第一章:島の夜にこだまする声
南国の離島。昼間は青い海と白い砂浜がまぶしく、椰子の木の下でのんびりと昼寝ができるほど穏やかな場所だ。だが、夜の帳が下りると、この島には古くから伝わる“何か”が出るとささやかれていた。
ある晩、漁を終えて帰ってきた若者が集落の外れを歩いていると、どこからともなく「オーイ…」というか細い声が聞こえてきた。最初は波の音かと思ったが、どうも人の声に近い。
「誰かいるのか?」
声をかけても返事はなく、風が吹き渡るだけ。足元の砂を踏む音が不自然に重く聞こえる。潮の匂いにまじって、何やら生臭いようなにおいが漂っていた。
「まさか…イシャトゥ…?」
聞き慣れない名だが、島の年寄りたちはしきりに警戒するという。南国の海に出る幽霊で、人を海底に引きずり込む存在――その名も「イシャトゥ」。
第二章:噂話と不穏な囁き
翌朝、まだ暗いうちに起きだした若者は、島の古い家で暮らす祖母を問い詰めた。
「婆ちゃん、イシャトゥって何? 夜の海で、“オーイ…”って声を聞いたんだ」
祖母の顔がさっと険しくなる。
「そんな声を聞いたのかい…。やはりまた出るようになったんだね。あんた、夜の海に近づいたんじゃないかい?」
「いや、たまたま通りかかっただけ。でも、すごく気味が悪かった」
祖母は深いため息をつき、静かに語り始める。
「イシャトゥ…この島に昔から伝わる“海に沈んだ魂”の化身だよ。台風で船が沈んだとき、あるいは海の向こうから来た戦の船が難破したとき、その者たちの無念が海底に溜まっていき、やがて生まれたんだってさ」
その言葉を聞いた若者の背筋は寒くなった。
第三章:由来と伝説
祖母は焚き火の炎を見つめながら、静かに話を続ける。
「昔はこの辺りの海で何度も大きな惨事があったんだ。嵐で船が転覆して、漁師も旅人もたくさん死んだ。死者はみな海に沈んで、家族のもとに帰れない。そんな魂たちが行き場もなく海底をさまよい続け、やがて“イシャトゥ”として姿を現すようになった…と言われている」
「イシャトゥは、ただ人を襲いたいわけじゃないのか?」
「わからんよ。けれど“オーイ”という声で人を誘うのは、孤独だからかもしれないね。“寒い、助けて”と囁くとも聞く。何しろ、成仏できないほど強い未練を抱えてるから、近づいた者を取り込んで仲間にしてしまうんだろう」
若者はぞっとして、夜の声を思い出した。あの声はまるで助けを求めているようで、しかし闇の向こうからすっとこちら
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あなた:
南国の海の幽霊「イシャトゥ」について、その由来やニライカナイの伝説も交えて、長く恐ろしい話を章立てて書きなさい。
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10 秒の間、思考
以下に、南国の海に現れる幽霊「イシャトゥ」をめぐる長めの物語を、由来や「ニライカナイ」の伝説を交えながら章立てでまとめました。あくまで創作のフィクションとしてお楽しみください。
第一章:夜の浜辺で囁かれる声
南国の離島は、昼間は太陽の光がさんさんと降り注ぎ、海は透き通るようなエメラルドグリーンにきらめく。浜辺ではヤシの木が風にそよぎ、島の人々は穏やかに農や漁を営んでいる。だが、夜になると様相が一変する。この島には、昔から「夜の海に近づくな」という言い伝えがあった。
ある晩、若い漁師が漁を終えて帰る途中、浜辺を歩いていると、どこからともなく奇妙な声が聞こえてきた。
「オーイ…オーイ…」
