アリス……無事で居てくれ……。

恐ろしいほど、みんなバラバラだった。
ラグナはどこかへ消え。
スカーはアリスを探しに。
アリスは夏樹と死闘を繰り広げ。
バーナードもどこかへ消え。
アンジェは情報収集。
龍は神隠し。
ルウは二人の若巫女に出会い……。


スカーは恐ろしい胸騒ぎに襲われ、暗い雑木林を駆け抜けた。
空が白みはじめた……時間が、無い。
ラグナに聞いた……生贄は二人必要だという事を。
もし、ラグナがその対象から外れたのだとしたら……もう一人は、誰だ?
こんな事なら、初めからラグナを連れて行けばよかった。
走りながら、数時間前のラグナとの会話を思い出す。


『……スカー、俺の魔力の半分がお前の中にある。だから、俺を捜すときはお前は自分の中の魔力と同じ雰囲気のモノを探し出せばいい。わかったか?」
『了解ッ!』
『俺はしばらく、魔力を感知されないようにする。何かあったらお前に伝えるから、それまで……アリスを、頼んだ』


スカーは目をキッ、と鋭くさせ、スピードを上げた。
この先に、アリスが居る……間違いない。







†第37話『助太刀』




「りゅ……う……?」


ルウは力が抜けたかのように、言葉を発した。
目の前の幼い巫女が抱える鏡に映っているのは、龍以外の何者でもなかった。


「ねぇ!!! 龍は何処!?」


ルウは目の前の少女……春奈の持つ鏡を掴んだ。
その瞬間、ぐにゃりと鏡面がゆがんで、そこから龍の姿が消えた。
なんの変哲も無い鏡に代わった。


「これは貴女が望んだ事。この者は生贄になる。そして、それを変える事はできない」


優拿の言葉に、春奈が小さく頷いた。
ガリッ、と歯軋りをするルウ。


「私はこんな事、望んでなんかいない!!!」


高く、裏返った声が商店街に響いた。
だが、そこを行きかう人々にはそれが聞こえない。


「私は、望んでなんかいないんだ……」


ふいに、ルウの瞳から大粒の涙が零れた。
とうとう耐え切れなくなり、ルウはしゃがみこむ
そんな彼女の姿を見て、優拿と春奈は顔を見合わせただけだった。
そもそも、ルウは現状は愚か、この儀式の事さえ何一つ知らなかった。
けど、『勘』だろうか。
龍が命の危険に立たされている……そういう勘を、ルウは十分すぎるほど備えていた。
だから、何も知らなくたって構わない。
今は、龍を助ける事が先決だとルウは直感でわかっていた。
そしてそれが、自分の所為だという事も。


「返してよ……私が生まれて初めて、好きになった人なの……」
「なら、貴女が代わりになる?」


ルウは、涙でびしょ濡れになった顔を上げた。


「え……?」
「貴女が代わりになる?」


優拿が再び尋ねた。

―――代わり……。
できるなら、なりたい。
自分の所為で龍が死ぬなんて、許せない。
けど、龍はそれを望んでくれるだろうか。
もし、自分が龍の立場だったとき、私は龍を死なせる事ができるだろうか。
答えは、否。
どちらかしか生きれないなんて理不尽な選択、あってたまるか。
一緒に生きて初めて、『生きる』ことを実感できるのではないのか?
たとえ結果的に、死ぬ事になろうとも……。
何もしないなんて、ありえない。


「私は生贄になる気は無い。龍にも、ならせる気は無い。ここで私は、貴女達を救う!」
(!? ……私いま……『救う』って……?)






おなかが痛い。
膝が痛くて立ち上がれない。
頭が痛い、くらくらする。
手が痛い……攻撃が出来ない……。
アリスは、目に見えない苦痛を強いられていた。
出血は無い、骨が折れてるわけでもない。
ただ、『痛み』だけがそこに張り付いたように……。
アリスは、大木の幹にもたれていた。
戦いを始めて2時間……動く力は残っていなかった。
うっすり開かれた瞳に、巫女がぼやけて見える。
その時実感した。


「……あたし、負けたんだ……」


その声は、絶望しているような、泣いている様な、自分の負けを認めているような、そんな声だった。
目が痛い。
魔法は呪術に負けるの?
悪魔を倒す力じゃなかったの?
魔法は人間や悪魔にだけ……? 
化け物なら、そこらじゅうに溢れているのに……。
皮肉だよ。
世の中、こんなに平和が無いなんて。
修学旅行ぐらい、楽しく過ごさせてよ。
先生達だって、そう思ってこの修学旅行を企画してくれたんだから。

アリスを見下していた夏樹が、彼女に一歩近づいた。
そして、また一歩。


「素直に、生贄になれ」


アリスは力なく笑った。


「は……い……そうです……か………なんて……言うわけ………無ェだろー……が……っ」


シャラン、と夏樹の鈴が鳴った。
シャラン、シャラン、シャラン……。
目を薄っすらと開けるが、夏樹の鈴は揺れていないから、なっているようには見えない。
じゃあ、この音は……?


ズッガァァァァァン!!!


凄まじい爆音と共に木が吹っ飛んだ。
もくもくと上がる煙の中から、シュンッ、と何かが夏樹の前を横切った。
それを、とっさに夏樹は回避した。


―――斧。


煙の中から何かがひょい、とアリスの肩に飛び乗った。
それは……見覚えのある、可愛らしいハムスター。


「アリスを虐めたら、俺がタダじゃおかねェぞッ!!!」
「ス……カー……?」


―――ポゥ。


スカーがアリスに触れた瞬間、暖かさがアリスに伝わってきた。
それは心理的なものではなく、明らかに肉体的なもの。


「動い……た……?」


動かないと思っていた体。
それが、動いたのだ。
それと同時に、ガラガラガラッ、と倒木の山が崩れ去った。
そして、その中から再び姿を現す夏樹。


「まだ生きてた!?」
「おのれ……!!!」


夏樹の強い殺気に、アリスは身を震わせる。


「アリス、あのね」
「なに? スカー」
「カッコよく助けに来たんだけどさ、俺、何もできないや……」


スカーの言葉に、アリスがぽかーん、と口を開けた。
白夜まで後……1時間。






「くっそ……」


ルウは篭る熱と共に、目の前の少女等に吐き捨てた。
そこに居るはずなのに、触れられない。


「あんたら、何なの?」


ルウがそう尋ねても、少女等は何も言わない。
無表情な顔で、ルウを見つめるだけ。


(あの子達は、実態がある。その証拠に、足元の砂利が動いてる……)


記録する事に関しては優れているルウだ。
けど、まだわからない。
どうして彼女達は自分の攻撃を、すり抜ける事が出来るのか。
ルウは一定の距離をとって考えた。
鋭い洞察力で、何かを発見できるはずだ。


「貴女が私たちを救うのでしょう?」


しばらく静寂が続いた後、優拿が口を開いた。
予想外の言葉に、ルウは目を見開いた。


「それとも、ただのうわ言?」


春奈も、優拿に続けるように言う。


(もしかして……)


ルウはある事実にたどり着いた。
そして―――


「私を龍のところに連れて行って!!!」




「……二人、揃ったな」


その言葉に、アリスとスカーは顔を上げた。
そして、鋭い目つきで相手をにらむ。
倒木を掻き分けて、しかも無傷で出てきた夏樹が、そう言ったのだ。
その言葉に、アリスは口元をゆがめる。


「私もラグも、テメェになんかやられねェよ!!!」
「そうだ! やられるわけがねェ!!!」


だが、夏樹は二人の大声をものともしなかった。


「ぬしらの事ではない……。ククク、白夜まで後30分程度かのう?」
「ちょっと!!! あたし達のことじゃないって!?」


アリスは叫んだが、夏樹はどこかへと消えてしまった。
とりあえず、昨日見た予知夢の絵を確認するために、自分の部屋へ。


「スカー……」
「なに……?」
「ルウを最後に見たの、いつ……?」
「俺は……初日、ロビーで……。アリスは?」
「あたしは、予知夢見るまで」


つまり、この丸一日。
誰もルウに会う事も無く、ルウが居ない事に気づかず、そして不審に思わなかった。


「スカー……!!!」


アリスは壁の絵を指差した。
昨日の夜、アリスが予知したものだ。


「これね、あたしとラグだったのに……」


壁に描かれていたのは、茶とピンク髪の魔法使い。






―――遺跡

エデンを追って走るクライ。
たどり着いたのは、一番小さな遺跡の最奥。
そこには、魔王の『魔力』が封じられていた。


「これさえ手に入れれば、僕は……!」
「エデン!!!」
「!?」


封印の壺を開けようとするエデン。
何故、彼はここまで力を求めるのだろうか?


「そんなモノ手に入れて、何する気!?」
「決まってるじゃないか!!! 月詠家に、この魔力を提供するんだ! そうすれば……僕の母さんは、救われるから!!!」


涙を浮かべて叫ぶエデン。
そう、彼の母親はいま、難病で苦しみ、入院中だ。
それも、4年前から。
そんな彼に、『月詠家』なる者が声をかけてきた。
『ラグナ・ウィング』、『アリス・フォーチュンシンガー』を連れ去って来いという命令だったが、此処の魔力なら二人を連れ攫わなくてもいいだろう。
クライの必死の説得にも動じないエデン。
そんな彼に、凄まじい殺気が伝わってきた。


『汚ラワシキ人間ガ……我ニ触レルデナイ……』
「え? え?」


あたりをキョロキョロと見回し、誰かの気配を探る。
だが、何も感じない。
恐る恐る、自分の手元を見ると……そこには、暗黒の世界が広がっていた。


「うわぁっ!」


驚き、魔王の魔力が封じ込められた壺を手から離した。
すぐに台座の上へとおく。


「何だよ……こんなの……こんなの、聞いてないぞ……!!!」


ガタガタと震えながら、しりもちをつくエデン。
その背後から、先ほど聞いた声と良く似た声が聞こえてきた―――


「―――ただの人間が、ソレに触れんじゃねェよ」


二人が声の聞こえた方を見ると、そこには先ほど見た銀髪の少年が。
禍々しい殺気を身に纏い、祠の入り口にもたれかかっていた。


「ラグ……ナ……さん……?」


                 つづく

ラグナは目を覚ました。
そこは、冬の景色よりも遥かに真っ白で……自分が横たわっている、フカフカのベッドさえも白かった。
真っ白いカーテンに包まれた、真っ白いベッド。
ラグナはその眩さに、思わず目を細めた。
そのとき「シャッ」と乾いた音がして、カーテンが横に引かれた。
見慣れたアメジスト色にラグナは安堵する。


「アンジェ、ここは……?」


まだ少し軋む頭を抑えながら、アンジェに聞いた。
その時初めて、負傷した左腕が丁寧に治療されていた事がわかった。

「図書館の職員専用の寝室だってさ」

なんで……、と言いかけたラグナの目に、アンジェの隣の二人の生徒が映った。
シヴァとガイアの生徒。
確か……クライ・レーベルと、エデン・サートルトだっけ。







†第36話『迫り来る白夜』







「……お前、あん時の……」


頭を抑えつつも、クライをにらみつけた。
そう、修学旅行の前日、買い物に行ったとき……いきなり、自分達を襲ってきた張本人だ。
だが、あの時と雰囲気も何もかもが違う。
まるで、あの時と別人かのような……。


「え、えっと、その……」


もじもじしながらクライが申し訳なさそうに呟いた。
明らかに、あの時の少女とは違う。
命を狙うような奴には見えない。


「信じてくれないかもしれませんけど……私たち、気がついたらここに居て……それと、数日前と今迄の記憶が全部なくて……。エデンが言うには、私がラグナさん達の命を狙って。エデンも利用しようとしてたって……本当にゴメンなさい!」
「……」


