アリス……無事で居てくれ……。
恐ろしいほど、みんなバラバラだった。
ラグナはどこかへ消え。
スカーはアリスを探しに。
アリスは夏樹と死闘を繰り広げ。
バーナードもどこかへ消え。
アンジェは情報収集。
龍は神隠し。
ルウは二人の若巫女に出会い……。
スカーは恐ろしい胸騒ぎに襲われ、暗い雑木林を駆け抜けた。
空が白みはじめた……時間が、無い。
ラグナに聞いた……生贄は二人必要だという事を。
もし、ラグナがその対象から外れたのだとしたら……もう一人は、誰だ?
こんな事なら、初めからラグナを連れて行けばよかった。
走りながら、数時間前のラグナとの会話を思い出す。
『……スカー、俺の魔力の半分がお前の中にある。だから、俺を捜すときはお前は自分の中の魔力と同じ雰囲気のモノを探し出せばいい。わかったか?」
『了解ッ!』
『俺はしばらく、魔力を感知されないようにする。何かあったらお前に伝えるから、それまで……アリスを、頼んだ』
スカーは目をキッ、と鋭くさせ、スピードを上げた。
この先に、アリスが居る……間違いない。
†第37話『助太刀』
「りゅ……う……?」
ルウは力が抜けたかのように、言葉を発した。
目の前の幼い巫女が抱える鏡に映っているのは、龍以外の何者でもなかった。
「ねぇ!!! 龍は何処!?」
ルウは目の前の少女……春奈の持つ鏡を掴んだ。
その瞬間、ぐにゃりと鏡面がゆがんで、そこから龍の姿が消えた。
なんの変哲も無い鏡に代わった。
「これは貴女が望んだ事。この者は生贄になる。そして、それを変える事はできない」
優拿の言葉に、春奈が小さく頷いた。
ガリッ、と歯軋りをするルウ。
「私はこんな事、望んでなんかいない!!!」
高く、裏返った声が商店街に響いた。
だが、そこを行きかう人々にはそれが聞こえない。
「私は、望んでなんかいないんだ……」
ふいに、ルウの瞳から大粒の涙が零れた。
とうとう耐え切れなくなり、ルウはしゃがみこむ
そんな彼女の姿を見て、優拿と春奈は顔を見合わせただけだった。
そもそも、ルウは現状は愚か、この儀式の事さえ何一つ知らなかった。
けど、『勘』だろうか。
龍が命の危険に立たされている……そういう勘を、ルウは十分すぎるほど備えていた。
だから、何も知らなくたって構わない。
今は、龍を助ける事が先決だとルウは直感でわかっていた。
そしてそれが、自分の所為だという事も。
「返してよ……私が生まれて初めて、好きになった人なの……」
「なら、貴女が代わりになる?」
ルウは、涙でびしょ濡れになった顔を上げた。
「え……?」
「貴女が代わりになる?」
優拿が再び尋ねた。
―――代わり……。
できるなら、なりたい。
自分の所為で龍が死ぬなんて、許せない。
けど、龍はそれを望んでくれるだろうか。
もし、自分が龍の立場だったとき、私は龍を死なせる事ができるだろうか。
答えは、否。
どちらかしか生きれないなんて理不尽な選択、あってたまるか。
一緒に生きて初めて、『生きる』ことを実感できるのではないのか?
たとえ結果的に、死ぬ事になろうとも……。
何もしないなんて、ありえない。
「私は生贄になる気は無い。龍にも、ならせる気は無い。ここで私は、貴女達を救う!」
(!? ……私いま……『救う』って……?)
おなかが痛い。
膝が痛くて立ち上がれない。
頭が痛い、くらくらする。
手が痛い……攻撃が出来ない……。
アリスは、目に見えない苦痛を強いられていた。
出血は無い、骨が折れてるわけでもない。
ただ、『痛み』だけがそこに張り付いたように……。
アリスは、大木の幹にもたれていた。
戦いを始めて2時間……動く力は残っていなかった。
うっすり開かれた瞳に、巫女がぼやけて見える。
その時実感した。
「……あたし、負けたんだ……」
その声は、絶望しているような、泣いている様な、自分の負けを認めているような、そんな声だった。
目が痛い。
魔法は呪術に負けるの?
悪魔を倒す力じゃなかったの?
魔法は人間や悪魔にだけ……?
化け物なら、そこらじゅうに溢れているのに……。
皮肉だよ。
世の中、こんなに平和が無いなんて。
修学旅行ぐらい、楽しく過ごさせてよ。
先生達だって、そう思ってこの修学旅行を企画してくれたんだから。
アリスを見下していた夏樹が、彼女に一歩近づいた。
そして、また一歩。
「素直に、生贄になれ」
アリスは力なく笑った。
「は……い……そうです……か………なんて……言うわけ………無ェだろー……が……っ」
シャラン、と夏樹の鈴が鳴った。
シャラン、シャラン、シャラン……。
目を薄っすらと開けるが、夏樹の鈴は揺れていないから、なっているようには見えない。
じゃあ、この音は……?
ズッガァァァァァン!!!
