本書の著者である金児氏は信越化学工業で経理・財務畑を歩み、実務家出身者として公認会計士試験委員や金融監督庁顧問等を歴任されておる方です。経理・財務畑の実務家出身者による著書らしく、経理実務を会社経営という大きな視点から記されているのが本書です。


 金児氏の主張の大きなポイントは、

1.経理・財務の仕事は、営業・製造・研究の三位一体で仕事しているものをバックアップすること。

2.経営にとっては制度会計と管理会計(経営会計)の区別はなく、両者は一体的に捉えるべき。

3.「売上学」という学問を創設すべき。

4.会計はヒトを幸せにするものであるべき(そのためにも国際競争力を高めるような会計制度を導入すべき)。



その他、M&Aの実務、借入の実務、また借入の際の担保の実務など興味深い実務の話がありました。




タイトルの通り、会計を机上で学んでいるだけでは忘れてしまいがちなことが記されており、多くの気づきを与えてえくれます。会計系試験の受験生におすすめです。


教わらなかった会計―経営実践講座 (日経ビジネス人文庫)/金児 昭
¥750
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 3.11大震災後から原発の是非に関する議論が続いているが、その中で私は疑問に思ったことがある。

 それは、経済学が人の命や人の健康的生活(精神的にも身体的にも)などの人権に対してある種の貨幣的な価値づけを行い、その中で原発に係るコスト・ベネフィットを論じてることである。それぞれの人が自らの人生についての命や健康についての決定権を不意の病気等を除いて有するのが絶対的に必要なのではないだろうか、人権は貨幣的な価値づけを行う対象として扱うのではなく、プライスレスなものとして第一に尊重すべきものではないだろうか、ということである。

 この疑問についてのヒントを与えてくれたのが本書である。

 正直、ほんとうに、この本はお勧めです。


 さて本書は、経済学者のフリードマンが主張し、ブッシュ(息子)政権が徹底的に推進した「自由競争」や「自己責任」という言葉の称賛をもとにした「民営化」へのアンチテーゼである。ただし、すべての分野の「自由競争」や「自己責任」の推進を否定しているわけではなく、医療分野や教育・戦争などの人権が大きく関わる分野の「自由競争」や「自己責任」の推進を否定している。これらの分野は民営化にはなじまない。その活動目的は利益の獲得ではないからである。これらの分野は人権を担保することが目的であるはずで、利益獲得が目的ではないのである。これらの民営化になじまない分野の民営化から生まれてくる「貧困ビジネス」を各当事者の経験談をもとに描写しているの本書である。

 

 本書を読んで驚いたことが多い。

 アメリカ人に肥満の人が多いのは飽食のせいではなく、貧困のため、少ないお金の中で食べられるものが限られているからだというのである。もちろん飽食のための肥満もあるが貧困ゆえの肥満も多いのである。

 入隊直後のブートキャンプで徹底的に精神を崩壊させ、無感情で戦場で「作業」を行うことができるような「機械的な」兵士を作り上げる実態も衝撃であった。その兵士も巧妙な勧誘によって入隊した貧困層が多いのである。

 他にも戦争の民営化や学歴社会における兵士のリクルート活動の実態、医療保険会社の保険金の出し渋り、株式会社化する病院の内情、9.11後の情報統制(ベトナム戦争ではメディアの情報統制に失敗)など興味深い話題が多い。


多くの貧困層の犠牲のもとに成り立つ一部の人の豊かさ。経済学では、貧困層の犠牲<一部の豊かさ、とな
り全体的には豊かさをもたらすため、貧困層の犠牲が放置される。そんなことを改めて考えさせられました。


 そして本書は、日本のメディアについても報道の自由度が低ことを指摘し、日本人にも情報リテラシーについての意識を促す。

 「情報はその発信源に注意すべき」なのである。



本書が出版されたのは2008年であり、著者は3.11後のメディアの報道についてどのように感じていただろうか。



ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)/堤 未果
¥735
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 97年から99年に財務官を務め、当時の円高相場に対して為替介入を効果的に行った「ミスター円」、現在は民主党のブレーン、慶応義塾大学教授である榊原英資の著書です。2002年に単行本が出版され、2005年に文庫本が出版されました。

 


 さて、本書は為替市場の読み方をおもに記したもので、特に情報の重要性を説いています。

 

 その中でも私が興味を持ったのが、市場の材料となるのはすべての情報ではなく、その時々のファッションに合ったものが選択されるということです。これは、市場を読むときは、厳密にファンダメンタルズの定義だけを追求していても現実の市場にはあまり意味がないことが少なくないということです。ドル安が現在のファッションだからドル安要因のファンダメンタルズをピックアップし、「ドル安だからドル安だ」というようなトートロジー(同義反復)の世界です。

 実際、最近の為替市場でもドル安トレンドが続き、その対策として2011年8月4日に円売り介入が行われました。この介入は翌日のアメリカの雇用統計発表前に行われ、この雇用統計が悪ければさらなるドル安トレンドが続くという市場の心配のなか行われました。しかし、翌日の雇用統計は市場の予想よりも良い結果でありました。この結果はアメリカ経済にはプラスであり、ドル高へのファンダメンタルズなのですが、市場ではこれは特に材料視されることはなく再びドル安トレンドが続いています。大きなドル安トレンドの中では個別のファンダメンタルズは材料視されません。

 また、榊原氏が実際に為替介入した時の戦略も記されていて、興味深いものでした。いかに市場にサプライズを与えて、大きな市場の判断材料とさせるのがが示されているのですが、為替介入しかも協調介入の発表を通例の会見の準備方法とは違い、会見を行う一時間半前に記者クラブに申し入れ(通例では前日までに申し入れ)し、事前の情報漏れを防いだことが有効に働いて市場に大きなサプライズをもたらし、円高ファッションの反転をもたらしたと述べています。しかし、その一方で記者クラブの反感を買い、謝罪を求められたそうです。そのためか、記者クラブ批判は本書に多く記されています。


 本書での一番の主張はやはり、情報の重要性であり、現実には上手くなじまない経済理論は知識の整理・情報の分析には必要だが、現実の事象の情報こそが大切であり、為替市場は情報戦争であると述べています。

 月並みですが私個人としても、情報は非常に大切だと考えており、為替市場に限らず、グローバル市場で稼ぎを得るうえで個人を差別化するために情報収集能力・情報分析能力・情報発信能力は非常に大切なものだと考えています。




 最後に、意外だったのが為替管理当局であった榊原氏がヘッジファンド、特にアジア通貨危機をもたらしたソロス氏を彼の震源性を含めて為替市場のプレーヤーとして尊敬しているようであった点です。

 日本が世界大戦で負けた要因の一つであるといわれている敵国に関する情報不足は自らの敗戦をもたらしうるのです。

 彼は敵をも尊敬し、交流を重ねることで敵の情報を得ていました。



為替がわかれば世界がわかる (文春文庫)/榊原 英資
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