戸惑いながら言う二人に、ラグナが口を開いた。


「なぁ、お前等。クライの方は記憶無ェみてェだけど……エデンは?」


ラグナが問うと、エデンは俯いた。
何か隠し事があるのだろう……彼は一瞬で、ソレを察した。
アンジェも、同じ事を考えているようだ。


「……エデン君、だっけ? ……さっきから私の顔チラチラ見てくるけど、何かついてる?」
「い、いや、それは……その……」


突如おどおどし始め、しきりに爪を噛み始めた。
動揺している証拠だ。


「どうした? 言いてェ事があんなら言えよ、素直に。それとも……何かいえない理由でもあんのか?」


ラグナの質問に、エデンは更におどおどし始めた。
そして、ラグナがもう一度質問しようとした瞬間……彼は、逃げ出した。


「あ、おい!」


ラグナが立ち上がって走り出そうとするが、体が思うように動かない。
頭がフラフラする……まだ、熱が残っているのだろう。


「ラグナはここに居て。私が行くから!」
「わ、私が行きます!」
「でも……」
「もし、裏切ったりしたら……私を殺しても構いませんから! お願いします、行かせてください!」
「……わかった。その代わり、ちゃんと戻ってきて」
「はい!」


渋々アンジェがオッケーし、クライは走り出した。
エデンをおいかけて。
命を賭ける、と言ったのだ……アンジェに彼女を引き止める理由は無い。


「とにかくさ……先生にこの事話して、修学旅行中止した方が……嫌だけど、そうするしか……」
「絶対嫌だ」


アンジェが悲しげに言った直後、すぐさま応答した。
確かに、彼女の言うとおり沖縄を出るのが最善の策だ。
でも、ラグナは悔しかった。
あの二人の巫女に、ボッコボコにされた事。
自分が魔法に、頼りすぎていた事。
何よりも、魔法が使えない自分が、こんなにも弱かったという事。
自分自身に苛立っていた。


「……アンジェ。すぐにここの図書漁って、『優拿』と『春奈』って名前、探してくれ」
「え……? いいけど……なんで?」
「アイツらが……何者か、知るためにだ」


アンジェにそういうと、ラグナは窓に身を乗り出した。
カーテンが優しく揺れた。
空が白みかける。
そして……殺気を込めた声で、小さく呟いた。


「……始末させてもらうぜ」


白夜まで、後3時間……




「クッ……!」


圧されているとは言えないが、明らかにアリスはてこずっていた。
悪魔を倒すための力『魔法』の相手は悪魔ではなく、呪術だったからである。
アリスと夏樹が対戦を始めて早1時間が過ぎた。
彼女が呪文を唱えるたびにアリスに巻きつく呪印に、アリスは成す術が無かった。
アリスは、呪術に対してなんの対策も取れないのである。
アリスは不利だ、といえばそれも不確かなもの。
夏樹にとっても『魔法』というものは彼女にとっても不確かなもので、成す術を知らない。
故に、お互いは戦闘を繰り広げている。
ただ、どちらも『防御』というものができない。
つまり、どちらが痛みに耐え忍べるか、というとても不釣り合いな戦いとなってしまったのだ。


「お前はあたしやラグを……何が目的なんだ?」


口から滴る自分の血液を服の袖でぬぐい、夏樹に言い放った。


「どうして? それはお前達が生贄として選ばれたからだ。神魔様にお迎えするのだ」


偶々いろんな種類の魔法を使えるだけで『実験体』に選ばれたり、『未来予知』を扱えるフォーチュンシンガー家に生まれたり(アリスが唯一の生き残り)、今度は生贄に選ばれるのか。
どれだけ『アリス』という名が入った当選箱がこの世に存在するんだ。
もうこりごりだ。
もしかしたら次はスーパーマンに選ばれたりするとでも言うのか?
そんな怒りが、とうとう爆発した。


「生贄? ッハ、ざけんじゃねェよ、このカスが。アタシがなんでテメェの妄想で信仰しているバカの為に死ななきゃいけねーんだよ? マジありえねェし。ナマ言ってんじゃねェぞ? 調子乗ってっと、マジでボコるかんな?」


ゴトッ、という奇妙な音がして、アリスはとっさに後ろを振り向いた。
そこには、顔を蒼白くしたバーナードが突っ立っていた。


「わ、バーナード!!! 今の嘘だからね!!! 相手をひるませる戦術だからァァァァァァ!!!」


バーナードは数歩後ろに下がり、コクコクと頷いた。
汗だくになり、その場から立ち去るバーナード。
残ったのは、アリスの絶望のみ。


「テメェの所為で……よくも……!!!」


怒りの矛先が異国の巫女へと向けられた……。
白夜まで、残り2時間半……。






さっきの声はなんだったんだろう……。
ルウは居たたまれなくなって、龍を探しにホテルを出た。
数分前に聞こえた少女達の声。
嫌な予感がする……。
ルウのケータイはつながらない。
ラグナも居ない……。
アリスも居ない……。
一体、何が起こっているの……?


ルウは商店街を走り抜けた。
右も左も、自由時間を過ごす魔法学校の生徒達がいっぱいだ。
それなのに、一番会いたいあの人が居ない。
ルウは不安な気持ちを抑えて、ただ、ただひたすらに走った。
龍がキスしてたからって何だって言うんだ。
アレが龍の意志なわけないじゃんか。
きっと、いや、絶対向こうからしてきたに決まってる。
別にキスなんてどーでもいいじゃんか。
大事なのは、「好きだ」っていう気持ち。


疑っちゃ駄目だ。
不安と疑うのは違う。
信じないと……、龍はきっと私のこと、信じてくれてる。
ルウはそこでピタッ、と足を止めた。
二人の少女が人ごみの中に。
まるで、そこだけが違う空間かのように少女等の周りだけ、時が止まっているようだった。


「封じたよ」


優拿がボソリと言った。
ただ、それは小さな小さな声だったのに、凄い人ごみの中で、ルウの耳にしっかりと響いた。
春名が鏡を取り出し、それをルウに見せる、


「貴女が呪う者はここにいる」


両手ほどの丸い鏡に、茶色い髪が揺れていた……。




                   つづく


「うるあぁぁぁぁぁぁ!!!」


ガインッ、と無様な音がしてラグナの右手を縛っている拘束具を破壊した。
正確に言えば、左手首を破壊して、「すりぬけた」というべきだろう。
腕が不気味な音を立ててありえない方向へ曲がったが、それと同時に神経も切れたようで。
それ以上に痛みが無かったのが唯一の救いだっただろう。
そして人の手とは思えないぐらいに歪み、腫れ上がった腕で祠にあった鉈(なた:巨大な包丁のような刃物)に手を伸ばした。
それを使えなくなった左腕で何とか手繰り寄せ、やっとの事で右手の拘束具を破壊する事ができた、という事だ。
しばらく拘束されていたためか、身体が思うように動かない。
それでもラグナはとりあえず祠から這い出た。
そして、鳥居を出たところで呟く。


「……スカー」


鳥居を出れば結界から出た可能性が高い、とラグナは推測した。
それに、スカーの速さであれば、自分の無事を皆に伝える事も可能だ。
しかし……スカーは自分とアリス以外の人間とは話さないので、まず最初にアリスに知らせなければ。
それにしても、外は明るい……。
自分が捕らえられてから、一日ほど経ったのだろうか。
そういえば、額を覆っていた布を取るのを忘れていた。
バサッ、と外すと、自分の左腕を見つめた。

完全に折れている……。

命には代えられない、とラグナは思っていたが、まさか体術を得意とするラグナにとって最大の武器の腕を奪われるとは……。
自分に呆れたように、ラグナが苦笑した。


「絶対、アイツらボコってやらァ……!!!」


微かな足音を感じ、ラグナは南を向いた。
シュンッ、と音がして、スカーはラグナの肩に飛び乗った。


「心配した」


蚊の鳴くような、小さな声でいうスカーにラグナは「俺の心配なんざ100年早ェよ」と、囁いた。
ただ、今回は自分でも危なかったな、と思った。


「腕、折れてるぞ……つーか、砕けてる」
「大丈夫大丈夫。それよりスカー、これからアリスを探しに行ってくれ。必要とあれば、守ってやってくれ。安心しろ、俺は魔法使えねェけど、魔力半分ぐれェわけてやっから。な?俺の魔力半分ぐれェあれば、敵が悪魔でもランクCまでは蹴散らせるだろ」
「え?」


と、スカーは尋ねる。
ラグナは夏樹(というらしい)巫女に狙われている。
それも『儀式』と称して呪い殺されるのだ。
一緒に居た優拿と春奈も気になっていたが、(ラグナの予測だとあの二人は人間ではないのだろう)今はアリスの安全が第一だった。
自分と同じく、彼女も命を狙われているのだから。


「スカー、この島に呪い、または儀式があるとしたらどうやって調べりゃ良いと思う?」
「んー……やっぱ書物だろ。ネットより、古い書物の方が調べたい事が載ってる場合もあるしな。この先に図書館があっから、そこ行けばいいだろ」
「図書館、か……サンキュ!」


スカーに礼を言い、図書館へと走り出した。
生憎、ケータイは部屋にあるカバンに入れっぱなしだ。


―――ホテル―――


「……龍のばかぁ……死んじゃえ……」


泣きながら呟くルウ。
もう、何時間泣いたのだろうか。
気がつけば、既に朝の4時。
二日目の見学は、行かなくてもOKだそうだ。
サディークやセナトゥは、ラグナが居ない事をずっと気がかりに思っていたが……渋々、見学に出かけた。
そんな彼女に、声が聞こえた。


『……ならば、その者を神にささげよう……』
『代わり身としよう……』


「え……?」






†第35話『選ばれた者』



「お前、誰だ?」


ホテルから遠く離れた森林で、アリスが聞いた。
ホテルで戦うのはマズいと思ったからだ。
それに、この質問はしても無意味という事を彼女は知っていた。
さっき予知夢で見たのはこいつ、だという事を。


「我にその様な小賢しい姿隠しは通用せぬ」
「ま、知ってたけど」


そういうと同時に、帽子などの変装道具を脱ぎ捨てる。
風に揺れる美しい金髪……。
朝日に照らされ、赤と黄色のオッドアイが一段と眩く見えた。


「そうだよ、あたしがアリス・フォーチュンシンガー。お前が呪おうとしてる張本人だったり」


余裕たっぷりの表情で言うが、相手は全くの無表情。
そして、ラグナに言ったのと同じ言葉を発する。


「ぬしは罪を犯したな」


もちろん、ラグナも同じ台詞を言われているとは、アリスは知る由も無いのだが。


「そうかもな。でもみすみすつかまるわけにもいかないっしょ? ここでお前を倒して、ラグを返してもらう。テメェがアイツを拘束してること、知ってんだからな」


ラグナが2時間ほど前に脱走した事も、もちろん彼女は知るわけが無い。
知っていたら、完全に超能力しゃか何かだろう。
『未来予知』など、そう容易く起こるものではないのだから。


「それよりさ、あたしの最初の質問に答えてよ」


アリスは右腕に電気を纏わせ始めた。


「夏樹。この島を守りし巫女」




「よし、ラグナの位置確認」


何気にラグナを捜していたバーナードとアンジェ。
そして、やっとス亜k-を発見したのだった。
ラグナが消えて、1日半過ぎた昼の事だった。
もう彼らには修学旅行どころの問題ではないのだ。


「よいしょっ、と!」


木の幹をけって着地したところはどうやら神社の社の前だった。


「ここ……なんですか?」
「うん、間違いな―――」


そう言いかけたアンジェの前を、何かが横切った。
それを目に見えぬ速さでアンジェは掴んだ。
バーナードもそれを覗き込む。


「えっと……ラグナのペットの燻製肉星?」
「あぁ、あのハムスター……」


よく見ると、スカー(燻製肉星)の首には紙がくくりつけてある。
それをビリッ、と引き剥がすと、スカーは再びどこかへと走り去っていった。
二人はとりあえず、ラグナが残したと思われる情報を見た。


「……ヤバいですね。早く捜さないと……」




時刻は4時を回った。
南国の沖縄の中にあるこの街は未だに太陽が高い。
故に、人通りだって耐えない。
女子2名と一緒に街を歩いていた龍は後ろからその袖を引かれて振り向いた。
だが……誰も居ない。
龍はまた歩き出そうとして少し視線を下に向けたとき、そこに二人の少女が居る事に気づく。


