らぶか「先生、ジャイ子氏側は、5万ラブカの違約金は法外だ、受け入れられない、と言ってきましたが、」
私は、星鮫弁護士の事務所に来ていました。
らぶか「先方が提案した、慰謝料1万+違約金2万ラブカは、相場の上限に近いというのは私も十分理解しています。でもこの額は、裏で出資する夫からしたら、決して怯む金額ではありません。」
星鮫「ジャイ子氏とご主人で相談して決めたのかもしれませんね。3万ラブカまでなら払ってもいい、とご主人はおっしゃったのかもしれません。」
らぶか「こんな額で、私を納得させようなんて無理です。何とか5万ラブカの違約金を呑んでもらう方策はないのでしょうか。私にカードは何もないのでしょうか。。。」
星鮫「あちら側は、既婚者と知らなかったから本来は支払い義務はないというスタンスです。合意書を公正証書にするというこちら側の要求もきっぱり拒否してきました。」
らぶか「支払い義務がないと言うのなら、尚更、慰謝料は要らないというこちらの案に不服はないはず。。。5万の違約金はもう諦めなくてはいけないのでしょうか。」
星鮫「もちろん、先方の案を受けなければいけない義務はありません。ただ、お互いがお互いの主張をし続けても、示談交渉は決裂するだけです。」
らぶか「。。。」
彼の言っていることはよく分かる。
分かってる。。。
でも、こんなにきっぱり言われてしまうと、
では弁護士って何をするの?
素人の私はそう考えてしまいます。
高額の違約金を受け入れ、覚悟を持って誓約してもらわなければ、人生を壊された身としては、到底承服できない。
自分の要求を呑んでもらえないのなら、やはり訴訟を起こした方がいいのだろうか、いう思いが頭をよぎります。
裁判になれば、ジャイ子氏は夫を証人として出すだろう。
「独身と偽っていた。彼女が気付く術はなかった。過失にも当たらない。」
そう夫に言わせるつもりだろう。
夫との交際期間について、彼女は既に嘘をついた。
裁判で偽証するのは目に見えている。
「(夫が独身がどうか)怪しいと思っていた」と彼女が言っていた、と私に話す夫の音声データはあるものの、彼女に過失があったとする確固たる証拠とはいえない。
敗訴になる可能性もある。
仮に、私が勝訴しても、慰謝料が支払われるだけ。
裁判所は接近禁止を強制することはできない。謝罪しろと命令したり、誓約書を書けと強制することもない。当然ながら違約金も定めない。これらは示談交渉の範囲だ。
慰謝料払って終わり。
また彼らは不法行為を続けるだけ。
(再度証拠を取り、改めて慰謝料請求はできるが)
勝訴も敗訴も、もうどっちだっていい。
判決がどうであれ、裁判なら、ジャイ子氏を証言台に立たせ、2人の不誠実な悪質な行為を、公にすることができる。晒し刑だ。
夫も証言台に立たせることで、2人の関係にいつしか亀裂が入り、別れることだってあるかもしれない。
私はそのタイミングで離婚を切り出したい。
それまでは、夫が家を出ていくのを何とか阻止したい。
別れたいと切り出す前日まで、私にその素振りを全く見せずに、突然崖から突き落とした夫がどうしても許せませんでした。
帰宅時、玄関先まで迎えに行かないといつも「らぶか、らぶか」と甘える夫だった。帰宅のハグをして、私の用意した夕食をもりもりと食べ、翌朝いつもどおり一緒に家を出る。
あの日の前日も同じような1日を過ごした。
あれから呼吸が浅くなり、目眩が収まらなくなりました。仕事中もふと思い出し涙が溢れそうになります。
らぶか「先生、訴訟提起することについてどう思われますか?あくまでも敗訴で費用持ち出しになっても構わないという前提です。探偵調査費だけで既に全額回収は無理な状況なのですが。」
星鮫「一応費用についてもう一度お話しておきます。最初にお支払いいただいた着手金、解決時にお支払いいただく報酬金とは別に、訴訟費用がさらにかかります。」
改めて料金表の用紙を見せられて、怯んだ自分が情けなかった。
なぜ苦痛を味わっている私ばかりがお金を費やさなければいけないのだろう。
星鮫「そして、示談と比べて、裁判は判決までさらに長い時間を要します。」
らぶか「。。。」
星鮫「勝訴したとしても、らぶか様のケースの場合、慰謝料1万ラブカどころか、その半分以下の判決がおりる可能性はあります。」
らぶか「それは承知しています。」
星鮫「裁判は、お互いが勝つために、ご夫婦のパーソナルな内容まで踏み込むこともあるでしょうし、ご主人とジャイ子氏の交際の詳細も知ることとなります。精神的な負担はより大きくなるかもしれません。」
らぶか「。。。。」
しばらく何も言えませんでした。
押し黙って固まっている私を見つめ、
星鮫弁護士は、口を開きました。
星鮫「2人が別れる見込みがない、そして、ご主人が慰謝料を彼女の代わりに払う可能性が高い、さらに、らぶか様の離婚の意志が固まっているのであれば、」
一旦、言葉を切りました。
星鮫「先方の提案通り、慰謝料は受け取っておく選択も悪くはないと思います。その先の離婚を見据えて、ご主人からもらえるお金は早めに確保しておくということです。」
らぶか「。。。」
離婚の意志はある。
でも今はまだ離婚のことまで考えるだけのキャパはない。
星鮫「将来、ジャイ子氏が違反をして、違約金を請求するとなった場合、ジャイ子氏が反論してきたり、減額交渉をしてきたら、フルでもらえるとは限りません。」
らぶか「違約金を素直に払ってくれない場合、先生にまた交渉をお願いしたいとなったら、新たに弁護士費用がかかるんですよね?」
星鮫「その通りです。確実な証拠を取るための調査費用もまた発生するかもしれません。」
らぶか「。。。」
星鮫「違約金は、現時点では確実に取れるという保証はありません。であれば、もらえるうちに確実なお金(慰謝料)は受け取っておいた方がいい、ということです。」
らぶか「。。。」
星鮫「慰謝料1万ラブカは決して悪くない金額だと思います。」
先生の言っていることは頭では分かっている。
十分、十分、分かっている。
でも、気持ちが収まらない。
泣き寝入り。
私にとっては完全に泣き寝入りだ。
私が何をしたっていうのだろう。
悔しかった。
どうしたい?
私はいったいどうしたい?
こんなお金、もらっても意味はない。
でも戦いに耐えられる自信もない。
過去を取り戻すことができないのなら、
何を選択しても救われないのなら、
いっそのこと、
記憶喪失になりたい。
すべて忘れて楽になりたい。
苦しみから解放されたい。