[本]

読売新聞三戸支局取材班「死刑のための殺人-土浦連続通り魔事件・死刑囚の記録-」(2014年新潮社253p※単行本版)

2008年3月、茨城県土浦市で発生した連続通り魔事件のルポルタージュ。この3ヶ月後には秋葉原連続殺傷事件が発生していて、事件が事件を誘発する現象は、先般のいわゆるジョーカー事件とも重なる。

三戸支局取材班による著とされているが、実質的な語りは取材の中心にいた記者・小林泰明によるもの。事件の経緯、金川真大への37回に及ぶ面会と裁判の記録から、死刑のため大量殺人を企てた男の実像に迫る。発生当時、この本で語られているあれこれを目にした記憶があったけれど、ほとんど忘れてしまっていた。

犯行の詳細が綴られるくだりは、金川の内面まで想像して、小説のよう。その後の面会にて、被告の偏った考え方を変えることができないものか思い悩む小林氏の筆は、この手のルポとしてはナーバスすぎるきらいがあった。

 

「砂漠の家族」と呼ばれる、冷え切った家族関係に焦点を当てた第五章がひときわ印象に残る。

・上の妹の証言「金川家の子は「ごめんなさい」を素直に言えず、仲が良かった状態に戻らない。家族の関係が希薄で、バラバラで、家族が本音を隠して、何を考えているか分からない」や、

・弁護士「金川家はささいなことで壊れる。(中略)お父さんも、お母さんも、なぜ上の妹が口をきかなくなったのか分からない。1週間とか1か月だったら別だが、こんなに長い期間、口をきかないで一緒に暮らしている家庭は本当に不思議だ

・外務省官僚だった父親の、引きこもり状態になった金川のみならず、家族と筆談で接していた姉や冷え切っていた妹・弟ら子どもとの関係について曰く「(問題を認識していたけれど)本人が受け入れられる状況になるのを待っていた」結果、何も行動を起こさない。

と、他人事と思えない部分もいろいろ。

 

作者の取材過程にて、同じ茨城県で発生した後藤良次死刑囚(ルポとその映画化「凶悪」で知られる)の登場はサプライズだった。死刑判決を受けて上告中、刑の確定を遅らせるため別の事件について告白したとされる彼の姿と比べると、進んで死刑を求めた金川の特異性が際立つ。

 

ゲームが大好きだったという金川、「犯行とゲームは関係ないゲームを悪者にするな」という主張には、一縷の愛を感じた。

(2022/2/13)