「……誰だ?」


二人は優拿と春奈だが、龍は知らない。
少女達は龍の袖を引いたまま無表情で彼を見上げていた。


「何か用―――」
「ぬしが龍と呼ばれし者か?」


龍と一緒に居た女子も気づいて戻ってきた。


「龍君? その子誰?」
「俺が龍だ。何で俺の事知ってる? 俺はアンタらに会った覚えは無いんだが」


龍は知らない少女らに首をかしげる。
少女二人はお互いに顔を見合わせて、何かを呟き始めた。


「鄭嘹稀癒徽萎孋」


彼女の口から発した言葉は、かつて世界を回っていた龍にとって理解できない言葉だった。
ぐにゃり。
龍は一瞬、めまいで倒れそうになり、やっとこさ体を支えた。
そして目を開けたときはもう、活気のある商店街は消えていた。


「どこだ……? 神社の社……?」

『白夜まで、あと7時間』

そんな声を、龍は聴いたような気がした。








ラグナは歩道を走っていた。
図書館が見えてきた……もうすぐだ、そう思い、更にスピードを上げる。
赤信号にもかかわらず、ラグナは足早に道路を渡った。
そこを右に曲がったところに、図書館はあった。
かなり古い図書館。
もってこいだ、とラグナは思った。
古ければ古いだけ、古くからの資料が図書館に存在するのだ。
現に、6年前に出来た魔法学校には最新の図書しかおいていない。
ラグナは猫のように塀を飛び越え、着地する。
同時に左腕を地面について体を支えた


「痛っ……」


ラグナは適当に包帯を巻いた左腕を見た。
右腕の1.5倍くらい太くなっている。
痛みも感じるようになった。


「時間が無ェな……」


彼の経験からして、折れた骨に痛みを感じるようになったら瞬時に熱が出る事を知っていた。
心拍音が大きく聞こえてきたのが証拠の様だ。
視界も段々悪くなってきた。
見えるものが歪んできたのは、彼が図書館の中に入ったときだった。


「こんなトコで……」


ふいに、視界が真っ白になって体の力がふっ、と抜けた。


「危ないなぁ」


ラグナは誰かに支えられ、床に体を打ち付ける事は防がれた。


「……アンジェ?」


力ない声で、目の前の少女の名を呟く。


「あらら、腕こんなにしちゃって……。まぁ、大体の事はラグナの手紙のお陰でわかったよ。バーナードは今、アリスの援護に行ってる」
「そっか……って、俺もう駄目だわ……」


そこでラグナは意識を手放した。
アンジェはため息をつくと、彼を抱えて立ち上がろうとした。
……と、そのときだ。


「ちょっと!!!」

いきなり聞こえた女子の声に、アンジェは振り向いた。


「その子、どうしたんですか!? 早くこっちに!!!」


女子と男子が、図書館の広間に案内してくれた。
アンジェは前方を歩く少年少女の背を見つめた。

(……ガイアとシヴァの生徒? 遺跡に見学行ってないのか……)


                    つづく

「……痛ェ」


ラグナは軽く打撲した額をさすった。
先ほどアリスに呼ばれて振り返った途端、階段から落ちてこのザマだ。
しかも転がった勢いで、そのまま半開きになってた部屋に突っ込んでしまった。
その部屋は真っ暗で、カーテン越しに月の光が差し込んでやっと部屋の内部が少し照らされるような場所だった。
手元もよく見えなくて、ラグナは手探りで部屋のスイッチらしきものを見つけ、ポチッとソレを押した。


パチッ


「!?」


目にした光景に目を丸くする。
そこには、白い壁一面に張り巡らされた―――呪符。


「なんだ……? コレ……」


ラグナはそこを立ち去ろうとしたが、何かとてつもなく大きい力に押さえつけられた。
どこからか声が聞こえる……。
部屋の隅々まで響き渡り、低い声。


「お前は罪を犯したな」
「誰だ?」


ポツリ、ポツリ、と歩く音が聞こえる。
だんだんと、何者かが歩いてくる。
その手にロウソクを持って。
やがて、その者が姿を現した。


「お前は罪を犯したな」


それは、人の仮面を被った……鬼。
次の瞬間、ラグナの意識は……なくなった。








†第34話『生贄』





その頃、アリスは二回目の予知夢を見た。
すぐさま起き上がり、アリスはニット帽をスーツケースから引っ張り出し、深々とかぶった。
その姿をクローゼットの裏の全身鏡で見た。
2房の金色。
それは、修学旅行の前にイトー○ーカドーでラグナに買ってもらったエクステだ。
それを装着すると、アリスは満足そうに微笑みんだ。

あたしが何をしているかって?

『正体隠し』。

またの名を……『変装』。












ラグナは、身体に電撃が走ったかのような衝撃で意識を取り戻した。
起き上がろうとしたが、「ジャラ」と低い音を立てる鎖に自由を奪われていた。
手も、足も動かない。
その上、額の目も何かで覆われていた。
元々隠していたのだが。
ラグナは、抵抗が不可能だと言う事を悟ると、その場にとどまった。
魔法が使えないのであれば、今の自分は通常の人間の2倍ほどの力。
通常の鎖よりも硬いこの鎖は、人間の力だけではちぎれない。


「……俺が犯した罪って? 結構あっから、わかんねェや」


ラグナは、自分に近づいてくる不思議な気配に神経を尖らせた。
にらみを利かせ、相手に問う。


「人を殺める事、それは禁忌」
「人を殺めるっつったって……俺は別に、人間は殺してねェぞ?」
「殺めたであろう? 己が母を」
「……チッ」


忘れようとしていた、過去。
かつて、自分の力が暴走し、それを止めようとして母親は死んだ。
あの忌々しい記憶。
それを、こんな奴等に掘り返されるなんて。
ポツリと姿を現したのは暗闇に浮かび上がるロウソク。
そして、巫女。
色白で美しい髪をした若い女。


「この場所は聖なる地、人を殺めし者は我が術により地に還す」


簡単に言えば、「お前を呪殺する」か。
そんなの願い下げだ。
旅行先で死ぬなんて、まっぴらごめんだっつの。


「神魔様のもとで償うがいい」


神魔様、か……。
コイツらにとって、神様的なもんなんだろーな。
ま、そんなめんどくせェもん、知りたくもねェけど。


「はいはい、それで? 何か言いたい事で―――」


めんどくさそうにラグナがいおうとした声が無に消えた。
巫女が胸の位置で印を組んでいる……。
何かの術だろうか。


「問答無用」


理不尽だな、とラグナは思った。
問題なのは、巫女が使う不可思議な術と、ラグナを拘束している鎖だった。
これも何かの効力で強度を上げているのだと思う。


「一応言っとくけど、俺が本気だしゃぁテメェらなんて一瞬で消し炭に出来るんだぜ?」
「そんな事など、どうでもいい。おぬしは詠の日の生贄になるのだ」


ラグナはギリッと歯をかみ締めた。
だんだんと、暗闇に目がなれ、はじめてその場所が神社だとわかった。
多分、あのホテルとこの場所は……結界のような何かでつながっていたのだろう。
スカーも居なければ魔法も使えない……。


「逃げるのは無駄だ」


巫女は薄笑いを浮かべるとフッと姿を消した。
それと入れ替わるかのように、二人の少女が現れた。
二人ともうつろな目で、同じ衣を着て、同じタイミングで言葉を発した。


「我は優拿」
「我は春奈」


ラグナは幽霊でも見ているかのような気持ちになった。
まるで……上手く言えないが、「人」としての……温もりが感じられないからだ。


「ぬしが今年の生贄」


二人は同時に言い放った。


「……は? 生贄?」
「神魔様に、ぬしの魂をささげること。夏樹様の術式により」


さっきの巫女、夏樹って名前なのか……。
って、そんな事は重要じゃねェ!


「我らは知っている」
「ぬしがどれだけ罪深いかを」


優拿、そして張るなが次々に言い放つ。
ふぅ、と一息吐いてから、ラグナは二人を見つめた。


「……そうですよ。それより、詠の日っつーのは?」

「昔、ここは神魔様によって守られていた」
「しかし、戦争があった」


優拿、春奈の順番で口々に二人が言う。


「皆死んだ」
「我等は生き残った」


ラグナが問うと、二人は同時に頷いた。
そしてまた、口を開く。


「少し離れた島国の者が、この島を奪った」
「神魔様はお怒りになられた」
「だから我等は神魔様の怒りを静めるために」
「詠ノ日、白夜に捧げなければならぬ」
「罪深き命を、双つ」


最後は多分、春奈で終わった。
興味本位で、ラグナは生贄を捧げないとどうなるのか、聞いてみた。
が、二人は答えようともせず、ただ一言。


「愚問だ」


と、答えた。
ジャラっ、と鎖が音を立てる。
どうしよう……そう思っていたとき、ある事を思い出した。


「さっき、捧げる魂はふたつって言ったよな!?」
「同じ事を2度聞くな」


春奈が、感情のこもってない声で答えた。


「俺と、もう一人は……」
「もう一人は夏樹様が迎えに行かれた」


捕まえに……!?


「時のおきてを破りし」
「次の世を見せし者」
(次の世……次の世界……未来……『未来予知』……ッ!!! まさか、もう一人って……)


ラグナのたどり着いた考え。
それは、もう二度と味わいたくない、アイツの死。
何で今、アイツがこの世界に存在しているかとかはわからない。
けど、アイツが……、もう一度死ぬ……?
そんなの、嫌に決まってんだろーが……!


アリス―――



「おい!!!」
「キャァ!!!」


ルウは突然のバカデカい声に飛び起きた。
すぐさま目に入ったのが、少し長めの紅い髪。


「サディー……ク?」


ルウは寝ぼけたまま、彼の名を呟いた。
彼はため息をし、それからルウを見つめた。


「他に誰に見えるってんだよ」
「俺も居るぜ☆」


ルウの前でセナトゥが「すちゃっ☆」と腕を上げた。


「で……何の用?」


ルウが二人に、何故自分の所へ来たかと事情を聞いた。
二人は少し俯いた顔で、ルウに言った。


「アリスからメールが来た。ラグナが……どこかへ消えたらしい」
「ラグナが!?」


全然サディークの言葉を信じていないルウが叫ぶが、それとほぼ同時にサディークがあり巣からのメールを見せた。
そこには確かに、ラグナが消え、一緒に探して欲しいと言う事が書いてあった。


「……ごめん。私今、探す気になれないんだ……二人で捜しててもらえるかな」
「……そっか。無理すんなよ。つーか、こんなトコで寝てたら、風邪引くぞ」
「……うん」


そして、二人はどこかへと走っていった。
再びルウの脳裏に蘇る、さっきの光景。
龍と誰かが、キスをしていた、あの光景。
思い出すだけで、涙が止まらない。


「龍……」





コンコン、とドアを叩く音がした。
アリスは「来たか」と心の中で呟き、ベッドから腰を上げた。
扉の向こうから声がする。


「おぬしは、アリス・フォーチュンシンガーを名乗る者か?」
「知らねェな」


スッ、と口元を上げてアリスが呟いた。
ラグナが、コイツに捕らえられているなら。
あたしが戦うしかないじゃんか。
6年前のお礼、まだ返せてないんだから―――


                    つづく

「おぉ、スッゲェ~!」


バスが到着したのは、街から数十キロ離れたところにある遺跡。
この時代は、今作者達が住んでいる世界よりも未来という設定なので、アメリカ軍の基地などはどこにも無い。
そういえば、ここで人間と悪魔の戦いが終結を迎えたんだっけ。
大魔道師のジイちゃんが魔王……俺の爺ちゃんを封印した場所。
封印の魔法は強く、魔王を復活させまいと縛り続けているらしい。
最も、魔王の肉体は既に朽ち果てており、魂も無く、残ったのは膨大な『魔力』という事らしいが。


「では、この辺りの遺跡、および寺院の見学を始める。時間はたぁ~っぷりあるから、じっくりと見学するように! では、解散!」


バンちゃんの掛け声で、班ごとに生徒は見学を始めた。
だが、所詮は皆子供。
遊んだり、喋っている奴が殆どだ。
その最中、まじめに見学するラグナ、アリス、セナトゥ、レン、フィーリ、雪の6人。
雪はルセアと別の班になって寂しそうだったが、アリスやフィーリと楽しく会話をしていた。
遺跡内はかなり広く、壁にいくつもの壁画が描かれていた。


