4人が起きた後どうしていたかは憶えていない。
あの人と私が再び触れ合う事は無く、もちろんお互い何も無かったかのように今まで通りに振舞った。
朝になって、バイトのある雪ちゃんをあの人の車でみんなで隣町まで送った。
3連休最終日の朝、走っている車は少なくて、街は静かだった。
雪ちゃんを家まで送り届けて、彼氏の家の前まで帰ってきた。
これであの人は帰るのだろう・・・と私も彼氏も思った。
しかしあの人が突然
「なんか・・・ドライブ行ってこよっかな」
みたいな事をつぶやき、彼氏と私も一緒に連れてってもらえる事になった。
1度車を降りてからドライブ・・・そんな事は、後にも先にもこの1度だけだった。
この頃は彼氏が車を持っていなくて、私も免許を持っていないので、一緒に遊びに行く時はいつもあの人の車に乗せてもらっていた。
席はもちろん、助手席に彼氏、後部座席に私が座る。
この日は彼氏が突然私に
「たまには助手席座っちゃいなよ♪」
と勧めてきた。
(嬉しいけど、なぜこのタイミングで・・・!!)
と内心ビビリまくったけれど、あの人と昨夜何かあったなんておくびにも出せない。
それにあの人の助手席に乗れるのは確かに嬉しい。
だから、座らせてもらった。
ドライブは特に行くあてもなく、主に海の近くを走った。
車通りの少ない祝日朝の通りを、音楽をかけて3人で歌いながら気持ちよく走った。
あの人の車では音楽が沢山聴けるようになっていた
(この車は音楽が沢山聴けるのも売りの1つで、若者に人気がある車種だ)。
当時わりと出たばかりだった、ガガガSPの「野球少年の詩」を何度も聴いた。
後日遊んだ時にもあの人はこの歌をかけて歌っていた。
彼氏もこの歌が好きらしく、何度も聴きたがった。
私もこの歌のサビがいい加減頭に残りつつあったけれど、正直この曲のカップリングの「PLAYER」の方が気になりつつあった(この時は題名を知らなかったけれど)。
でもそれは口に出せず、何度か飛ばされては少し残念に思った。
2人に
「好きなのかけて良いよ」
と言ってもらえたけれど、私は画面のいじり方が分からなくて、それに題名を見ても分からない曲も多くて、そしてなんだか恥ずかしくて曲を選べなかった。
あの人が隣で見てるから、ドキドキしてしまったんだ。
みんなで歌っている時も、歌の歌詞をあまり憶えていない私はしょっちゅう鼻歌だったけれど、でも楽しかった。
ハイロウズの「青春」はリアルタイムでCD買ったから、懐かしかったしほとんど歌えたよ。
ブルハも結構分かったよ。
まだまだあの人の前では恥ずかしがってしまいがちだったけれど、みんなで海岸通りを気持ちよく歌ってドライブ、とても楽しかったよ。
でも、すごく変な感じがした。
だって、あの人と私はもう普通の「彼氏の友達」「友達の彼女」じゃなくなってしまったんだ。
別に先の事を約束した訳じゃない、あの人の気持ちも分からない・・・自分の気持ちさえもよく分からない。
でも、しちゃいけない事をしてしまったんだよ。
そんなあの人と私と、それを全く知らない彼氏が、3人で同じ空間に居て一緒に楽しく過ごしている。
それはすごくおかしな空間に私は感じた。
相変わらずあの人を慕った態度で楽しそうに笑っている彼氏を見ると、胸が締め付けられた。
申し訳無いと思わないはずは無かった。
でも同時に、私はあの人の手や香りが忘れられずに体が疼いていた。
そしてそれを表に出さないように必死になりつつ、同時に、あの人にその気持ちが届けば良いと願っていた。
ドライブの途中で海辺のコンビニに寄った。
彼氏と私が降りて、私はトイレだけ済ませて車に戻ると、彼氏はまだ戻っていなかった。
あの人と2人きり。
あの人と私が2人きりになったのは、前日の飲み会の時(太った女性の話をした時)とこの時しか、確かまだ無かった。
すっごく緊張した。
本当は、もっと触れたかった事を伝えたい、あわよくば誘いたい。
でも、2人きりになってここぞとばかりに昨夜の話を振ったら引かれてしまうような気がして出来なかった。
かといって、何もなかったように振舞うのは色気が無さ過ぎるし、私は無かった事にはしたくない。
この場面であの人に昨夜の話を振る気は無かったので、逆に彼氏には早く帰ってきて欲しかった。
沈黙が続いたりしたら気まずいから・・・
気まずくなってもうあの人と遊びの場で会えなくなるのは嫌だったし、正直そんなのめんどくさいという気持ちもあった。
どうしよう・・・と思っていると、あの人が話しかけてきた。
なんて事はない、コンビニの入り口でうろうろしているおじさんの話題だ。
「何してるんだろうね」
「ね。釣りに行く人かな」
会話したのはそれだけ。
でも、あの人と2人きりになった事があまり無いから、2人で普通の会話を交わすだけでもなんだか新鮮だった。
いつものふざけた感じじゃない普通の会話を、2人だけで。
普通の事のようで、新鮮だった。
そこで彼氏が帰ってきた。
カップに入った小石を模したチョコレートを買ったらしく、私の手のひらに少し広げて
「前の2人で食べてね」
と言ってくれた。
私はなんだか照れくさくて、車が走り出してからしばらく運転席に向かって中途半端に手を差し出していた。
そしてどの位のペースで食べていいのかまで、涼しい顔をしてかなり気にしていた。
(あの人は痩せているからあまり甘いものは食べ無そう・・・
でも私ががっついたら「だから太るんだよ」って思われそう・・・それはイカン・・・
でも普通に食べたいし、あまり食べないといらないみたいでせっかく沢山分けてくれた彼氏を悲しませちゃう・・・)
普通に振舞う事が、普通じゃなく難しかった。
そして、ついに彼氏の家に帰り着いた。
あの人は私達を降ろして、今度こそ家路についた。
彼氏と2人で
「楽しかったけど疲れたね」
「眠いね」
と口々に言いながら彼氏の部屋へと帰った。
いつも過ごしている彼氏の部屋。
そこには、昨日あの人と触れ合った布団がある。
もう、今までと同じ光景じゃなかった。
ここにいる私も、もう今までの私とは違ってしまったんだ。
彼氏は夜だったか朝方だったかから、風邪気味だと言っていた。
遊んでそれがひどくなってしまい、頭痛や体のだるさを訴えて、暑いからとクーラーを付けながらも横になっていた。
私も体は疲れていたけれど、本当は眠くなんかなかった。
あの人に中途半端に触れられた体が、疼いて疼いて仕方が無かったからだ。
このままじゃいられない。
私はあの人と連絡を取る決心をした。