思い出し話をしましょう
こんないい天気の日は 宝物の話を少しだけしましょう
私を夕陽が照らしたのは
中学三年生の六月でした
着慣れた制服に身を包んで、突然やってきました
初めてみたのは四月
悲しい黒色の中で、名前もしらないまま
私は夕陽に出会いました
そのときは 決してその夕陽が自分のものになるなんて
思ってもいなかったんです
六月の四日の深夜、性格にいえば五日の朝。
電子文章から
私と夕陽の恋は始まりました
ぎこちなく、だけど優しく
夕陽勘違いされやすいような、不器用な性格をしていて
まわりの女の子達からは、やめときなよって
何度も、何度もいわれました
だけど、私はその夕陽が
はかなげで、やさしくて、あたたかくて
世界を夜が覆う前の明かりのような
その柔らかさを知っていました。大好きでした。
クラス全員で、大好きな担任の先生も含めて
フルーツバスケットをした時
今でも忘れられない、あの時
夕陽が席を逃して、指令を出す時
一瞬こちらを伺って、迷うような顔をして
それからいたずらっ子のような笑顔で私の前に立って
「今、彼氏、または彼女いる人ー」
って、いったのです。
びっくりして、かたまった私に
「ほら、たてよ。お前、彼氏いるんやし?」
にやり、笑いながら親指をぐっと後ろにひいた
クラス中の冷やかしで真っ赤になった私を
おもしろそうに、だけどやっぱり赤くなりながら
夕陽は微笑んだ
嬉しかった
幸せだった
ずるぃよ、と、帰り道でいったら
手をつながれた 熱い熱い体温と日差しのなか
夕陽はやっぱり照れたように笑った
六月の終わり、真っ暗のグラウンドで
母親からの、遅い!というおしかりのメールをうけながら
塾の帰り道、夕陽は私の肩に触れた
二度、三度繰り返してふれて
それから照れくさそうにわらって
こっちをじっとみた
最後に一度だけ、肩をたたかれて
優しく、ノックするみたいに
そっと抱かれて、陰が重なった
ふれた夕陽の熱で、頬が熱かった
失敗したこと、後から泣きそうって照れてた電子文章
今も消せないままの昔のアドレス
私の、大事な宝物
好きだという言葉も、
両手で数えきれるくらいしかもらえなかったけれど
好きだという思いは、
もう一生何もいらないといえるくらいもらった
暗闇の中で、どこにもいけなくなった私を照らし出したのも夕陽
一度はぐれた十月
すれ違いだった
悲しい闇が夕陽を取り込んで、
何もかも捨ててしまいたがっていた夕陽
誰が嫌っても、あなあが世界を照らせなくても
そのときは、私が代わりにそばにいるからと微笑んだ私
「お互いがいなきゃやっぱり、だめだったね」
横向きの世界で、鼓動をききながらふざけていった一言
ばか、って返されると思ったら
泣きそうに、うるんだ目で一つうなずくから
泣き出した私を、やっとばかって笑ってくれた
「俺もお前がいなきゃ、だめだ」
「ありがとう」
「俺のそばにいるやつは、結局最後は俺を嫌う」
「泣くなよ、泣き虫」
「自分だって」
言い返した私をみて、もう一度微笑んだ
恐がりでした
とても危うげでした
私も、夕陽も二人の世界で生きていました
今思えば穏やかでした
さよならをいえなくて、壊れた涙腺を治しにきたのも夕陽
私の一年間を、鮮やかに切なく描きだしたのも夕陽
何度も何度も、この話を繰り返す
同じ話を馬鹿みたいに、壊れたオルゴールみたいに
私は繰り返す
だって一つも色あせさせたくないから
それから、風の日も雨の日も
夕陽に照らされて、その弱い夕陽を抱いて
毎日を生きていました
二人で眠り、二人で生きていました
酸素を求めるように、寄り添って
冬の日も、春の日も一緒にいたのに
夕陽が生まれたその日、
突如訪れたその日
一年と少しでした
その間に、贈った愛の言葉は一生分
もらった愛の時間も一生分
まるで、一生をともにしかたのような錯覚でさえ覚えました
嫌いになったの?
そんなわけない
他の光を見つけたの?
お前以外のひかりなんてみえない
寂しがりのあなたは、耐えられなかったのです
同じ場所にいられないこと
逢いたいときにあえないこと
弱くもろい君には、そばにいてあげられる誰かが必要でした
そしてその誰かは、私なのです
宝物は少しずつ
私と夕陽の毎日を語るには
私の一生だけでは短すぎるから
それくらい色あせないで、この心に眠る
私はやっぱり、今も彷徨い続けている
忘れられないまま、夕陽も彷徨い続けていることを
風の頼りでききました
私以外の誰かに触れかけて、だけどやめてしまったことを
私の話を、夕陽も風にきいて
それで、やめてしまったことを
時を隔てて、もしも今この世ではもう二度と会えなくても
いつかまたどこかで出逢えやしないかと
二人は、まださがしている
お話の続きを
終止符をうったお話
だけど、続編を今もまだ探してる
きっと夕陽も
最初の一ページは、この前つづった電子文章
もう一度、あなたに照らされることが私は少し怖い
あなたももう一度、優しさに抱かれることが怖い
私たちは恐がりだけど
一歩も踏み込めないまま朝を迎えるのは
もうやめにしないとね
今じゃなくてもいい いつかでいい
今は無理だとわかっているから
さとちゃんがいうように 旅の終わりは
出来れば、あの優しい夕陽の腕の中で眠りたい
今は、夕陽でなくて
優しくて深くて大きな海に揺らいでいる
抱きしめられて、その中でついた傷をいやしている
その人が大事で、大切でこれからも
そうであればいいと願っているよ
寂しがりなあなたとの約束を守るために
私だけはいつまでも、あなたを好きだという約束を
私だけはいつまでも破らないよ
昔の約束 消えない約束 死ぬまでずっともっていくよ
夕陽が海に沈んでも、その海底であなたをまってるよ
私はあなたを忘れない
一人だとは思わないでくれたらいい
形は違っても、あなたをいつまでも忘れないから