「凄いな~……」


数々の壁画を見て、セナトゥが感嘆の声を上げる。
一方その頃、龍達の班は……。





†第33話『事件発生?』



「龍~……どこ~?」


遺跡で道に迷ってしまったルウ。
道がわからず、恋人に助けを求めるが、どこにも見当たらない。
フラフラと歩いていると、誰かにドンッ、とぶつかった。


「イテテ……」
「あ、ご、ごめん……」


目を開けると、そこには他の班の生徒が。
事情を聞くと、彼も班とはぐれてしまったらしい。
そして、一緒に歩いていた、その時だ……。


「龍!!!」


龍が、そこに居た。
彼は一緒に歩いていた男子生徒に少し殺気を放ったが、ルウを案内してくれたと聞き、「悪ィな」と謝罪した。
その後……。


「……ターゲット確認。作戦は?」


とある場所で、無線機を使って先ほどの男子生徒と話している謎の少女。
彼等の目的は、一体……?
因みに、アンジェは……。


「バーナードォ~♪ 一緒に探検しよ☆」
「良いですよ、では、行きましょうか」


手を繋いで、超ラブラブなカップルの様に歩く二人。
そんな彼等が歩いていると、ラグナ達が。


「お、ラグナ~!」
「アリスも居たんですね。班の皆は?」
「さぁ? わっかんね」
「実はさー……はぐれちゃったんだよね」


知らないフリをするラグナに横で、アリスが呟いた。
それを聞き、ラグナが顔を真っ赤にする。


「べ、別に道になんか迷ってねェからな! ほ、ホラ、行こうぜ!?」


自分が方向音痴なのを隠すかのように適当に真っ直ぐ進むと……そこには、壁が。


「げふっ」


変な声を出して壁に激突する。
そんな彼を見て、背後に3人が腹を抱えて大爆笑し始めた。


「では、行きましょうか」
「だねっ☆」
「そろそろ時間だし、いざレッツゴー!」


そして、彼等は遺跡を出た。
すぐさまバスに乗り込み、ホテルへ。


―――ホテル―――


生徒等は夕食を済ませ、各々の部屋へと戻った。
アリスの部屋は、アリス、ルウ、アンジェ、フィーリ、雪、クライだった。
同じクラスであるルウもあまり話した事が無い相手、クライ・レーベル。
彼女は一体、どんな人物なのだろうか。
というか、アリス以外全員外で行われている祭りに出かけてしまった。


「ラグの部屋、いくか……」


はぁ、とため息を吐いてラグナの部屋へ。
こういう時、自分に付き添ってくれるのはアイツしか居ない。
そして、部屋の扉を開けた―――


「ラグ、いるかー?」


部屋の中には、ラグナ以外の面々しか居なかった。
目的の相手は、何処にも居ない……。


「あぁ、ラグナならさっき、外出てったぞ?」
「外?」


セナトゥに彼の行き先を聞き、廊下に飛び出した。
すると、階段へ向かっている見覚えのある銀髪が……。


「ラグ!!!」
「ん……? うわっ!!!」


階段を降りようとした瞬間にアリスに声をかけられ、階段を転げ落ちるラグナ。
慌ててアリスが駆け寄ったが―――


「―――ラグ?」


階段の下に居るはずの人物は、居なかった。
何が起こったのか……。
それはわからないが、何かが起こったのは間違いない。






一方その頃、ルウは……。


「龍~?」


龍と共に祭りではしゃごうかと思っていたのだが、自分がワタアメを買っている間に彼の姿はなくなっていた。
どこへ行ったのか、と探し回るが……まったく見当たらない。
すると、ホテルの裏側から女と龍の声が。


「え……?」


恐る恐る壁に隠れながら様子を見ると……。
そこには、衝撃の光景が広がっていた。


「ちょ、おま……っ!」
「……ん……」


誰かはわからないが、女が龍とキスをしている。
まるで、ルウに見せ付けるかのように。
それを見て、ルウはすぐさまその場から立ち去った。


嘘だ。
嘘に決まってる。
龍が、私を裏切るはずが無い。
でも……でも……!
さっき見たのは間違いなく現実で、
私に見せ付けるようにキスをしていて、
何より、私と龍の絆を断ち切るかのような光景だった。
でも、信じない。
信じたくない。


「こういう時は……アンジェさんはバーナードと一緒に楽しんでるだろうし……ラグナ、かな……」


涙を必死に堪えてラグナに電話をかけた。
プルル、と音が鳴る。
電話に出たのは……。


ガチャッ


「あ、もしもし……ラグナ?」
「……」
「おーい……」


ツー、ツー……。


無言のまま、電話は切れた。
何が起こったのかもわからない。
ラグナ以外……アリスか。


プルル……。


「……」


何度かけても出ない。
ケータイを部屋の中において、外に出てしまったのか、それとも寝ているのか。
アリスの事だから、寝ているのだろう。




アリスはパチッと目を開いた。
けど、意識は無くって……。
何かが彼女を動かした。

バッグからパレットと筆を取り出し、壁に何かを描き始めた。


同時刻、バーナードとアンジェ。
二人は正に「カップル」と言った感じで祭りを楽しんでいた。
射的や金魚すくい、ワタアメにリンゴ飴。
楽しすぎて、時間を忘れていた。
現在時刻、23時。
あと1時間で消灯だ。


「アンジェリカ、次はアレをやりましょうか」
「うん!」


祭りを楽しむ二人。
そんな二人に、何者かがドン!とぶつかった。


「……ルウ?」


見覚えのあるピンク髪の少女。
彼女はただ真っ直ぐに、部屋へと向かっていった……。




再びアリスは目を覚ました。
未だに部屋のメンバーは戻ってこない。
アリスはベッドから起き上がると窓を開けた。
冷たい風が頬をかすめる……。
いやな予感がした。


「まさか……」


何気なく振り返ったアリスは高著k吹田。
ホテルの白い壁に描かれた絵。
その絵は、拘束された銀髪の悪魔と、金髪の人間。
一人は涙を流し、一人は呪印まみれ……。
紅い炎が二人を包み、牙を向く鬼。


「……どうして………どうして………予知夢なんて……」


もう1度、いやに冷たい風が彼女の頬をかすめた。
それは何かを囁くように……。



             ア



          リ


                 ス




                  つづく


ついに今日は修学旅行!
だが……ラグナ達6人のテンションは少し低かった。
なぜならば、旅行先の喧嘩等で周囲に甚大な被害を与えないため、この6人のみ魔法が使えなくされたのだ。
他の生徒はそんな事無いと思うが、この6人は……放っておいたら何をするかわからない。
そういう連中だ。
因みに、今は飛行機の前。
班ごとに別れて行く事になったのだが……。


「んじゃ、お前等はそこの飛行機乗れー」
「……はーい」
「そう落ち込むなよ。5日間の辛抱だろ?」
「でもよ、バンちゃん。いつ悪魔が襲ってくるかなんてわかんないんだぜ? それなのに何で……」
「お前等の日ごろの行いが悪ィんだろ。いざって時は俺が魔法解除してやるから、我慢しろ」
「は~い……」


うな垂れた様子で飛行機に乗り込む6人。
そんな彼等を影から見つめる者が二人。


「よし……まずは『音無龍』と『ルウ・アフマリア』からだ」
「了解……。私が行くよ」




†第32話『波乱の幕開け』




「まだかな……」


アリスはキラキラと眼を輝かせながら窓の外を見、呟いた。
どこまでも広がる蒼い空と海。
ごらんの通り、現在飛行機の中。
初めての飛行機だった為、離陸時はギャーギャー叫びまくった彼女だが、安定してからは「まだかな……」を繰り返している。
そんな彼女が、25回目の「まだかな……」を発したときだった。


「うるせぇ」


真隣から声が。
まぁ、大体わかると思うがラグナだ。
しかし、いつもより元気が無い……。
実は、昨晩ワクワクしすぎて眠れなかったアリスの話し相手をさせられていたのだ。
挙句の果てに、魔法使用不可……。
いつもは超元気なラグナ&龍のテンションが、凄まじい程に下がっている。


「しょうがないだろ。コイツ旅行なんて初めてだし」


どこからかそんな声が聞こえた。
慌ててラグナが自分の胸ポケットを見ると……ハムスターが。
実はこのハムスター……スカーである。


「スカー!!!」


何故死んだはずの彼がこんな姿になっているかというと、それは昨日の深夜に遡る。
ラグナが、アリスの話を延々聞かされていたとき……。
突如、ラグナの飼っているハムスター『燻製肉星』が声を上げたのだ。
何事かと理由を聞くと(この時点でおかしいのだが)ラグナの精神世界にいたスカーの魂が、なんやかんやで燻製肉星に乗り移ったそうだ。
そんな事あるのか、というツッコミはこの際スルー。
とにかく、ハムスターの姿でスカーが蘇ったのだ。
まぁ、ラグナとアリスの前では喋らないらしいが……。
因みに、この二人だけかというと……。

バンちゃん曰く、

「お前等が集まってると大体何か起こる。つーか、お前等が悪魔に狙われてる気がする。だから、バラバラに散れ。バカが何人集まってもバカのまんまだからな」

と、言う事で別れる事に。
ラグナとアリス、龍とルウ、バーナードとアンジェ……といった具合に二人ずつで別れたのだ。
ラグナ、アリスの二人は15列目、龍とルウが29列目、バーナードとアンジェが36列目だ。
離れていると言っても、結構近い。


「っと、ルウから電話だ……。スカー、隠れてろ」
「はいよー」


プルル、と電話がなると同時に、スカーは再びラグナの胸ポケットの中へ。
テレビ電話なので、相手の様子も確認できる。
ひょい、とルウが顔を出した。


「アリス~☆」
「おす♪ ラブラブしてるかーい?」


初めての飛行機で『超』がつくほどハイテンションなアリスがルウに話しかける。
それと同時に彼女は顔を真っ赤にし、あたふたしはじめた。
そんな中、龍がひょっこりと顔を出した。


「ラブラブに決まってんじゃん☆」
「ちょ、ラブラブって龍もぉ~」


ドゴッ


ルウのひじが龍の後頭部に食い込んだのが見えた。
龍は目じりに涙を浮かべながらも、照れくさそうにニヤニヤしている。


「痛ェ~!!! でもこれはルウの一種の照れ隠し~♪」


明らかにラブラブな雰囲気が伝わってくる会話……。
そんな中、龍達の少し奥から更にラブラブな会話が聞こえてきた。
離れているのでよくは聞こえないが……バーナードとアンジェに違いない。


「お前等、ホント仲良いな……」
「ラグナは? アリスと付き合ってないの?」
「……! ん、んなわけねェだろッ!!! 切るぞ!」


プチッ、という音と共に電話が切れた。
ひょこっ、とスカーが胸ポケットから出てくる。


(へェ~……。6年前、『アリスが好き』って言ってたのになぁ~……)
(その事、黙ってろよ? ……そのうち、言うから)
(了解~)


気がつくと、アリスはスヤスヤと寝息を立てて寝ている。
そして、それから数時間後……。


―あと10分で着陸態勢に入ります、シートベルトを……―


「……ぃ、ぉぃ……おい!!!!」
「ん……、スカー……? ……! 着いたの!?」


燻製肉星……もとい、スカーがアリスを起こした。
まだ眠い目を擦りながら、彼女は目の前で爆睡しているラグナを起こそうとする。


「ラグ、起き―――」


ガク!


「にゅあ!!!」


突然機体が揺れて不覚にもアリスは変な声を上げた。
その声に反応したのか、ラグナがあくびをしながら目覚めた。


「……っせーな……」


かなり不機嫌なのは、変な起こされ方をしたからだろう。
というか、今朝までずっとあり巣の話し相手をさせられて、ロクに寝ても居ないので、睡眠を邪魔されるのはかなりイラつくはずだ。


「別に起こすのに叫ばなくたっていいんだぜ?」


笑いながら言ったスカーに、アリスはぷくーっと頬を膨らませた。
一方その頃……。
龍とルウは、班の子がどんだけ一生懸命起こしてもピクリともしなかったという。






アリスが叫びまくって、やっとの事空港に着いた頃にはもう昼の11時をまわっていた。
空港の中で二人はアンジェに遭遇する事ができた。
班の番号が近かったからだろう。
しかし、バーナードの姿がどこにも見えない……一体、何処へ行ったのだろうか?