凄まじい爆音と共に木が吹っ飛んだ。
もくもくと上がる煙の中から、シュンッ、と何かが夏樹の前を横切った。
それを、とっさに夏樹は回避した。
―――斧。
煙の中から何かがひょい、とアリスの肩に飛び乗った。
それは……見覚えのある、可愛らしいハムスター。
「アリスを虐めたら、俺がタダじゃおかねェぞッ!!!」
「ス……カー……?」
―――ポゥ。
スカーがアリスに触れた瞬間、暖かさがアリスに伝わってきた。
それは心理的なものではなく、明らかに肉体的なもの。
「動い……た……?」
動かないと思っていた体。
それが、動いたのだ。
それと同時に、ガラガラガラッ、と倒木の山が崩れ去った。
そして、その中から再び姿を現す夏樹。
「まだ生きてた!?」
「おのれ……!!!」
夏樹の強い殺気に、アリスは身を震わせる。
「アリス、あのね」
「なに? スカー」
「カッコよく助けに来たんだけどさ、俺、何もできないや……」
スカーの言葉に、アリスがぽかーん、と口を開けた。
白夜まで後……1時間。
「くっそ……」
ルウは篭る熱と共に、目の前の少女等に吐き捨てた。
そこに居るはずなのに、触れられない。
「あんたら、何なの?」
ルウがそう尋ねても、少女等は何も言わない。
無表情な顔で、ルウを見つめるだけ。
(あの子達は、実態がある。その証拠に、足元の砂利が動いてる……)
記録する事に関しては優れているルウだ。
けど、まだわからない。
どうして彼女達は自分の攻撃を、すり抜ける事が出来るのか。
ルウは一定の距離をとって考えた。
鋭い洞察力で、何かを発見できるはずだ。
「貴女が私たちを救うのでしょう?」
しばらく静寂が続いた後、優拿が口を開いた。
予想外の言葉に、ルウは目を見開いた。
「それとも、ただのうわ言?」
春奈も、優拿に続けるように言う。
(もしかして……)
ルウはある事実にたどり着いた。
そして―――
「私を龍のところに連れて行って!!!」
「……二人、揃ったな」
その言葉に、アリスとスカーは顔を上げた。
そして、鋭い目つきで相手をにらむ。
倒木を掻き分けて、しかも無傷で出てきた夏樹が、そう言ったのだ。
その言葉に、アリスは口元をゆがめる。
「私もラグも、テメェになんかやられねェよ!!!」
「そうだ! やられるわけがねェ!!!」
だが、夏樹は二人の大声をものともしなかった。
「ぬしらの事ではない……。ククク、白夜まで後30分程度かのう?」
「ちょっと!!! あたし達のことじゃないって!?」
アリスは叫んだが、夏樹はどこかへと消えてしまった。
とりあえず、昨日見た予知夢の絵を確認するために、自分の部屋へ。
「スカー……」
「なに……?」
「ルウを最後に見たの、いつ……?」
「俺は……初日、ロビーで……。アリスは?」
「あたしは、予知夢見るまで」
つまり、この丸一日。
誰もルウに会う事も無く、ルウが居ない事に気づかず、そして不審に思わなかった。
「スカー……!!!」
アリスは壁の絵を指差した。
昨日の夜、アリスが予知したものだ。
「これね、あたしとラグだったのに……」
壁に描かれていたのは、茶とピンク髪の魔法使い。
―――遺跡
エデンを追って走るクライ。
たどり着いたのは、一番小さな遺跡の最奥。
そこには、魔王の『魔力』が封じられていた。
「これさえ手に入れれば、僕は……!」
「エデン!!!」
「!?」
封印の壺を開けようとするエデン。
何故、彼はここまで力を求めるのだろうか?
「そんなモノ手に入れて、何する気!?」
「決まってるじゃないか!!! 月詠家に、この魔力を提供するんだ! そうすれば……僕の母さんは、救われるから!!!」
涙を浮かべて叫ぶエデン。
そう、彼の母親はいま、難病で苦しみ、入院中だ。
それも、4年前から。
そんな彼に、『月詠家』なる者が声をかけてきた。
『ラグナ・ウィング』、『アリス・フォーチュンシンガー』を連れ去って来いという命令だったが、此処の魔力なら二人を連れ攫わなくてもいいだろう。
クライの必死の説得にも動じないエデン。
そんな彼に、凄まじい殺気が伝わってきた。
『汚ラワシキ人間ガ……我ニ触レルデナイ……』
「え? え?」
あたりをキョロキョロと見回し、誰かの気配を探る。
だが、何も感じない。
恐る恐る、自分の手元を見ると……そこには、暗黒の世界が広がっていた。
「うわぁっ!」
驚き、魔王の魔力が封じ込められた壺を手から離した。
すぐに台座の上へとおく。
「何だよ……こんなの……こんなの、聞いてないぞ……!!!」
ガタガタと震えながら、しりもちをつくエデン。
その背後から、先ほど聞いた声と良く似た声が聞こえてきた―――
「―――ただの人間が、ソレに触れんじゃねェよ」
二人が声の聞こえた方を見ると、そこには先ほど見た銀髪の少年が。
禍々しい殺気を身に纏い、祠の入り口にもたれかかっていた。
「ラグ……ナ……さん……?」
つづく





