よい記事を見つけました。以前、私は世襲制限に関する記事を書きましたが、私の拙い文章で伝えられなかった思いを書いてくれています。
【正論】日本財団会長・笹川陽平 枝葉の世襲論より国家の大論
≪議員定数削減こそ公約に≫
世襲候補の立候補制限が次期総選挙の焦点となりつつある。確かに小選挙区制度移行後、世襲議員が目立って増えた。新たな人材の政界入りに障壁となっているのも否定しない。しかし彼らを選んだのはあくまで有権者である。政党が世襲制限を言うのは、有権者の判断が誤っていたと批判しているに等しい。
まして次期総選挙が政権交代をテーマに争われる以上、国民に問うべきは安全保障、経済・財政再建、憲法改正といった明日の日本にかかわる国家の大論である。その上でなお選挙改革を言うのであれば、議員定数削減こそ公約に掲げられるべきである。
これらに比べれば、本来、有権者の自由な判断に委ねられるべき世襲制限は枝葉のテーマであり、それで政治に対する信頼が回復するほど国民の目線は甘くない。
現に自民党の党改革実行本部は衆参両院の議員定数を段階的に約3割削減する方向を打ち出している。これを公約に掲げ、自ら血を流す覚悟を示せば、政治に対する国民の信頼を取り戻す道も開けてくる。民主党が導入するから自民党も、というのでは選挙技術論としても安易で、有権者を愚弄(ぐろう)することになりかねない。
一般的な定義に従い、世襲を3親等以内の国会議員の影響力を背景に党の公認を得て出馬、当選したケースとすると、自民党では3割、100人を超す議員がこれに当たる。
≪各党は堂々と横綱相撲を≫
私はこのような現状に問題がないと言っているのではない。地盤、看板、カバンをそっくり引き継ぐ世襲候補が有利であるのも間違いない。安倍元首相や福田前首相の唐突な辞任劇を見れば、世襲議員を淡泊、ひ弱とする評価にも一理あろう。
しかし世襲議員が多くを占める現状は、有権者がこうした点を承知の上で示した選択の結果である。政治の劣化は世襲議員の多寡より、本格的な政策論、政治の在り方論を欠いたまま推移してきた政治の貧困にこそ原因が求められなければならない。
地方の首長選挙などで、しばしば投票率が50%を切る国民の冷めた目線、政治を軽く見る傾向は政治に対する国民の不信以外の何ものでもない。国民が明日の生活を政治に託すような熱い期待、信頼を取り戻さない限り、劣化した政治を再生するのは不可能である。
各党は今こそ横綱相撲で政権交代の是非を国民に問う時である。半身の姿勢で国民の納得が得られるほど現状は甘くない。私は以前この欄でマスコミと国民の認識の差を指摘したが、政治家と国民の間にはさらに大きな認識のズレがある。政治家が党の明日、自分の明日より国の明日を優先させてこそ、国民の信頼を得られる。
政治に対する信頼が回復し投票率が大幅にアップすれば、世襲候補に対する投票結果が変わる可能性も出てくる。政治資金管理団体の資金が非課税で相続されている点が世襲批判の根拠の一つになっているが、団体の清算・解散規定を見直せば解決できる。
加えて労組を支持母体とする議員が引退する場合、引き続き労組が後継候補を補給する現状も、突き詰めれば世襲と同質の問題である。単に世襲議員の立候補を制限すれば足りるとするのは、あまりに安易な発想である。
今、検討すべきは世襲の是非より、この国の将来にどう備えるかである。戦後日本は「一流の経済」で世界の中の日本を築いてきた。だが、米国の一国支配が終焉(しゅうえん)し新たな秩序形成に向かう国際社会、安全保障や財政再建に向けた国民の負担増など避けて通れぬ政策課題が山積する現状に対応するには「経済も政治も一流」でなければならない。
≪小選挙区制にも問題あり≫
現在の小選挙区比例代表制は1988年に摘発されたリクルート事件で「政治と金」が問題となる中、導入された。各党の公認候補を一人に絞る小選挙区制には、それ以前の中選挙区制とは別の弱点もあり、世襲議員の増加も予想された事態であった。しかし小選挙区制に対する慎重論は「政治改革消極派」とのレッテルの前に封殺された。山本七平氏が「『空気』の研究」で「日本ではある一定の空気が醸成されると、一気にその方向に流され少数意見は無視される」と指摘した通りの状況であったと言っていい。
同じ拙速は避けなければならない。加えて実施は次々期の総選挙から、あるいは小泉元首相が後継に指名した次男について公認候補を立てず無所属で当選した暁に追加公認するといった奇策がささやかれるようでは、政治に対する信頼は一層、失われる。
私は現在、亡父が永らく務めた日本財団の会長の立場にある。政治とは異なる世界とはいえ、公的性格の強い民間団体の会長職であり、今回の発言をきっかけに世襲批判の声が出るかもしれない。にもかかわらず、あえて世襲制限に反対するのは、日本の政治の再生を願うがためである。(ささかわ ようへい)
このブログで笹川氏の記事を紹介するのは二度目です。氏は、「目先のこと、細かいことにとらわれず、大局を見よ。」という主張で一貫している。全くそのとおりである。
マスコミのくだらない、目先のことしか考えない批判に対して、堂々とNO!と言える政治家が登場してほしいものである。