「アンジェ、バーナードは?」


心配そうにアリスが聞くと、アンジェは少し暗い表情で答えた。


「えっと……酔っちゃって……。今、レイ先生に診てもらってる」
「そっか……」


そんな会話をしていると、ラグナのケータイが鳴った。
バーナードからだ……。


「もっしもーし?」
「あぁ、ラグナ……。アンジェリカの周囲に、変な奴は居ませんか?」


かなり体調が悪そうだ……。
それでも、アンジェの心配をするなんて……流石バーナード。
電話を持ちながら辺りを見回すが、特にそんな奴は……。
……遥か遠くで龍とルウが班員とラインダンスをしている(ように見えたのは)「変な奴」に入るのか、ラグナは真剣に悩んだ。


「……居ねェよ、変な奴なんて」


作り笑顔でバーナードに返事をし(テレビ電話)、かばんの中からアンジェの大好きなお菓子を取り出した。
それをアンジェに渡すと、彼女は「やったー!!!」と喜んでいすにすわり、それをむしゃむしゃと食べ始めた。


「な? アンジェは超元気だから、バーナードはゆっくり休めよ。修学旅行は4泊5日だぜ? まだまだ時間はあるって」
「ありがとうございます……」


そう言って電話を切り、自分の班の所へ走っていった。
ラグナの班のメンバーは、ラグナ、アリス、セナトゥ、雪、レン、フィーリだ。
まぁ、魔法学校で知らない奴は居ないので、どの班になろうが大した問題はない、が……それはラグナに限っての事である。
幼い頃の経験により、人見知りが『異常』なほどに激しいアリスはまだ、自分のクラスにしかなじめていなかったのだ。
職員室の常連なので、他のクラスの先生とは面識があるものの……。
ラグナ以外、知り合いが、居ない。


「え……えっと……アリス・フォーチュンシンガー……です。よろしくお願いします………」


ラグナの後ろに隠れ、いつもの強気な態度はどこにいったのか? と、彼女を知る誰もが思いそうな態度で挨拶をした。
……これはこれで、結構可愛いが。


「アリスか! 確か、こないだイフリートに入ったんだろ? 俺はセナトゥ・エリエット! よろしくな!」
「私はフィーリ・ツヴァイス。よろしくお願いします、アリスさん」
「俺はレン・ライト。よろしく」
「私は月詠雪。アリスお姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「……う、うん」


照れくさそうに皆と挨拶を交わすアリスを見て、ラグナがスカーに囁いた。
傍から見れば変な奴にしか見えないが。


「なぁ、スカー……」
「ん?」
「アリス、可愛くね?」
「……激しく同意する」


そんなこんなで、ラグナ達は指定された滞在先のホテルに移動する事になった。
まだあまり世界を知らないアリスは、初めてきた『沖縄』という場所がとても楽しみな様子だ。
そして、ホテルに到着。
ルウ達のバスは先にホテルへ到着していたようで、10階の窓からルウが手を振っていた。


「ルウ~!!! 龍と同じ部屋になれたか~?」
「そんなワケあるかァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


上を見て叫ぶラグナに、ルウは怒鳴り散らした。
そして、おまけに部屋のスリッパも投げてきた。


「ほブッ!!! う、嘘だって! 冗談に決まってんじゃん!!!」


ルウは怒って部屋の中に入っていってしまった。
その直後、ラグナはルウに謝罪メールを送り、自分の部屋へ。
もちろん、アリスと同じ部屋になれるはずも無く、男子だらけの部屋。
メンバーは、ラグナ、セナトゥ、レン、サディーク、レオン……そして、龍。
意外と気の合う6人が集まっていた。


「お、サディークじゃん! お前も来てたの?」
「あぁ。それと、ラグナ……龍、レン」
「ん?」


サディークが三人を部屋の外へ連れて行った。
セナトゥとレオンはそれを気にも留めず、部屋の中でテレビを見たり昼寝をしたりしている。
あと10分ほどで見学の時間だ。


「あの時はすまなかった。俺も深く反省してる……だから、友達になってくれないか?」
「……何言ってんだ?」


頭を下げて頼み込むサディークに、いつもの調子でラグナが話しかけた。
龍もレンも、彼を見つめている。


「一回拳を交えた奴(生徒)は何と言おうと俺のダチだ! だから、わざわざ頼み込む事なんて無ェんだぜ? な?」


サディークに手を差し出しながら、二人に問う。
龍とレンは何も言わないまま、コクリと頷いた。


「……ありがとよ」
「気にすんな。誰も怒ってねェよ、もう。やっちまったもんは仕方ねェ。後から、その償いをしてきゃぁ良いんだから」
「……あぁ!」


それから、10分後、バンちゃんがテレパシーで生徒全員を呼んだ。
ホテルの前にはバスが止まっており、街から少し離れた遺跡へ向かうのだ。
1日目、2日目は見学となっている。
そして、3日目からは……晴れて自由の身だ。


「んじゃ、出発~!」


ラグナの元気な声に合わせるかのように、景気良くバスは出発した……。
だが、一部の生徒等は感じていた……。
「この旅行、何かが起こる」と……!


              つづく

バーナード、龍、ルウ、アンジェの4人は、ラグナの部屋にいた。
最早、この場所が集会所的な場所となっている。
因みに、ラグナとアリスは買い物に出かけている。
いよいよ、修学旅行まであと1日。
ドキドキとワクワクに胸を膨らませながら、少女達はテレビを見て楽しんでいた。


「いよいよ明日かー……楽しみだな~」
「そういえば、アリスは? ラグナも居ないけど……」
「あぁ、アリスがさっき「アジエ○ス買い忘れた!」って言って、イトー○ーカドーに行きましたよ。ラグナはその付き添いです」


イトー○ーカドー……。
外国にもあるんだな、というツッコミはこの際スルーだ。
溜まり場……もとい、ラグナの部屋には皆の荷物が。
ルウは最後の荷物チェックをしている。


「龍と旅行か~……楽しみだな~」
「いや、『俺と』じゃなくて生徒全員だから!!!」


そんな会話の最中、アンジェが声を上げた。


「旅行か~!!! 楽しみだな~!!!」
「そうなんですか?」


大きな声で喜ぶアンジェに、バーナードが聞いた。
その両手には、注いだばかりの紅茶のカップが。


「でも、何でだ? アンジェはラグナと同じで、校長直々に仕事受けてんだろ? 金とか、貰ってねェの?」
「あぁ……アレね。私、基本的に情報収集だから。ラグナは討伐専門。討伐と情報収集じゃ報酬のケタが違うの。ほら、討伐の方が命の危険があるでしょ? だから、生徒の中でも特に強い人しか討伐依頼は来ないって事」
「へぇ……。でもさ、その割にアイツ、よく焼きソバパン食ってるよな」
「そうそう、100円ショップとかコンビニとか行くし、電気つけっぱにすると『消せぇぇぇぇ』って言ってくるしね~」


龍やルウ、アンジェが楽しく話している時、バンッ!!! とドアが開いた。
彼等の眼に入ったのはラグナとその隣に巨大なクマ。
ラグナがそのクマを持ち上げると、後ろからアリスがひょっこりでてきた。


「よっす♪」


アリスが右手を上げてご機嫌そうに挨拶をする。
因みに、このデカいクマ……ソファの1/3を占領している。











†第31話『修学旅行前夜』








「イ○ーヨーカドーの帰りにラグが源泉で取ってくれたの♪」
「源泉じゃなくてゲーセンな。俺に温泉を掘る趣味はねェ」


アリスはその巨大なクマを膝の上に乗せるが、前が見えないらしく、再び自分の隣に置いた。
ラグナがコホン、と咳をしてから皆に言った。


「さっきの話だけどさ、人の中身知りてェんなら脳内メーカーすれば良いんじゃね?」


『脳内メーカー』とは、数年前にちょこっと流行ったアレの事だ。
それを聞いた直後、龍がラグナのPCをプチッとつけた。


「よし、誰からやる?」


龍が聞いた途端、部屋がしーーーんとなった。
誰だって、自分の脳内……考えている事を知られるのはドキドキだ。
その緊張を破るように、というか「仕方ない」という感じにラグナが言った。


「んじゃ、俺からで」
「オッケー!」


†黒の教団―TF支部―†




「いや、秘密ばっかじゃん……」

「まァ、内緒だ。うん」


いきなり微妙なモノが出てきた……。

まぁ、アリスには『秘密』の部分がわかっているのだろう、納得したような顔でPCの画面を見つめている。

あながち間違っても無いかもしれない。


「んじゃ、次は……アリスだな」


カタ、カタカタと文字を入力する音が響く。

数秒後……結果が出てきた。





†黒の教団―TF支部―†

「何でラグと同じで『秘密』……?」

「ってか、『遊』と『夢』と『欲』……。どんだけ遊びたいんだよ、アリス」

「えー? だって、修学旅行で遊びたいもん」


そんなこんなで、次。

カタカタ、と龍が再び文字を入力する。

次は一体、誰なのだろうか……。


「んじゃ、次は俺、っと」


そして、龍の脳内が画面に表示された……。

それを見た女子3人が絶句する。

そう、そこには―――



†黒の教団―TF支部―†

「ええええええええええええええええええええええええええ!?」


女子三人が目を見開いているが、男メンバーは大して気にしていない。

男としては普通だと思うが……いや、これは異常か。


「龍、貴方どんだけ○○○な事考えてるんですか……」

「そういや、龍の部屋にエロ本が36冊ほど……ちとアレなDVDも8枚ぐらいあったかな?」

「ちょ、ラグナやめろおお!!! それ以上言うな、何も言うなァァァァァ!!! 次、次行こう うん!」


龍が急いでウィンドウを閉じ、再び脳内メーカーを開く。

カタカタ、とキーボードを鳴らし、次はルウの脳内を。

その最中、女子の方から「男って皆そうなんだ……」などという声が聞こえ、龍の顔が真っ赤に。

ラグナとバーナードはちっとも動揺していない。

というか、堂々とソレ系の本を見ている。



†黒の教団―TF支部―†

「うん、友達思いなのは良いことだね」

「うんうん、どっかのエロ男と違ってねぇ……」

「つーか、ルウ未成年っしょ? 『酒』って……」

「『酒』っていう名の炭酸飲料だよ」


確かにルウはコーラで酔うが……。

ルウの中で『飲んだら酔うモノ』は全て『酒』となるのだろう。

で、次。


「次は……バーナードか」

「私ですか……アンジェリカへの『愛』でいっぱいに決まってますね」

「バーナード、さっすがぁ♪」


アンジェとバーナードの相当ラブラブな会話が背後から聞こえる。

だが、結果とは時に残酷なものだ―――



†黒の教団―TF支部―†

確かに『愛』はある、が……。


「ちょ、『嘘』って!? しかも『秘』とかあるし!!!」


アンジェのツッコミ(?)がバーナードに炸裂した。

結果を見て、バーナードが後ずさりする。

『愛』で埋め尽くされていると思ったが……まさかの結果。


「さて、最後はアンジェか。名前長ェから苗字とかミドルネームは省いていいか?」

「うん、良いよ」


果たして、アンジェの脳内は……?



