[本]

磯部涼「ルポ川崎」(2017年株式会社サイゾー305p※ソフトカバー版)

2015年、中1男子生徒殺害・簡易宿泊所火災と事件が相次いで発生した川崎の街で生きる人々を、地元発のヒップホップユニット・BAD HOP を中心に追ったドキュメント。

著者がヒップホップ界隈に造詣の深い音楽ライターということもあってか、取材対象者と距離感が近すぎるきらいがある。ヒップホップに何の興味もなく、BAD HOPの名前なんてこの前コロナクラスターを発生させた「NAMIMONOGATARI」ではじめて知ったような門外漢からすると、終始、蚊帳の外から字面を追っている感覚だった。後半、ヒップホップの対岸といえるフォークシンガー・友川カズキの章は、反動的に心地よい空気を感じる。

ある章の主役は、この本が出た翌年に薬物所持で逮捕された君島かれんだったりするので、全く川崎はおそろしいところだという偏見の醸成にこの本自体が一役買ってしまったとは、作者も次書「令和元年のテロリズム」で反省している通り。

BAD HOP の中心メンバーな双子にしても、口にすることが「オレら、初対面の時には、明らかな年下にも敬語を使うんです」(p290)だしな……。

(2021/9/14)