浅草散歩② | ラフィーネさんのブログ

浅草散歩②

店構えに惹かれて暖簾をくぐるというのは、
呑兵衛にとって散歩途上の楽しみでもあります。

「さくま」はNさんの紹介ではありますが、
紹介ならずとも覘いてみたくなるような佇まい…。

ドアを開けると開店間もないにもかかわらず、
カウンター席は2つしか空いていません。
もう常連さんで席は埋まっているのでした。

「1人だけど、いいですか……」
大女将(Nさんの同級生のお母さん)は、
一瞬見慣れない顔に断わりたげ…の表情でしたが、
「こちらへどうぞ」と座らせてくれました。

「流れで入ってくるお客さんをよく断っているので、
Nの紹介と言ってください」と言われていました。
でも、できればそう言わずに入りたかったのです。

常連さんを大事にしていることはすぐにわかりました。
一見の客を断るというのではなく、常連が入ってきた時、
席がなくて返さなくともいいようにとの心遣いです。

いずれにしろ早い時間に常連で埋まるという店は、
T生の好み、いい店に違いないのです。

“おばんざい”が並んでいましたので、
ビールと2品ほど頼みました。
「うまい」、いずれもいい味です。

「合羽橋の道具街で店をやっている同級生は、
毎晩ここで一杯飲みながら晩飯をすませています…」
なるほどヘルシーだし、飯のおかずにもピッタリです。

角に置いてある煮込みの大鍋が目に入りました。
Nさんから「自分は食べないが、評判」と
聞いていましたので、さっそく注文。

醤油ベースの煮込み、T生には懐かしい味です。
まだ口開けで煮込みが浅く少しすじ肉が堅めでしたが、
久しぶりの味付けを堪能しました。

お代わりをしているT生を見ていた客が、
「△△の煮込みもうまいんだけれど、
ちょっと脂っぽくてね……」
「○○ちゃん、余計なことは言わないの……」
間髪入れず大女将がたしなめます。

そうそう、馬券売り場の裏、△△の煮込みだ。
T生が日曜日の早朝、20年通った店です。
バブルの頃までよく手配師が日雇いを連れてきて、
飯に煮込みをぶっかけた牛めしを食べさせていました。

「△△の牛めしを食ったら、
チェーン店の牛丼なんざぁ、食えねぇよ……」
店にたむろするおっちゃん達が一様に言います。
この評価、実はT生も同感なのであります。

「△△の煮込みを食べたいと思わなくなったら、
その時はおいらの体もポンコツだろうな……」
よくそう思ったものですし、現在そうなのであります。
その点、さくまの煮込みは同じ系統なのですが、
上品に仕上がっているのでした。


ラフィーネさんのブログ

(テレビ東京「アド街ック天国」のHPより、
http://www.tv-tokyo.co.jp/adomachi/backnumber/20120825/74906.html )

そんなことを思っていたらさんまが焼き上がり、
お客さんたちに配り始めました。
太く脂の乗った大きな新さんまです。
どうやら、焼き魚はおすすめらしく、
常連の多くが一番に注文していたようです。

お隣さんも召し上がっていました。
まず“はらわた”をうまそうに食い、
食べた後は頭と骨だけがきれいに残っていました。

それまでは無口でいましたが、思わず話しかけました。
「きれいに召し上がりますね、うまそうですね」
「(他の常連を指さし)みな同じように食っているよ。
ここで食べたさんまの中で一番うまかったかな。
すぐ無くなるから、頼んだほうがいいよ……」

大女将が余計なことを言うなと目で合図をしています。

「私はいつも焼き魚を頼み、それでビールを1本、
あとは入れたボトルで水割りを何杯か飲んで帰ります」
なるほどNさんもつまみは焼き魚と言っておりました。

常連さんのために仕入れにこだわっているのだな、
常連さんもそれを楽しみにしているのだなと知りました。
まだ店を開けて30分程度しか経っていないのに、
6人分は出ていたと記憶しています。それゆえ、
あとにくる常連さんに取って置きたいのでしょう
「煮込みをお代わりしたのでお腹がいっぱいです」
そうお断りをして波風を立てないようにしました。

ほろ酔い加減になり常連さんにも馴染んできましたので、
Nさんの紹介できたことを申し上げました。

「あら、私が同級生よ。Nちゃん大好きなんだけれど……、あはは!」
いかにも下町の女将さんらしい気の置けない切り返し。

それまできりっと板場を取り仕切っていた大女将も、
「Nちゃん、私も大好きよ……」と相好が崩れました。
Nさん、さくまで愛されているんですね。
こんないいお店でうらやましい限りです。

新規の常連さんが入り、席がなさそうなので
おいとますることにしました。
大女将が「悪いはね、またいらっしゃい」と
わざわざ送ってくれました。

浅草は人情の街、やっぱりいいですね。