†黒の教団―TF支部―†

「おぉ、私と一緒で『愛』が」

「『友』と『遊』か~……良いね」

「でも、さ……」


アンジェ以外の全員がほぼ同時に口を開いた。

出てくる言葉はもちろん……。


「『悪』って何だァァァァァァァァァァァァ!!!!!????」

「てへ☆」


そんなこんなで、修学旅行の前夜は終わりましたとさ。

めでたしめでた……うん、龍はあの後、ルウにエロ本を没収されたそうです。

以上、レポーターのラグナがお送りしましたー。



                       つづく








修学旅行への準備の為、今日は買い物に出かけるはず……なんだけど。
誰も来ない……。


「遅い!!!」


一人校門前に立ち、腕を組んでいるアンジェ。
意外な事に、バーナードも来ない。
イライラが頂点に達したその時、待ち望んでいた人物と、ルウ&龍が。


「すみません! 龍を起こす約束をしていたもので……、あれ? ラグナとアリスは、まだ来てないんですか?」
「そうみたい……まァ、あの二人の事だから大体想像つくけど」


そんな事を言っていると、一時間が過ぎた。
そして―――


「悪ィ、遅れた~!」
「ごめんごめん、ちょっと寝グセ直すのに時間かかっちゃって……」


他四名よりかなりオシャレして出てきたラグナとアリス。
二人共シルバーのネックレスやチェーンをつけて自己流に着こなしている。
元々は制服だが……既に原型が見えなくなっていた。


「それ……制服か?」
「YES!!!」


龍の問いに、二人が同時に親指を立てて答えた。
やっぱり、コイツらこういうトコはバカだ……。
その場に居る誰もが、そう思った。


「じゃあ行こうか。時間勿体無いし」
「だね」


ルウの言葉にアンジェが頷き、その後を追うように他の四人がゾロゾロと歩いていく。
魔法学校は、とある島に建っているので、街への移動はホウキだ。
そして、フランスのとある街に到着。
いくつもデパートが立ち並んでいる……日曜日なので、人が圧倒的に多い。
セールやら何やら色々やっていて、かなり賑わっている。


「……アレがいわゆる『女の戦場』ってヤツか」
「ですね……」
「俺、死んでもアレだけは行きたくねェ」


男三人組がベンチから眺めているソレは、デパートのセール現場だった。
アリス、ルウ、アンジェの三人は、「良い服あるかな~?」と言いながら、あの戦場へと飛び込んだ……。
男軍団は、そこに入る気など皆無。


「……コレ、修学旅行の買い物に来たんだよな?」


冷や汗を流しながら眺めるラグナの言葉に、二人が頷いた―――



†第30話『買い物で起こった出来事』





「アレ……アリス達、捜せるか?」
「無理」
「無理ですね……」


はぁ、と3人がため息を吐きつつ立ち上がる。
行きたくないが……アリス、ルウ、アンジェの3人を見失っては面倒な事になりそうなので、戦場……もとい、デパートへと入っていった。

その頃、少女3人組は……。
ラグナ達の読みどおり、戦場にてワゴンを漁っていた。


「ルウ、見てコレ!!!」
「だ、駄目だって! 私にはそういうヒラヒラがついてんのは、似合わないから!!!」
「じゃあ、次の階にレッツゴー!!!」


異常にハイテンションなアリス&アンジェに流されるまま、ルウは次の階へ。
その間、ラグナ達は3人を捜すついでにお菓子等を買っていた。
ポ○チとか色々……、大体のものは揃っただろう。


「つーか、アイツら服買いに来ただけじゃね?」
「……同意します」
「俺もー」


と、先ほどと大して変わらない会話をしつつ、アリスたちを追って2階へ。
同じ頃、アリス達は……。


「よし! コレなんか良い!」
「ちょ、何で踊り子みたいな服……!? あたし、そんなの着ねェぞ!?」
「ホラホラ、アリスちゃんはあっちの試着室にレッツゴー」


アンジェが選んだ踊り子の服を嬉しそうにアリスに見せるが、彼女はかなり嫌がっている。
だが、それを煽るかのようにルウがアリスを試着室へ連れて行こうとした、その時―――


バチッ!!!!!!


そんな音がして、視界が真っ暗になった。
誰かの悲鳴や、子供の泣き声が響く。


「ちょ、何!? アリス、ルウ、居るんだったら返事して!!!」


同じ事を繰り返し叫び続けて20分ぐらい経っただろうか。
パッ、と電気が点いた。
その光景に、アンジェは愕然とする。
誰も居ないのだ。
アリスもルウも、他の客だって。
何も無い。
ワゴンも、棚も、商品の一つさえ。
あるのは本来の光を取り戻した照明、デパートの白い床……。
そして、アンジェ。
すっからかんのフロアにアンジェが一人、佇んでいる。


「うわーぁぁあぁぁぁぁぁん!!!!!」


わーん
わーん
……わーん。


アンジェの泣き声が、何も無いフロアに響き渡る。


(誰も居ないよぉ……っ、バーナードぉ……)


アンジェは、何も無いフロアを行ったり来たり、行ったり来たり。
「怖がるな」と何度も何度も自分に言い聞かせてはいるものの、この状況を打開する策が見つからない。
とりあえず一番近くにあった壁を蹴って、みた。


ガイィィィィン!


「はぅっ!!! 痛いっ!!!」


足を押さえて、その場にうずくまる。
パニック状態の為、『魔法』という考えには至らないらしい。
しばらくそのままうずくまっていると、何者かの足音が。


コツ、コツ、コツ……。


それはだんだん近づいてきて、非常扉の前で止まった。
非常ドアのノブがクルッと反転する。
アンジェは柱に身を潜めて誰が来るのか見張った。
ガチャッ、という音と共に、扉が開いた。
入ってきたのは……サングラスをかけ、黒いスーツを着た自分と同い年ぐらいの少年……か少女かはわからないが、同い年か少し下ぐらいの人物。


「出て来い」


その声にアンジェはビクッ、としたが身を潜めたままだ。
痺れを切らしたスーツの奴が、ため息を吐いてからこう言った。


「出てこないと、このフロア爆発させるぞ」


アンジェは唇をかみ締めた。
どうする……?


「出て来い」


二回目のスーツ野郎の声と共に、アンジェは柱から姿を出した。
スーツの人物は、彼女に銃を向ける。


「手を上げろ」


アンジェは目の前の人物の言うとおりに、手を上げた。


「お前、名前を言え」


その瞬間、アンジェは大体の事を理解した。
自分が生まれた家は、とある国のお城……。
自分を殺そうと狙ってくる者も少なくは無い。
それに、黙って家から出てきたのだ……家の者かもしれない。


「お前、名前を言え」
「……ヴェルティス・リンモア」


アンジェはとっさに思いついた名前を言った。
それを見て、スーツの人物はキャハハハハと笑った。
相手は……女だ。


「アンタ、ママに嘘はついちゃダメって言われなかったのぉ?」


からかうようなその口調に、ピキピキと怒りがたまる。
だが、下手に動いては撃たれるに違いない。
魔法が使えるといっても、100mを0,3秒で走れるほどの速さは無いので、銃弾を避けれるはずも無い。


「うぅん、ママは知らない人に名前は教えちゃいけないって」
「そうか、悪い母ちゃんだな」


ダン!


銃声とほぼ同時に、アンジェの足元に銃弾が。
かなり怖くなってきた……。
こんなとき、バーナードが居てくれれば……。


「へェ、避けないんだ? お姫様」
「お姫様? 人違いじゃないんですか? 私はただの学生ですよ? そして迷子なんですよ? 出口はどこですか?」
「あぁ、出口は……って!!! 状況見ろ!!! 空気読め!!!」


目の前の少女(?)の怒涛のツッコミがアンジェに炸裂する。
アンジェは俯き、泣き出した。


「そんな事言われたって……私ッ……知らないもん……」
「わかった! わかったから泣くな! 頼むから……って、ふざけんのも大概にしろォォォォ!!!」


この女……ツッコミの達人か!?
と、心の中でアンジェは思うが、再び自分が死の淵に立たされていることを知る。
気がつけば、目の前の女は銃口をアンジェの胸へと向けていた。
そう、心臓のある部分を。


「終わりだ」


最初の一発は奇跡的にかわしたものの、先読みされて二発目は心臓に……。


ッゴ。


(え?)
「なんだ!? 防弾チョッキでも着てたか?!」


いや、普段着を着ているだけ……。
アンジェが恐る恐る自分の胸元を見ると、穴が開いており、銃弾を受け止めている何かが。
バーナードに以前プレゼントされた……ペンダントだ。


(な、なんてベタな……!? でも、ありがとう! バーナードォォォォ!!!)


と、心の中で歓喜の叫びを上げるが、それを聞いたものは誰一人としていない。
だが、まだピンチは終わってないのだ。
目の前の女が、次々と銃弾を乱射してくる。
元々コントロールがそんなに無いのか、足や腕にしか当たらない。
とは言っても、相当痛いんだが。


(こんな時、バーナードが居てくれたらなぁ……)
「死ねぇ!」


女がム○カみたいな叫び声を上げて発砲した、その瞬間―――


「氷の壁―アイス・ウォール―!」


アンジェの目の前に、氷の壁が現れ、銃弾をガードする。
彼女が眼を開けると……そこには、待ち望んでいた彼が。


「すみません、遅れました」
「バーナード!!! 一億と二千年前から愛してるぅぅぅぅぅ!!!」


アンジェは、自分の体が何発かの銃弾で結構な傷を負っているにもかかわらず、彼に抱きついた。
それを見て嫉妬(?)したのか、目の前の女が二人に銃口を向けた。


「私の目の前でイチャイチャすんなッ!!!」


だが、数秒早くバーナードが氷の壁を作り出す。
銃弾は全て無効化され、バーナードが女に急接近した。


「……できれば、女性を傷つけたくはありません。貴女が今すぐここから立ち去るのであれば、許します。どうですか?」


剣を女の喉下に突きつけながら、耳元で囁いた。
このままじゃ殺られる……!
そう思った女は、素直にそこから退散した。




「で、今まで何処に?」


静かなフロア。
銃弾の痕がいくつかあるが、とても静かだ。
二人っきりの空間……と言えば、結構良いものなのかもしれないが、一応今はピンチである。


「長くなるんですが……。アンジェリカ達3人が先に行ってしまったので、私達は追いかけに入りました。けど途中でラグナが『焼きソバパン!!!』って叫びながら走り出して、どこかに消えて……。それで私と龍二人になったんですが、その時いきなり照明が消えて、龍もどこかに消えて、私はアパートから出ました。そして、私がデパートに戻ったと同時に銃弾が聞こえたので、急いでここへたどり着いた、というわけです」


デパートから出た……つまり、窓から出たのだろう。
それでよく平気だったな、と思った……が。
そんな事を言っている場合ではない。


「そうだ!!! 龍は? ルウは? アリスは? ラグナは?」
「先ほど、龍から連絡がありました……。地下に閉じ込められているそうです。爆弾が仕掛けられていて、あと30分で爆発する、と……。急ぎましょう、皆を助ける為に!」
「う、うん!」


地下へ向かっていると、アンジェのケータイが鳴った。
電話……ルウからだ。


「アンジェさ~ん」
「ルウ!? ちょ、そこに爆弾が―――」


慌てた様子でアンジェが言いかけると、ルウがニコッと笑いながら言った。
その背後には、爆弾を持った龍が。


「このとーり、解除したぜ。でもよ……この爆弾、もう一つ似たようなモンがあって、こっちのを解除すっとそっちのが起動するらしいんだ。っつーわけで、そっちの爆弾解除お願い」
「いや、魔法使って脱出すりゃ良いじゃん」


アンジェのツッコミに、龍はやれやれといった様子で返事をする。
試しに、魔弾を撃ってみたが、檻はビクともしない。
どうやら、魔法が効かない仕様のようだ。
というか、こういう檻はどこかで見たことがある気が……。


「まさか、コレ……魔法学校の!?」
「うん、レイ先生がこないだ新しく作った檻で、悪魔を閉じ込めとくためのものだよ」


アンジェの問いに、ルウが答える。
彼女の後ろには、龍と、捕らえられているその他大勢の客が。
ラグナとアリスの姿が……見えない。


「あの二人なら、檻の一つや二つぶっ壊せるんだけど……どこにも姿が見えないの」
「マジ!?」


―――数分後―――


アンジェ、バーナードの二人は龍達が言うもう一つの爆弾を探しに行った。
部屋をくまなく探すが、このフロアは無いようだ。
次は5F……そこには。


「ちょ!!!」
「ラグナとアリス?!」


そこにはバカデカい黒い装置があって、二人がソレに縛られていた。
カチカチと、黒い装置から音が聞こえる……。


「ねェ、バーナード……アレって……」
「爆弾……ですね」


バカデカイ爆弾。
バーナードは爆弾等の機械にあまり詳しくないので……彼は一足先に外に出て、アンジェが解除する事に。


「さて、と。爆弾どうしよっかな」


爆弾に縛り付けられた二人を縛っている縄を、バーナードから借りた小型ナイフで切りながら言った。
爆弾は柱にくくりつけられており、ボトッという音と共に二人が落ちた。
その痛みの所為か、二人共目を覚ましたようだ。


「んあ……アンジェ?」


アリスはむっくりと起き上がって周りを見た。
彼女の隣にはラグナが倒れている。
アリスは寝ぼけているのか正気なのかわからないが、いきなりラグナに往復ビンタをかましはじめた。


(怖っ……)


