97年から99年に財務官を務め、当時の円高相場に対して為替介入を効果的に行った「ミスター円」、現在は民主党のブレーン、慶応義塾大学教授である榊原英資の著書です。2002年に単行本が出版され、2005年に文庫本が出版されました。
さて、本書は為替市場の読み方をおもに記したもので、特に情報の重要性を説いています。
その中でも私が興味を持ったのが、市場の材料となるのはすべての情報ではなく、その時々のファッションに合ったものが選択されるということです。これは、市場を読むときは、厳密にファンダメンタルズの定義だけを追求していても現実の市場にはあまり意味がないことが少なくないということです。ドル安が現在のファッションだからドル安要因のファンダメンタルズをピックアップし、「ドル安だからドル安だ」というようなトートロジー(同義反復)の世界です。
実際、最近の為替市場でもドル安トレンドが続き、その対策として2011年8月4日に円売り介入が行われました。この介入は翌日のアメリカの雇用統計発表前に行われ、この雇用統計が悪ければさらなるドル安トレンドが続くという市場の心配のなか行われました。しかし、翌日の雇用統計は市場の予想よりも良い結果でありました。この結果はアメリカ経済にはプラスであり、ドル高へのファンダメンタルズなのですが、市場ではこれは特に材料視されることはなく再びドル安トレンドが続いています。大きなドル安トレンドの中では個別のファンダメンタルズは材料視されません。
また、榊原氏が実際に為替介入した時の戦略も記されていて、興味深いものでした。いかに市場にサプライズを与えて、大きな市場の判断材料とさせるのがが示されているのですが、為替介入しかも協調介入の発表を通例の会見の準備方法とは違い、会見を行う一時間半前に記者クラブに申し入れ(通例では前日までに申し入れ)し、事前の情報漏れを防いだことが有効に働いて市場に大きなサプライズをもたらし、円高ファッションの反転をもたらしたと述べています。しかし、その一方で記者クラブの反感を買い、謝罪を求められたそうです。そのためか、記者クラブ批判は本書に多く記されています。
本書での一番の主張はやはり、情報の重要性であり、現実には上手くなじまない経済理論は知識の整理・情報の分析には必要だが、現実の事象の情報こそが大切であり、為替市場は情報戦争であると述べています。
月並みですが私個人としても、情報は非常に大切だと考えており、為替市場に限らず、グローバル市場で稼ぎを得るうえで個人を差別化するために情報収集能力・情報分析能力・情報発信能力は非常に大切なものだと考えています。
最後に、意外だったのが為替管理当局であった榊原氏がヘッジファンド、特にアジア通貨危機をもたらしたソロス氏を彼の震源性を含めて為替市場のプレーヤーとして尊敬しているようであった点です。
日本が世界大戦で負けた要因の一つであるといわれている敵国に関する情報不足は自らの敗戦をもたらしうるのです。
彼は敵をも尊敬し、交流を重ねることで敵の情報を得ていました。
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