探偵事務所との面談の日。
仕事を早々に切り上げ、事務所へ。
意外とこぎれいなオフィス。。。
パリッとスーツを着た清潔感のある男性が礼儀正しく迎えてくださり、個室に通されました。
松田優作みたいに頭をクシャクシャっとして煙草を加えているような人はさすがにいませんが、失礼ながら、もう少し胡散臭そうな雰囲気なのかなと思っていました。
しばらくして入ってきたのは、自分の母よりはひと世代若いと思われる品のいい女性でした。チェーン付きの眼鏡をしています。
小脇に抱えたラップトップとペンケースをテーブルに置きました。少し微笑みながら私を見つめる表情でベテランだと分かります。
「はじめまして。南瓜と申します。」
落ち着いた口調で私に名刺を渡しました。
着席した後、南瓜さんは一息つき、
「さあ。何があったの。聞かせて。」
私たち夫婦のこれまでのこと、突然離婚を切り出されたこと、おかしいと調べたら夫が浮気をしている可能性があること、夫は別居用マンションを水面下で探していること、相手に独身だと偽っている可能性が高いことなどを説明しました。
相変わらず泣きながらの説明で、夫婦のどうでもいい不要な話までしてしまった気がしますが、南瓜さんは、ふんふんと聞いてくれました。時折、妻として女性としてのアドバイスもくれます。叱咤も入りました。
一通り聞いた後、
南瓜さん「さあ。どうしようか。貴方はどうしたいの? 離婚したい?それとも夫婦続けたい?」
らぶか「夫の不倫は本気のように思えますが。。。でも私としては、まずは夫に戻ってきてもらう道を模索したいです。」
南瓜さん「了解。どちらにしても証拠は取っておかないと。一刻も争うわよ。」
らぶか「はい。。。ただまだ2人の関係がどこまで進んでいるのか分からなくて。とりあえずは、しばらく様子を見て。。。」
南瓜さん「らぶかさん。ご主人は貴方に隠れて別居用の物件を探している。相手は期間は短いながらも以前に付き合った女性よ。そして貴方に離婚を切り出した。今頃どこかの物件を契約してしまったかもしれない。ご主人が家を出ていった後に、浮気を追及しても、不倫相手との交際は別居してから始まったのだと嘘をつくわよ。さらに夫婦関係は既に破綻していた、と主張するかもしれない。慰謝料も取れないかもしれない。」
らぶか「。。。」
契約を取るために、多少クライアントの不安を煽ることは、テクニックとしてあるかもしれない。
でも、南瓜さんが言っていることは正しいのだ。
夫のスマホのネット履歴を見ていても、着々と準備しているのが分かる。
そして、南瓜さんの話し方や表情から、この人はきっと信頼できる人だ、探偵事務所はまだ1社目だけど契約してもいいかもしれない、と直感的に思いました。
これまでの人生、直感で判断してきて、大きな失敗はなかったのですが、今の私は自信を失くしてしまっていました。
らぶか「ま、まずは1日考えさせてください。浮気を知ってからまだ1週間で、ショックのあまり自分の判断力に自信がありません。なので、今日は元々判子も敢えて持ってきてません。一晩考えて明日改めてご連絡します。」
南瓜さん「そう、判子なくてもサインで契約はできるけど、ま、いいわよ。じゃ、あさってなら私夕方空いているから、明日できるだけ早めに電話して。」
帰り際、エレベーターの前で、私を上から下までサッと眺めて、
南瓜さん「あなた、長い髪後ろでキュッと一つにまとめてるけど、おろした方がいいわ。ふわっとしたウェーブかけてね。一つにまとめるなら、毛先もね、ちゃんと巻くの。服はもっと明るめのパステルカラー。そんな黒ずくめダメよ。」
らぶか「は、はい。普段は毛先をま、巻いてるのですが、この1週間はその気力がなくて。。。」
「あの。。ひとつお聞きしていいですか?なぜ南瓜さんが私の担当として選ばれたのですか?」
南瓜さんは微笑んで、
「申し送りシート見たらね、貴方がコールセンターの担当に始終泣きながら話してたって書いてあったの。だから女の私になったんじゃないの?」
らぶか「はあ。。。」
南瓜さん「大丈夫よ。ご主人は貴方の元に帰ってくる。また連絡ちょうだいね。」
ビルから出て1人になりました。
何かが始まったような気がしました。
南瓜さんは、その後、私の強力な助っ人になります。とても人間味あふれる厳しくも温かい人でした。
人生どん底に落ちてフラフラの状態だったあの当時、彼女との出会いがなかったら、私は精神的に壊れていたかもしれません。
人生悪いことばかりではありませんね。
感謝の気持ちで一杯です。
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