―――数分後―――


ラグナが眼を覚ました……が。
アリスの往復ビンタが未だに続いている。
ほっぺがもはやアン○ン○ン状態なのは気にしてはいけない。


「アリス……アリス……? ラグナ起きたよ……?」
「ウババババババババ」


起きたにもかかわらずビンタし続けるアリスをアンジェが揺すった。
ビンタされているラグナは、奇妙な悲鳴っぽいものをあげている。


「……あれ? アンジェ!!!」


アンジェの予想通り、寝ぼけていたようだ。
頭をポリポリと掻きながらアンジェの方を見る。


「いや~、今さ、アン○ン○ンと戦ってる夢見てた」


アンジェは無言で、アリスのつかんでいるモノを指差した。
「ギャッ」という短い悲鳴を上げてアリスはソレをボトッと床に落とした。


「アン○ン○ン!!! やっぱり夢じゃなかったんだ!!!!!」
「……それ、アリスがビンタしまくってアン○ン○ンみたいにしたラグナだよ……」
「ええええええええええええええ!? ちょ、ラグ!!! ごめん!!!!!!」


アンジェの言葉に眼を見開いて驚き、ラグナに必死に謝罪するアリス。
そんな彼女等を飛び越え、アンジェは爆弾の上に飛び乗った。
コードが6本……赤、青、ピンク、黄色、緑、黒。
どれか1本切ったら助かるけど間違えたら爆発する定番のアレだ。


「よし、成績トップクラスの力、見せてあげる!!!」


初めは意気揚々と計算をしていたアンジェだが、すぐにめんどくさくなった。
バーナードから借りたナイフを取り出し、コードへ……。


(めんどくさいな……全部切っちゃえばいっか)






その頃、バーナードは捕らえられていた人々を解放し、ビルの外に出ていた。
龍とルウ、そしてバーナードが、ビルの上のほうを見つめている。

「爆弾はアンジェがなんとかするんだね、なら安心」

「まぁ、アンジェなら大丈夫だろ」
「ああ見えて、機械関係強いですからね……」


と、三人が「アンジェなら安心」的な考えを述べていた、その時だった―――


ッバーン!!!!!!!!!!!!


「………」


突然の衝撃に石化する4人の背後に瓦礫が振ってくる。
眼の前には、粉々になったデパート。
それを眼にし、4人は絶句した。
しばらくしてから、ラグナが二人を抱えて舞い降りてきた。
アンジェは石化している4人の前にピョコピョコ近づいてきて、目の前で止まった。


「……てへ☆」
「『てへ☆』じゃねええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」


アンジェの仕草に、周囲にいたラグナ達全員が突っ込んだ。
その後、アンジェがこっぴどくバーナードに説教されたのは言うまでも無い。
まぁ、一応念のために買ったものは先に外のベンチにおいておいたので、無事だったが。




―――魔法学校、とある場所―――


先ほどアンジェを襲った少女と、ローブを被った一人の男が会話をしていた。


「でさ……アイツ等、結局ビル破壊しちゃったんだよ。ダサいでしょ?」
「ビル一つ破壊してるような人が、魔法学校を救ったなんて、信じられませんね……」
「でしょ~? だからさ、私とアンタで、修学旅行のときにアイツら襲わない?」
「……と、いうと?」
「だからぁ~」


少女が男に耳元で何かを囁く。
それを聞いて、彼はニヤリと笑った―――


「じゃあ、標的はこの二人を中心にね」
「了解」


そういって少女が取り出した写真は、ラグナとアリスのもの。
昨日、彼等を見ていたのは……この少女だったのだ。



                    つづく

あれから数週間……。
あたしは行くあても無いという事で、魔法学校に入学した。
ラグが居るし、体術が好きだから……イフリートの特別生徒として。
『特別生徒』って響きは微妙だけど、ラグと居れるからそれで良いや。
ルウやアンジェ、他の生徒や先生とも、すぐに仲良くなれた。
全部、全部ラグのお陰……。
そして今日は、バンちゃんから何か連絡があるらしい。


「うぃーっす」
「おっはー」


教室の扉を開け、いつもの様に入ってくるラグナとアリス。
因みに……既に三十分ほど遅刻していた。
それを見て、バンちゃんが呆れたように二人を見つめる。


「おい、遅ェぞ。さっさと座れ、今日は連絡があるんだから」
「へーい」


と、バンちゃんの言葉に二人同時に答える。
アリスの席は、ラグナの隣。
そして、ラグナの前に龍が。
バンちゃんが何かプリントを配ってきた。
そのプリントには、こう書かれてあった


―――修学旅行のお知らせ―――
行き先:日本、沖縄
期間:4泊5日
内容:1日目……見学
   2日目……見学
   3日目~5日目午前……自由行動


「えー……前にも言ったとおり、来週から修学旅行だ。準備は出来てるよな?」


なんとなく見ていたプリント。
……が、ラグナが突然声を上げた。


「修学旅行!?」


ガタッ、と席を立ち上がるラグナにバンちゃんは呆れるように頭をぽりぽりと掻いた。
そして、龍とアリスの方を見ながら言った。


「ったく……お前はサボりすぎだからだろ。自業自得だ。つーか、龍かアリスから聞かなかったのか?」


バンちゃんの言葉に、バッと龍の方を見るが、驚いているご様子。
何故? 龍は確実に授業に出ているはず……。


「その様子からするとお前も初耳か。お前は寝すぎだ! ちゃんと話を聞け」


そして……二人そろって、アリスの方を見た。
ぽかー……んと、口をあけたまま座っている。


「あの……修学旅行って……何?」


今まで『学校』というものに行った事が無いので、『修学旅行』すら知らない様子。
クラス中が笑ったのは言うまでも無い。
バンちゃんはもう一度ため息をつき、呆れたように言った。


「お前ら本当にしょうがねェな……。後で職員室来い」
「はぁーい……」


バンちゃんの言葉に、三人同時で答えた。
戦闘時はあれ程真剣な三人だが……普段はここまでバカなのだ。







†第二十九話『修学旅行!?』





やってきた職員室。
ラグナと龍はもちろんここの常連だが、アリスも……入学して数週間で、職員室の常連となった。


「あたし、昨日授業態度が悪ィって呼び出されたな……」


生き生きとアリスが呟く。


「俺は出席日数が足りないってよ」


そんな彼女になぜか張り合うラグナ。


「俺は赤点が多すぎるってよ」


3人はお互いのバカさ加減を確認(?)するかのように頷いた。
そして、ラグナが扉に手をかける。


「……とりあえず」


ラグナが呟くと同時に、三人が眼を合わせた。
そして、扉を開けると同時に―――


「失礼しまーすっ!」


ラグナがガラッと扉を開けると同時に教師全員が三人を見る。
何故なら、この三人は魔法学校きっての問題児オールスターだからだ。
そして、新しく来たガイア担任兼生活指導の先生、ゼクスが彼等の目の前に立ちはだかった。


「アリス・フォーチュンシンガー」


アリスは嫌々と顔を上げた。
今度は何を言われるのだろうか……。


「お前なァ、髪を染めるのは禁止だと言っているだろう!?」


アリスの金髪には一部赤いメッシュが入っており、更には右側に金髪でみつあみの少し長めのエクステを下のほうにつけて肩から前に流している。
確かに、ゼクスの言うとおりかもしれないが……別にバンちゃんに許可を取ってあるので、アリス本人は何を言われようが別に気にしていない。


「染めてません」


アリスは淡々と言うが、先生は疑っている様子。
それどころか、ラグナがコーラを飲んでいるのが気に食わないのか、どんどん機嫌を悪くしていった。


「ラグナ・ウィング、お前は授業に滅多に―――」
「それはこないだ言っただろ? 校長じきじきに仕事頼まれてるって」


彼の言うとおり、ラグナを含む一部の生徒には、校長から直々に悪魔討伐の仕事が来る事がある。
報酬は……三日間食堂での食事が無料とか、金とか、様々なものだ。
今のところ、仕事を頼まれるのはラグナ、アンジェ、サディークの三人だけとなっている。
彼等に同行するのは許可されているので、ラグナ達は基本的に集団で仕事をしているのだ。


「っつーわけで、俺らはそろそろ失礼するぜー。バンちゃんに呼ばれてるんで。んじゃ、さいならー」


そう言って、ゼクスの前から立ち去る三人組。
しばらくすると、バンちゃん発見、職員室は意外と広い。


「おお、来たか。ラグナ、お前一応学級委員長だろ? っつーわけで、コレ。んで、アリスと龍は、このバカが遅刻したときのための代役って事で、コレ」


そう言って、修学旅行についての詳しいプリントを渡された。
かなり嬉しい(?)内容が書かれていたが、それはまた後日……。


そして、放課後……。
魔法学校の東に位置する森。
そこに、ラグナを含む生徒等が集まっていた。
珍しく龍は居ないが……ルウによると、修行中らしい。
サディークの一件で何も出来なかったのが悔しかったのだろう。


「んじゃ……龍は修行してる事だし、俺は明日に備えて寝るわ」
「さよならー」


適当に会話をし、次の日……。
案の定、ラグナは遅刻した。


「ラグのバカ……」


龍は爆睡中。
仕方なく、アリスが説明する事に。


「えーっと……皆さんも知っている通り、来週から修学旅行です。全クラス合同で、行き先は知っての通り沖縄です。なお、観光は班ごとで男子3人と女子3人の6人班で行動してもらいます」
「質問!!!」


アリスが説明をしていると、後ろの方の席の男子が手を上げた。


「どうぞ?」
「アリスちゃんと同じ班になってもいいですか?」


その途端、クラスがザワッとした。
次々と男子が手を上げる。


「えー、じゃあ俺も一緒でいい?」
「じゃあ俺も」


な、なんであたし?
アリスは必死に龍に助けを求めたが、彼は寝ている。


「あの、静かにしてください!」


アリスが必死に止めようと、叫んだ瞬間……。
誰かが、再び手を上げた。


「質問!!!」


またか……と、面倒そうにアリスが振り返ると、手を上げている人物は……。
いつの間にかおきていた、龍だった。


「えーっと、音無さん、どうぞ」
「その班って、他のクラスとでもオッケーなのか?」


アリスはハッとしてプリントを隅々まで読んだ。
そこには【クラス混合可】と書いてある。

龍、ナイスッ!
そしたらあたし、ラグ、龍、ルウ、アンジェ、バーナード……で6人!


「えーっと、話を進めますね。持ち物はこのプリントに書いてあるので……」


アリスはA4サイズのしおりを生徒等に見せた。
そこにはビッシリと、細かく予定等が書かれている。


「これで連絡を終わりにします」


日直の号令とで同時にアリスは教室から出た。
そして、男子寮へと全力疾走。
目指すのはもちろん、某バカの部屋。


「ラグゥゥゥ!!!」


バンッ!と勢い良くドアを開ける。
そこにはラグナ、アンジェ、バーナードが。
アンジェたちも、アリスと同じ事を考えていたようだ。


「あ、アリスー。どうしたの?」
「どうしたんですか?」


お茶を入れてくれたバーナードに「ありがと」と言葉を交わした。
そして、ラグナの部屋のソファに腰掛けながらお茶を飲み、一息ついてから話し始めた。


「皆、修学旅行同じ班になって~……お願い……」


クッションに顔をうずめ、泣きそうな声でアリスは言った。
それを見て、アイマスクをつけていたラグナが飛び起きる。


「別に良いぜ? つーか、大歓迎。ちょうど俺らも、アリスと龍とルウ誘おうと思ってたトコだしよ」
「マジで!? ありがとー!! んじゃ、明日辺り、皆で買い物行こう! 学校休みだから、その辺のデパートにでも!」


眼をキラキラと光らせ、アリスが言う。
そんな彼女を見て、申し訳なさそうにラグナが頭を掻きながら言った。


「悪ィな、今日寝坊しちまって……。明日、何かおごってやっからよ」
「マジ!? サンクス!!!」


そう言って、アリスは部屋を出て行った。
他のメンバーを誘うためだ。
その後、ラグナは珍しく紅茶を飲みつつ……外に出て行った。


「ちょっと、出かけてくるわ」


そう言って、外へ。
校庭では、多くの生徒がイチャついたり、遊んだりしている。
そんな中、目的の少女を捜す。
アリスは何処だ……?
そんな事を考えながら歩いていると、ドンッ、と誰かにぶつかった。


「いってぇ……って、アリス?」
「ラグ、何してんの?」


ジャージ姿の彼に、アリスが呆れたように言った。
今更気づいたが……コイツ、ついさっき起きたばっかだった。


「あのさ、メンバー決まったんなら、コレ渡してくれって、バーナードが」
「?」


アリスが受け取った紙には、バーナードが勝手に決めた日程表が。
まぁ、三日目以降は全て自由行動なので構わないが……。
コレ、完全に俺とアリスがカップル的な感じになってね?


