マウスでは白血病が頻発するのに対して人では固形がんや代謝疾患あるいは老衰に伴う肺炎等が主な死因になります。ですから人に対する影響を見るためには代謝疾患や老衰が生じるモデルを使う必要があります。

 

そこで、レプチンという摂食に関するホルモンの受容体の遺伝子が壊れており、加齢とともに肥満するII型糖尿病マウスを使うと625日という平均寿命が、通常の7000倍の700μGy/hで飼育すると16%延長し、皮膚や腎臓の状態が改善されました(図)1)

 

日本人の場合にはあまり太らなくても年をとると糖尿病になるケースが多いのですが、この日本人型糖尿病を発症するアキタマウスを使った場合にも283日という平均寿命が700μGy/hでは27%の寿命延長効果が観察されました1)

 

アキタマウスではインスリン遺伝子が変異しインスリンを分泌する腎臓のβ細胞に異常インスリンが蓄積するためインスリン分泌能力が低下し糖尿病になります。インスリンの分泌が悪くなる老人性糖尿病のモデルです。

 

クロト(klotho)という遺伝子が変異したマウスはカルシウム代謝などに異常があり若くしてやせ衰える老衰のモデルマウスです。平均寿命はわずか56日ですが700μGy/h環境では13%寿命が延長しました2)

 

700μGy/hで飼育したマウスでは抗酸化力が強化されストレス耐性になっています1,2)。酸化ストレスは代謝疾患や老化の要因と考えられており、ホルミシスによる抗酸化力強化が寿命延長の一因だと考えられています。

 

1) Nomura, T. et al., Radiat. Res., 176, 356-365 (2011)

2) Nomura, T. et al., Radiat. Res., 179, 717-724 (2013)

 

 

馬替生物科学研究所 所長

                     第1種放射線取扱主任者
                                  馬替純二