ちょっと前の東京新聞の記事です。
裁判員制度下での事件報道 予断排除へ各局が『指針』
二十歳以上の一般国民が刑事裁判に参加する裁判員制度。逮捕された容疑者を犯人と決め付けるような報道が、裁判員となりうる国民に過度の予断を与える恐れがあるとの指摘もあり、テレビ局も新聞社同様、事件報道のガイドラインを策定している。制度開始から一カ月。あらためて事件報道の在り方が問われている。 (近藤晶)
現職の裁判官に長期密着取材したドキュメンタリー「裁判長のお弁当」(東海テレビ制作)。カメラは、判決を言い渡した裁判官が執務室に駆け戻り、携帯テレビで判決を伝えるニュースをチェックする姿をとらえる。職業裁判官もメディアの報道を意識せずにはいられないことがうかがえる。
「一番問題となるのはポピュリズム。裁判官はメディアを媒介とした民意の影響を強く受けている。メディア自身が変わらないから、より一層、民意が激しくあおられる。そこに危機感を強く感じている」。裁判員制度開始を間近に控えた四月下旬、都内の大学で開かれたシンポジウムで、作家の森達也さんは、こんな厳しい見方を示した。
映像と音声を伴うテレビは、五感に訴える力が強いメディアであり、時として視聴者に強い印象を与える。テレビの事件・裁判報道をめぐっては、これまでもさまざまな問題が指摘されてきた。香川県坂出市三人殺害事件では、一部の番組に対し、「犯人視している」などと視聴者から抗議が寄せられた。
山口県光市母子殺害事件では、差し戻し控訴審の報道に関して、NHKと民放でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会が「意見」を公表し、一連の画一的な報道を「集団的過剰同調」と批判した。
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昨年十二月、NHKは日本新聞協会の指針を踏まえ、局内向けに「裁判員制度開始にあたっての取材・放送ガイドライン」を作成。今年一月から社会部で試行し、四月からは全国の放送局で運用を始めた。
視聴者に過度の先入観を与えないようにするため、(1)情報の出所をできる限り明示する(2)容疑者側の主張をできる限り取材・放送する-の二点が基本姿勢。専門家のコメント、ニュースのタイトル、字幕スーパーも容疑を断定した表現を避け、映像も容疑者の悪質さをことさら強調するような編集は避けるなどとしている。
一方、民放連も昨年一月、「裁判員制度下における事件報道について」を公表、八項目の「指針」を示した。これを踏まえ、在京キー局はそれぞれ独自にガイドラインや注意事項などをまとめた。いずれも犯人視せず、公平・公正な報道に留意するといった内容だ。
フジテレビは、ガイドラインの周知について「報道局の全制作スタッフが参加する勉強会を実施した。情報制作局でも同様に実施している。系列局にも内容を説明し、考え方を示した」と説明。テレビ朝日は、コメンテーター発言の取り扱いについて「民放連と局のガイドラインへの理解を、さらに求めていきたい」としている。
放送倫理検証委員会の川端和治委員長は今月十二日、制度開始後の事件報道全般について「より注意深くなっているのは間違いない」と評価した。ただ、民放連の指針のほとんどは、裁判員制度でなくても本来、配慮されなければならない点。裁判員法の制定過程では、いわゆる「偏見報道禁止規定」を検討する動きもあった。犯人視報道の問題などをメディア側が自律的に解決していかなければ、法規制の議論が再燃しかねないという指摘もある。
上智大学の田島泰彦教授(メディア法)は「一般的な事件報道では配慮が見られる一方、裁判員制度の対象事件ではないが、西松建設の献金事件では、かなり一方的な報道になった。捜査当局の情報に依拠する部分を変えていかないと大きくは変わらない。権力の監視がメディアの根本的な役割。事件への向き合い方、メディアの立ち位置が問われている」と指摘している。
◆民放連が示した8項目の「指針」
(1)事件報道にあたっては、被疑者・被告人の主張に耳を傾ける。
(2)一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける。
(3)事件の本質や背景を理解するうえで欠かせないと判断される情報を報じる際は、当事者の名誉・プライバシーを尊重する。
(4)多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。
(5)予断を排し、その時々の事実をありのまま伝え、情報源秘匿の原則に反しない範囲で、情報の発信元を明らかにする。また、未確認の情報はその旨を明示する。
(6)裁判員については、裁判員法の趣旨を踏まえて取材・報道にあたる。検討すべき課題が生じた場合は裁判所と十分に協議する。
(7)国民が刑事裁判への理解を深めるために、刑事手続きの原則について報道することに努める。
(8)公正で開かれた裁判であるかどうかの視点を常に意識し、取材・報道にあたる。
今さらこんな当たり前な指針を出しているようでは先が思いやられますね。
マスコミには、もはや自浄能力はありません。
以前から指摘しているように、このままでは「マスコミによる事実上の判決」が下されかねません。
マスコミの意に沿わない判決がなされれば、裁判員バッシングがなされるでしょう。そして、冤罪が発生した場合には、裁判員の責任を徹底的に追及するでしょう(判決時には判決を支持していたとしても)。
それでも一般人が報道に影響されずに裁けるでしょうか。
記事にもあるような「偏見報道禁止規定」を是非とも導入すべきと思います。