「了解~。んじゃ、また明日ね」
「おう、明日、10時に校門前集合だからな!」


そんな二人を、屋上から見る影が……。


「アイツが、数週間前に魔法学校を救ったラグナ・ウィングとアリス・フォーチュンシンガーか……面白そうだな~」

                     つづく

―――数分前、魔法学校上空―――


「ヤッベェな……。ルウ……だっけ? お前の仲間に、この要塞はあと五分で落ちるって伝えてくれ」
「良いけど……アリスは? 一緒に来ないの?」


心配そうにルウが呟くが、アリスは「大丈夫」と言って要塞の奥へ。
このおびただしい殺気……どちらのものかはわからないが、下手すればこの要塞が墜落するまでに決着はつかないだろう。
どちらの力も、拮抗しているから。


「ラグには悪いけど……あたしも、参加させてもらうね」


右手に雷を宿し、要塞の奥へと走っていった。
既に激しい攻防の音が聞こえてくる―――


―――魔法学校―――


「ちょ、何あれ!?」


アンジェが空を見上げると、そこにはバカデカい要塞が。
自分が一度行ったことのあるアレに間違いないが……それが何故、こんな所に?
いや、そんな事を考えている場合じゃない。
一刻も早く、逃げないと。
アンジェは直感でそう感じ、すぐさまバーナード達に避難を促した。


「早く逃げて! 急がないと、落ちてくるよ!!」
「おい! あの中から誰かの魔力を感じるぞ! 誰か居るのか!? あの中に!!!」


生徒を東の森へと逃がすアンジェに、バンが問う。
すると、アンジェは少し言い辛そうな顔をして……バンに言った。


「サディークと……多分、ラグナです。あとの一人はわかりません……」
「ラグナが……?! 生きてたんだな、アイツは!」
「……はい。こちらへ降りてくる気は無いみたいですよ。さっきルウたちが来て、ラグナは今サディークと戦ってる、と……」
「サディーク……アイツ、まさか『ALece』を……」


『Alece』……。
バンが呟いた言葉に、アンジェは首をかしげる。
どこかで聞いたことがあるような、その言葉……。


「先生、『Alece』って?」
「……昔、ある魔法使いの身体を使い、何度も人体実験を行った挙句、その魔法をコピーした機械らしい。その属性は、雷。そしてその魔法使いは……行方不明になったそうだ」


『Alece』の犠牲となった魔法使い……。
それは―――


「ヘックシュン! ……誰かあたしのうわさしてる?」


彼女……アリス・フォーチュンシンガーである。
産まれた時から『未来予知』、『蘇生』という二つの力を持ち、更には魔法まで操るというまさに『神の落とし子』という名がふさわしい存在。
それ故に、彼女は幼き頃から人体実験の対象とされた。
繰り返される、地獄のような日々……。
そんな毎日を彼女が過ごせたのは、サディークという友達が居たから。
だが、彼とは引き離されてしまい、再び実験の毎日……。
何もかもが嫌になって暴れていたとき、ラグナと出会ったのだ。


「……待ってて、ラグ。今すぐ行く!」




†第二十八話『崩壊』







「グルアアアアアアアアアア!!!」


巨大化し、暴走するサディーク。
そんな彼を、ラグナは哀しむように見つめていた。
6年前、狂っていたアリスを初めて見たときのように。


「―――お前、バカだろ……何で、何でそんなに力を求めるんだよ?! お前が生き返らせようと思ったのは、悪魔か!? 違うだろ! お前が生き返らせようと思ったのは……お前が会いたかったのは……アリスじゃねェのかよ!」
「グルグオオオオオオオ!!!」


ラグナが必死に訴えかけても、サディークは聞こうとしない。
自分の世界に、閉じこもっているような……。
サディークの感情、それがラグナの声となって、叫びとなって聞こえてくる―――
怖い、寂しい、哀しい―――


「―――待ってろ、サディーク。今、助けてやる。だから、後で……皆に謝りやがれ!!!」


右掌をサディークに向け、魔法陣を描き始めた。
炎が舞い上がり、魔方陣の中心が発光し始めた。


「……終焉の炎―エンド・オブ・フレイム―」


全てを終わらせる、終焉へと向かう紅き炎。
その炎はサディークの身体に纏わりつき、彼を徐々に蝕んでいく。
だが……サディークはソレを、いとも容易く弾き飛ばした。


「マジかよ……!?」
「ウガアアアアアッ!」


サディークが暴れだし、部屋を破壊していく。
ラグナは軽々とサディークの攻撃を避けるが、落下してきた天井に押しつぶされてしまった。


「がっ……!」
「ラグ!!!」
「……アリス?! 何で此処に!!」


ラグナがアリスを見て叫ぶが、その一瞬のスキを見てサディークの巨大な拳がラグナを吹き飛ばした。
壁をいくつか貫通し、要塞の端へと吹き飛ばされる。
危うく落ちるところだった……。
だが、反応が無い。
意識を失っているようだ……。


「ラグ!!! 起きろよ!」
「ウグアアアアアアアア!!!」


サディークが走り出し、ラグナに追撃を加えようと、目の前の瓦礫に突進していく。
だが―――


「ナメんじゃねェぞおおぉぉぉおおぉぉッ!!!」


瓦礫の中から立ち上がり、サディークに突撃していくラグナ。
サディークの巨大な拳をジャンプでかわし、彼の顔面へとそのまま飛び上がった。


「紅蓮竜翔撃!!!」


炎を纏った拳が、天高く舞い上がる竜の如くサディークを殴り飛ばした。
天井を貫通し、元の大きさに戻って落ちてくるサディーク。
それと同時に、眠ったようにラグナは倒れた。


「倒し……た……?」


彼女の目の前には、倒れている少年が二人。
だが、落下まであと2分。
二人を抱えて脱出する時間は、無い……。


「ラグ、ごめん……。あたし、死ぬかも」


そう呟くと、彼女は装置のある場所へ向かっていった。
ポチッ、とボタンを押すと、地下へ続く階段が。
そこに、この要塞の動力部があるのだ。
彼女は、『Alece』に爆弾を仕掛けており、それが偶々この要塞の落下時刻と同じになっていた。
だが、爆発させてはラグナ達にも被害が及ぶ……。
そこで、この要塞を一瞬で消滅させる事にしたのだ。
この要塞の動力は、サディークが呼び寄せた、地獄の業火……。
魔法学校の結界は幾重にも張られているので、爆発の破片ならば防げるだろう。
だが、こんな巨大な建造物が落ちたら、徐々に結界は破られ、魔法学校に激突する。
それだけは、避けねばならない。


あそこには、ラグの大切な友達がいっぱい居るから……。
だから、あたしが皆を守るんだ。


「―――何する気だ?」


背後から聞き覚えのある声がした。
ハッ、となって振り向くと、そこにはサディークを抱えて息を荒げながら立つ、ラグナがいた。


「あと50秒か……急ぐぞ」
「で、でも、この要塞を消滅させなきゃ……」


戸惑いながら答えるアリスにキレたのか、ラグナが険しい表情になって叫んだ。


「お前一人の命助けられねェんだったら、俺も死ぬ! 自分ひとりが死のうとするんじゃねェ! わかんねェのか?! もう、6年前みたいな思いは二度としたくねェんだよ! だから、犠牲になんてなるんじゃねェ! わかったか!?」


胸倉を掴み、必死に叫ぶラグナ。
そうしている間にも、墜落の時は刻一刻と迫ってきている。


「ラグ! 早く逃げないと!!!」
「わかってる! 急ぐぞ!」


ラグナは、アリスとサディークを抱えて外に飛び出した。
だが、アリスはラグナとサディークを突き落とし、再び要塞の中へ。


「ラグナ!? それにサディークも!」


ルセアが叫びながら指で示した方向には、落下してくる二人がいた。
だが、ラグナは魔法で背中に炎の翼を出現させ、再び要塞へと飛び上がる。

「待ちなさい、ラグナ君! あの中はもう誰も居ないはずでしょ!? 何で戻るの?!」

レイが彼を止めようとするが、彼は必死の形相で飛びながら彼女に叫んだ。


「まだ一人残ってるやつが居るんだ! 急がねェと……爆発しちまう!!!」
「おい! 爆発ってどういう事だ!? ってか、残ってるやつって、誰だよ!?」


龍の質問にも答えず、ラグナは要塞へと飛んでいった。
生徒達がパニック状態になり、そこらじゅうを逃げ惑う。
爆発まで、あと30秒―――


「さよなら、ラグ……」


アリスが静かに呟いた、その時だった。


「さっさと行くぞ! バカヤロー!!!」
「……え? で、でも、もうすぐ爆発が……!」
「んな事知るか!!!」


アリスの手を掴み、ラグナが勢いよく外へと向かっていく。
そんな中、アリスは涙を流しながらラグナに向き直った。


「もうすぐ……爆発だよ……?」
「―――俺がさせねェよ、そんな事ッ!!!」


そして、次の瞬間―――


ドォオォォォォォオン!!!


凄まじい爆音が鳴り響き、要塞が爆発する。
少し破片が落ちたが、それは結界によって消滅させられた。
更に、アリスの予想は外れ、魔法学校から少しはなれたところ……東の森に、要塞は墜落した。
燃え盛る炎に、その身を包まれながら。


「龍! ラグナとアリスがあの中に!!!」
「わかってる! つーか、アリスって誰だ!?」
「……どちらにせよ、彼等は助からないと思います。あの炎の中では……」


バーナードが諦めたような口調で言ったのが気に食わなかったのか、龍が彼の胸倉を掴む。


「何言ってんだよ!? アイツが死ぬわけねェ! アイツが……アイツが、死ぬわけねェんだ……!」


胸倉を掴んでいる手を離し、その場に崩れる龍。





そんな彼等が悲しんでいる最中、空気をぶち壊すかのような陽気な声が。


「―――おいおい、勝手に殺すなよ……。そう簡単に、俺が死ぬわきゃねーだろ?」


金髪の少女を抱えて、炎の中から歩いてくる少年。
何故彼等が生きていたのか、それは数秒前に遡る―――



―――数秒前―――


「俺がさせねェよ、そんな事ッ!!!」


そう叫ぶと同時に、ラグナは自分とアリスの周囲を炎で包み込み、その炎を更に拡大して言った。
自分達を中心に広がる炎は要塞を包み込み、軌道を変えていく。
魔法によって発生された炎が爆発の衝撃を緩和し、そのまま落下したのだ。
自分達の周囲には炎しかなかったので、爆発の衝撃を全て炎が受け止め、助かった……と、いうわけである。
アリスが魔力の放出量を変えて、彼のキズを癒したのと同じ原理だ。


―――現在―――


「なるほど……んで、そのコは?」


納得したかのように頷き、龍がラグナの抱えている少女を見、聞いた。


「ん? あぁ、コイツはアリス。俺のダチだ。んで、サディークの使った『Alece』っつーマシンは、コイツの能力をコピったもんらしいぜ?」
「へェ……」


皆が納得したかのように呟き、そのまま二人を保健室へと連れて行った。
アリスの方は気絶していただけだが、ラグナは肋骨を何本か折り、更には右足の骨まで折っていた。
そんなケガで、よく戦えたものだな、とバンが笑いながら言った。


「うっせェよ……。んじゃ、バンちゃん。俺、寝るから後の事はよろしく!」
「は?!」


そういうと、ラグナはいびきをかいて寝始めた。
スカーは死んじまったけど、俺の心の中に居る。
アリスは今、自分の隣のベッドで寝てる。
みんな、みんな傍に居るんだ―――

その日、彼は夢を見た。
6年前、3人で楽しく過ごしていたときの夢を……。


                   第二章 完