井上保孝・郁美ご夫妻は、
1999年11月、東名高速道路で起きた酒酔い運転の大型トラック事故によって、
長女・奏子(当時3歳)ちゃんと
次女・周子(同1歳)ちゃんを目の前で亡くしました。
飲酒運転を常習にしていた、トラック運転手は、
業務上過失致死傷罪と道路交通法違反の罪に問われましたが懲役4年。
井上さんら被害者遺族は、あまりに刑罰が軽いとして
法改正を求める署名運動を始めました。
これが実って、2001年に「危険運転致死傷罪」が刑法に新設されたのです。
「危険運転致死傷罪」の刑の上限は懲役20年。
懲役7年の「過失運転致死傷罪」よりも大幅に重くなっています。
ところが今、この危険運転致死罪を
さらに見直そうという動きがあります。
飲酒運転や猛スピードでの運転など、
危険で悪質なのに適用されないケースが
少なくないからです。
たとえば 2020年、
福井県福井市内において
酒気帯び運転の男がパトカーの追跡から逃走中
時速105キロで軽乗用車に衝突し、
相手の男女2人を死傷させた事故も
危険運転致死傷罪が認められませんでした。
過失運転致死傷罪で懲役5年6か月です。
条文があいまいなのが、
適用の壁になっています。
現行の法律は
高速度の要件については
「進行の制御が困難」なこと、
飲酒については「正常な運転が困難」と
規定しているのですが
具体的な「数値」の定めがないのです。
そこで、法制審議会(法務大臣の諮問機関)の刑事法部会は、去年12月25日、
スピード違反と飲酒運転の「数値基準」を盛り込んだ
改正要綱案を取りまとめました。
スピードに関しては
一般道は最高速度の50キロ超過、
高速道では60キロ超過に決め、
飲酒は呼気1リットル当たり0・50ミリグラム以上のアルコール濃度としました。
政府は通常国会で
自動車運転処罰法の改正を目指す方針です。
と、ここまで読むと
とても良い話のように感じるかもしれません。
せっかく遺族の努力で生まれたこの制度を
もっと適用するための動きではありますし。
しかし、ちょっと待ってと
きょう
遺族らが、要望書を出したのです。
WHOの実験では
0.3ミリグラムで
遅延反応がでるという結果が出ています。
それなのに、改正要綱案の数値は高すぎます。
アルコール濃度は
時間とともに漸減していくことからすると、
数値基準を低めに設定するべきなのです。
また、こんな心配もしています。
遺族が「状況から見て明らかに危険だったはず」といくら訴えても、数値が低いことを根拠に、補充捜査を拒否されたり、
署名活動しても聞き入れられなかったりするケースが、過去にも多かったのです。
ひき逃げされたのに、
捕まるまでの間に犯人の身体からアルコールが抜けて検知されなかった例もあったといいます。
もし、数値だけが絶対的な根拠にされてしまうと
どんなに悪質なケースであっても、
数値が満たないというだけで適用されなくなる恐れもあります。
それに、体内のアルコール濃度が充分に下がるまで逃げようと考える人が増える可能性だってあるのです。
そうならないための運用について、
法律に明文化すべきだとしています。
さらに、ひき逃げ犯の
「逃げ得」を防ぐことも求めています。
今回要望書を提出した
「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」は
逃げた飲酒ドライバーのほうが、
事故現場に残って救護活動をしたドライバーより
刑が軽くなってしまうという法律の抜け穴をふさぐため
10 年余り活動し、
ようやく2013 年に
「過失運転致死傷アルコール等影響発覚 免脱罪」が制定された経緯があります。
しかし、
この最高刑は拘禁刑 12年にとどまります。
道路交通法上の救護義務違反や報告義務違反との併合罪を適用しても最高刑は 18 年です。
危険運転致死傷罪の20 年に比べても低いことになります。
このため遺族らは
最高刑を
拘禁刑 14 年以上に引き上げることを要望しています。
「危険運転致死傷罪」が生まれたのも
「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」ができたのも、
一番苦しんだ遺族らによる
長きにわたる戦いの結果でした。
そもそも元々の法律ができたり
改正されたりするときに、
当事者らの声は十分に生かされたのでしょうか。
遺族らは
被害者がわざわざ証拠を自ら集めようとしたり、
署名活動をしたりしなくても、
危険運転致死傷罪の適用を積極的に検討してもらいたいとしています。
