人事、④認知の分化として一人ひとりの仕事内容や仕事の成果を組織内外に「見える化」する。
・2つ目の対策は、橋をかける。橋をかけるとは、既存の組織や制度の枠外に別の制度を作ることである。別の選択肢ができれば、既存の制度との間に不均衡や不公平が生まれ、複数の制度の間に競争原理が働きます、既存の制度を見直さざるを得なくなる。
・3つ目の対策は、かけた橋を渡らせる。皺寄せを受けた個人や集団に対してインセンティブを与えることで、個人への皺寄せによる不満を解消することができる。
・4つ目の対策は、人材が多様化すれば、共同体の呪縛が解ける。