[本]

空木春宵「感応グラン=ギニョル」(2021年東京創元社創元日本SF叢書393p)

関東大震災後の東京に登場した浅草グラン=ギニョル劇場、ここではフランスの本家グラン=ギニョルに倣いつつ、心身に様々な欠損を実際に抱えた少女たちが集められ残酷な見世物劇が行われているのだったが、新しい仲間と加わった一人の美しい少女は震災のショックで心を失った代わりに他者の心を読むことができるばかりか、感知した記憶や感覚を別の他者へ伝達できる能力があり、互いの痛みを交感する歓びに酔いしれる少女たちの残酷劇は観客をも巻き込み、劇場は熱狂の渦に満たされるが……。

 

乱歩・谷崎・川端あたりの昭和初期の幻想系エログロはじめ陰惨な古典文学などを下敷きに、ポリコレやコロナなどきょうびの視点も目配せしつつ、胃もたれするほどの百合で味付けした幻想小説五編を収める。

表題作と掉尾を飾る「Rampo Sicks」は連関しているが、その他の三作も舞台設定は違えど物語の訴えるものは似通っており(感覚、とりわけ痛みへの偏執)、ひとつ前の話と何が違うんだな一本調子感。雰囲気ありげに見せかけて、語彙の貧しい語り口も、だんだん鼻についてくる。「かんばせ」「皓い」「嫋やか」は、いくら何でも頻出の限度を超えている。

巻末の解説者は「マッシュアップ」などときれいな言葉で評価していたけれど、先に挙げた作家たちの文体や作中語をちりばめとけば幻想文学ファンは条件反射で嬉ションするんだろうと端から侮られているようで、同人臭いコスプレ文学としか読めなかった。
(2021/9/24)