中国大崩壊の兆し(1) | 方丈随想録

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中国の歴史は王朝交代の歴史というのはよく知られている。

中国には古来「易姓革命」という考えがあって、皇帝は天帝から地上を支配する権力を「天命」として賦与されている、と考えられた。権力の正当性は天命にあるのだ。ところが、この天命は永久的なものではなく取り消されるものである。皇帝が不埒な所業をすれば天災が随所に生じ、飢饉が発生する。人民は天災と飢饉、それがもたらす生活の窮乏化から天命が現在の皇帝から失われたと判断したのだ。かくして新たな政権を目指した権力闘争が沸き起こる。そして新たな王朝が成立するというのが中国史の基本的なパターンなのだ。漢民族以外の民族が王朝を樹立した際も「易姓革命」思想を利用した。典型的なのが満州族が樹立した清朝だ。異民族であっても有徳であれば皇帝でありうると主張したのだ。マルクス=レーニン主義を標榜する中国共産党ですら、この「易姓革命」思想によって成立したことは否定できないだろう。しかし、今後は中国共産党の経済運営失敗によって革命によって倒される立場に置かれつつある。

中国の皇帝は必ずしもモラルは高くない。人物的に卓越していた皇帝もいたのだが、プーチン並みに人殺しを盛んにやった皇帝もいる。人物的に卓越していた皇帝とは、例えば清朝の康熙帝や乾隆帝がいた。人殺しに長けていたのは明朝創設者の朱元璋だろうか。プーチンに負けず劣らず諜報機関を活用したのは永楽帝だった、という塩梅か。モラルが高くても低くても時代の波が権力の拡大と永続を支えてくれるが、社会的・経済的に不安定なれば皇帝の人望が一挙に崩れ、人民の憎悪の対象になってしまう。ここから革命が始まる。

最近の中国は経済状況が変調をきたしている。その原因は米中貿易摩擦も一因だが、主因は中国政府が主導し、地方政府が増幅してきた不動産バブルだ。それに加えてスパイとして実業人を拘束しやすくした法律の施行がある。これで決定的に中国は「法の支配」を拒絶するする国としての信用を失墜した。従来からの知的財産権の意図的な侵害、人権侵害を前提にした経済活動、それに加えて株式取引の規制、融資平台の実質的破綻と地方政府の無責任さの露呈ときては、中国には「信用」が皆無ということになる。資本主義、あるいは市場経済の根底は信用なのだという常識が中国では通用しないことが貪欲な投資家にも分かりだしたわけだ。沈没しそうな船からは逃げ出すのが安全というわけで、我先にと逃げ出している状況だ。

「生産の三要素」という言葉がある。土地と労働と資本の三つをいうのだが、現在の中国は先ず資本が枯渇し始めた。土地と労働は豊富にあるではないかという反論もあるだろう。「生産の三要素」以外の重要な要素に大きな制約がかかり始めている。それは技術と市場だ。技術と市場に積極的に制約をかけているのはアメリカだが、その制約網はヨーロッパや日本も巻き込みつつある。外国資本の撤退が加速する中で、中国は海外市場を失いつつある。輸出が減少すれば輸入も減少する。国内市場は未成熟で失業者が急増する状態なのだ。更に、中国には土地と労働は豊富ではないかという主張もあるだろうが、農民は農地から引きはがされ、今更農業を振興することができなくなっている。食料は輸入に頼っている。となると、生産性のない土地に14億の人口では食糧不足は必然である。更に、中国の国土にしても南部の洪水の頻発、北部の乾燥化の進行があり、天変地異が天意を示していると受け取られかねない状況だ。

天変地異に加えて、改革開放期に共産党幹部が巨額の私財を不法に蓄積し、国民の貧富の差を示すジニ係数はアメリカが0.39、日本が0.34なのに対して中国は0.47と不平等が大きい。社会主義国が最大の資本主義国よりも格差が大きいことは、いかに中国共産党が正義に悖る行動をしているかを示している。

中国で「易姓革命」の条件が揃いつつある。中国の経済崩壊は既に手の施しようがないが、政治分野の混乱については注視しておかなくてはいけない。