もうすぐ老健を退所して

自宅へ帰る予定の男性利用者と

理学療法士と私とで

退所前訪問をした


家にはその男性の妻がいる


家の中に入るなりその妻は

「もう家で看られません」という

じぶんも歳だし

もし転んだら起こすことができないとのこと


けれどその男性は

軽い認知症はあるけれど

杖なしで歩けるし

上がり框も手助けなし

排泄もトイレで自立


すぐ近所に息子家族も住んでいる


なのに

1日足りとも帰ってきてもらっては困るという


畳の上に右膝を立てて座り

男性はそんな妻の言葉を何も言わずにきいている


妻が男性のほうを向き

「もう、家で看てあげられんの」ともう一度いう


一瞬間があいた


「ごめんな」とこたえる男性


私は不覚にも涙が出そうになった


ごめんな?

怒らないの?


思わず肩を抱く

「今日はもうこれで戻りましょう」と促す


施設に戻らないと言うかもと心配したが

畳に手をついて自分で立ち上がり

靴を履いて玄関を出た


施設に戻ってからも

今日の仕事を終えてからも

「ごめんな」と妻に言った男性の言葉が

頭から離れないのです