[本]

劉慈欣/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功共訳「三体Ⅲ 死神永生(下)」(Death's End By Liu Cixin2010/2021年早川書房445p)

呈心が雲天明から聞き取ったおとぎ話を解読した結果、人類は三体惑星を滅ぼした未曾有の災厄から生き延びるための計画を練り、

・太陽が攻撃されることに備えて、木星はじめ太陽系外惑星の裏側に隠れる掩体(バンカー)作戦

・光の速度を落とすことで太陽系を自らも脱出不可能なブラックホールに変えれば、外の世界からは安全とみなされるはずな暗黒領域計画

・光の速度に達する宇宙船を開発する計画

などが提案され、いろいろあった末に掩体作戦が採用、呈心と艾AAは寝たり起きたりしながら60年さらに50年と時をジャンプするが、目覚めた呈心が見たものは、三体世界を滅ぼした者たちが放った三次元空間を果てしなく二次元化させる人知を超越した攻撃で、人類の終焉が必至と迫るなか、呈心と艾AAは冥王星に密かに造られていた人類の生きた証を残すための「博物館」へと向かい、そこで齢200歳になろうとしている羅輯と再会を果たし、地球も太陽系の惑星もそして太陽すらも二次元化していく全ての終わりを目撃する二人は、乗ってきた宇宙船が実は呈心のかつての上司で彼女を殺そうとしたこともあるトマス・ウェイドの元で計画が進みながら放棄された光速宇宙船だったことを羅輯から知らされ、太陽系の二次元崩壊を辛くも生き延びることに成功、大昔に雲天明がプレゼントしてくれた恒星のそばにある青い惑星に降り立つと、そこには地球艦隊の生き残り「万有引力」の乗員だった科学者・関一帆(グァン・イーファン)が待っていて、残された僅かの人類が宇宙に築こうとしている新たな世界の一端に触れた呈心だが、三体世界や太陽系を滅ぼした者たちは敵を滅ぼすためなら宇宙の次元をゼロにすることも厭わない連中らしく、そのせいで現在の宇宙は崩壊の一途をたどっているなか、ゼロにすることで宇宙全てをもう一度リセットできるという「回帰運動」説を唱える別の存在もいるらしいのだったが、呈心と関一帆が青い惑星に隣り合う灰色の惑星の調査から帰還中、雲天明と一緒にいるという艾AAからの通信を受けた直後、船は光速の渦に閉じ込められてしまい、十二日間の冷凍睡眠で命を繋ぎ脱出に成功した呈心と関一帆だが、青い惑星へ帰ってきた時には出発時から実に1900万年の時が過ぎ去っていたのだったが、二人は艾AAと雲天明が自分たちのために遺してくれたどこでもドアの先に広がる小宇宙#647=かつての地球を思わせる農場が広がる世界で、オーストラリア時代に縁のあったアンドロイド「智子」の複製品と余生を送ることにするが、暇なので三体文明の文献を解読していると、この宇宙は小宇宙の乱立で質量が減少しており破滅は不可避なことがわかり、間もなく「回帰運動」を唱える何者かのメッセージが届けられ、小宇宙に別れを告げる呈心と関一帆を乗せた宇宙船は、やがて生まれ来る未知なる宇宙へと旅立つのだった。

 

最終的には果てしなき流れの果てへと及んだ、「三体」トリロジー完結編。

主人公の呈心がコールドスリープにコードスリープを重ねて途方もない時を生き延びていく過程に、いまひとつ入り込めないところがあった。ゴミのように死んでいき、とうとう絶滅の運命をたどる地球人類全体と比較して、アンバランスが過ぎる感は否めず。

前作「Ⅱ」の主人公な羅輯同様、優秀な科学者らしい彼女の言動から優秀さがいまひとつ伝わってこないのも一因かも。とにかく寝てばかりいるので、起きたら激変している世界の状況がその都度説明される一辺倒な単調さも、下巻に至って食傷気味ではあった。

ただ、ここまでの時間的空間的スケールの物語を展開されたら、そんなのもうどうでもよくなってくることもまた事実。

日本語訳では全5巻に渡ったサーガ、存分に楽しんだ。

(2021/7/19)