其の九 『拝啓 まだ見ぬ君へ』

 

君がこの世に生を受けし報に接し

我は静かに悦びにけり

 

母者と君が息災

これに勝る悦びはなし

 

母者の乳をたくさんに

大きくなりなされ

 

よく泣き よく笑い

そして よく寝るように

 

やがて 我まぶたに刻まれる

君が姿を ただ心待ちにせん

 

君が眼(まなこ)に 

我姿が映る日を楽しみにせん

 

呉々も賢く

母者に苦労をかけぬように

 

君がそう育つことを

今は ただ祈らん

 

父者は その務めに従い

街を歩き 品を求めにけり

 

その折の一句は

君とその母者に捧げん

 

自らを“福寿草”と

例えたものなり。

 

“年の瀬に 浅草そぞろや 福寿草

手にせし宝 まま悦ばせん”

 

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(上の句)暮れも押し迫るころに、

やや落ち着かない感じもありながら、

私は浅草を歩いていた。

 

(下の句 ①)親の務めを果たし、

何とか我が子を悦ばせたい、そんな気持ちだった。

 

(下の句 ②)ようやく逢えるであろう君を

何とか悦ばせたい、そんな気持ちだった。

 

※ 福寿草は、“元日草”或いは、

“朔日(ついたち)草”とも呼ばれる花である。

黄色い花を咲かせ、新春を祝う花である。

 

短信 私より

 

敬具

 

文責・味酒 ふびと 拝