[漫画]

遠藤達哉「SPY×FAMILY(10)」(2022年集英社ジャンプコミックスプラス)

表の顔は精神科医ロイド・フォージャー、その正体は〈黄昏〉というコードネームで呼ばれる西国(ウェスタリス)の諜報員である男(本名はフキダシに黒塗り)にも、友達と無邪気な軍隊ごっこに興じる少年時代があり、厳しい父親に「参考書が欲しい」と嘘を吐いてゲットしたお小遣いで兵隊のヘルメットと銃のオモチャを買ったその日、東国(オスタニア)の砲撃が彼の住む街を襲い、皮肉にもヘルメットのおかげで命拾いした彼は母と伯父の住む街へ避難するがそこでも戦火から逃れることはできず、大切なものを全て失った少年は成人の戸籍を偽りローランドという名前で入隊、本物の銃を取って東国の兵士を殺す日々に身をやつして、そのさなか東国の童貞兵士(後の情報屋フランキー?)と遭遇したりもしつつ、怪我で後方送りとなったローランドは軍隊ごっこの仲間たちと再会したのも束の間、彼らは無謀な作戦に駆り出されて命を落とし、失意に暮れている元に現れた一人の男によってローランドは陸軍情報部へ転属となり、新しい女上官〈ハンドラー〉の教育を受けて諜報員への道を歩み出し──というにうなされていたロイドは、アーニャが「雷(トニト)」二個目をゲットしたショックで倒れたことを思い出すのだったが、さてロイドの上司〈ハンドラー〉ことシャーウッド書記官は来る東西交流イベントの主役な「雪解け伯爵」オペラ歌手ウェルマンの訪西が、週刊誌に彼のスキャンダルが突如フライデーされたことで混乱を来すなか、フェイクニュースの可能性を疑わない配属二年目の若手の部下を戒めつつ、元兵士によるウェルマンの暗殺を陰ながら未然に阻止、実はマフィアに狙われていて西国へ亡命する気なのかもしれない伯爵を乗せ西国へ発つ飛行機を見送るのだったが、イーデン校ではアーニャは帰りのバス待ちの時間を持て余していたところをヘンダーソン先生に荷物を運ぶ手伝いを茶菓子につられて引き受け、「雷(トニト)」二個目をゲットしてしまったアーニャを励ますヘンダーソンと、そのことをすっかり忘れていたアーニャがテレパシーで先生の心を読んだ上で交わす会話はいまひとつ噛み合わないのだったが、「星(ステラ)」を8つ獲得した歴代の「皇帝の学徒(インペリアル・スカラー)」の肖像写真が飾られた部屋を見学したアーニャは、何か心に秘するところがあったらしく茶菓子を食べて早々に下校、それぞれ本当の仕事で忙しいロイドとヨルの父母の姿をテレパシーして自分も「勉強を頑張る」と言ってみたところ、ロイドはまた「雷(トニト)」を取ったのではと卒倒しかけるのだったが、ヘンダーソンの茶菓子が気に入ったらしいアーニャのおねだりを聞いたヨルはデパートにひとり買い物へ、そこで大量の買物を抱えて階段を踏み外した一人の婦人を救出し、気に入られたヨルは彼女の所属する「愛国婦人会」のバレーボールチームに仲間入り、人並み外れた身体能力でまたも暴走しかけるヨルだが夫人のアドバイスでチームプレイを学び、その後のお茶会でも交流を深めて、ちょうど「普通の生活」にいまだ馴染めない気持ちを持て余していたヨルの気持ちは晴れやかになるのだったが、彼女を誘った婦人とはアーニャと犬猿の仲なダミアンの母にしてロイドのターゲットなドノバン・デズモンドの妻メリンダで、一見社交的な彼女が時折見せる不穏な言動にヨルは戸惑うのだったが、ヨルから報告を聞いたロイドはこの出会いが偶然かはたまたと思案した結果、デズモンドに近づく計画としてアーニャとダミアンが仲良くなるプランBに加えてプランC のママ友作戦もアリかとヨルの婦人会への入会を勧め、それを聞いたヨルは殺し屋「いばら姫」としての上司な〈店長〉に報告、〈店長〉はデズモンドに理解を示すロイドが気になる様子なのだったが、ロイドの心を読んだアーニャはプランC が上手くいったら自分はお払い箱になるとヨルに対抗意識を燃やしてダミアンと仲良くなるプランを一晩考えるも何も思い浮かばず、ベッキーから教えてもらった「パンをくわえて曲がり角でぶつかる」プランを実行するが、ダミアンに軽くいなされたところへ、くわえた焼きそばパンを彼の頭にぶちまけるだけに終わるのだった。

 

約3話分にわたりロイドの見た夢として語られる過去編がハイライト。戦争がもたらす悲劇を今日的な視線で描いている。時代に受け入れられたヒット作の役目を果たさんと、作品自体が成長していっている感を新たに。

その回想でも子どもたちのやり取りを書かせると、作者の筆は生き生きと。スパイミッションや殺し屋稼業よりもアーニャのイーデン校エピソードが一番楽しいという本作の特徴(問題点でもある)と通じる部分がある。

巻末の短編は、アーニャのお気に入りのテレビなスパイ物「ボンドマン」と、フォージャー家の愛犬ボンドの散歩を任された情報屋フランキーの二編。

更にその後のおまけ漫画にて、祝10巻&10巻かけても話が全然前に進んでないとメタ視点で悩むロイド。

(2022/12/18)