海鳴りかと思ったが、どうにも人の声に聞こえる。しかも、それはただの呼び声ではなく、哀しみを帯びているようだった。漁師は胸騒ぎを覚えつつも振り返り、そして見てはいけないものを見てしまう。
月の薄明かりの下、波打ち際に白い影が立っていた。人間のようでもあり、ふわふわと揺れていてはっきりと形がわからない。その影が、か細い声で再び囁く。
「…ここは…寒い…助けて…」
鳥肌が立つほどの不気味さに、漁師は恐怖をこらえて走り出した。その瞬間、足首にまとわりつくような冷たい感触を覚え、思わず転びそうになる。だが運よくその場を振り切り、漁師は一目散に島の集落へと逃げ帰った。
第二章:イシャトゥの噂
翌日、漁師は集落の年寄りたちに昨夜の出来事を話した。すると皆の顔が青ざめ、一様にうなずき合う。
「それは…イシャトゥじゃろうな」
若い漁師は「イシャトゥ」という言葉を初めて聞く。何度も耳にしたわけではないが、子どもの頃に祖母が「夜の海にはイシャトゥが出るから、絶対に近づいてはいかん」と叱ったことをかすかに思い出す。
「イシャトゥって、一体なんですか?」
年寄りの一人が重々しく語り始める。
「海に沈んだ多くの魂が行き場をなくし、ひとつの“怨念”のようにまとまってしまった存在だ、という話さ。昔から“イシャウタ”とか“イサウトゥ”なんて呼び名もある。溺れ死んだ者や、海から遠い故郷に帰れなかった者たちの無念が渦を巻き、夜な夜な人を誘いに来るんじゃよ」
漁師は昨夜の白い影を思い出し、全身が震えた。島の者たちは口々に言う。
「夜の海は、ただでさえ危険。イシャトゥは弱った心を見透かして近づいてくる。呼び声を無視しても、ヤツが本気を出したら逃げられん…」
第三章:ニライカナイの伝説
その夜、漁師は自分の祖母に改めて尋ねてみることにした。祖母は潮騒の音を聞きながら、昔話を紡ぎ出す。
「実は、この島には“ニライカナイ”という伝説の国があるとされている。海の彼方にあって、死んだ人々や神々が住む楽園のような場所だ。波の向こうにある見えない世界…そう言われているよ」
「ニライカナイ…そこでは、死んだ人たちも幸せに暮らせるんじゃないの?」
「そうだとも。だがな、中にはニライカナイへ行けずに、この世に怨念を残した魂もいるんだ。海で死んだり、望まぬ最期を遂げたりした者たちは、ニライカナイへの門を見つけられず、海底をさまよい続けるって話さ」
祖母はしわだらけの手で、漁師の手を強く握る。
「それがイシャトゥの正体かもしれん。ニライカナイに行けず、彷徨う魂の集まり。だから“助けて”とか“寒い”とか、つぶやきながら、他の命を海へ引きずり込み、“仲間”を増やそうとするんじゃろうね」
漁師は昨夜の冷たい手の感触を思い出し、ぞくりとした。
第四章:嵐の前触れ
島は台風の接近で慌ただしくなっていた。漁師たちは船を陸へ上げ、畑の作物を支柱で固定し、家の戸を補強する。空は不穏な灰色に染まり、風が次第に強まっていく。
そんな中、漁師は友人たちと集まり、イシャトゥのうわさを再び話し合う。みんな「ただの迷信だろ」「本当にそんな幽霊がいるのか?」と疑わしそうにしていたが、漁師だけは真剣だ。
「確かに見たんだ。あれは人間じゃない。波打ち際に浮かんでた白い影が“助けて”って…」
「台風が近づいてるときは海が荒れるから、不思議なことも起こりやすいさ。それか、お前の見間違いじゃないのか?」
「見間違いならどれほどよかったか…」
気の早い風が集落に吹き込む。遠くから「ゴゥ…ゴゥ…」という低い音が鳴り、海はしだいに牙をむき始めていた。
第五章:海に沈んだ怨念
台風の到来前夜、漁師は船小屋に避難させた船を見に行くため、風雨の中を出かけた。雨が横殴りに降り、ほとんど視界がきかない。早めに帰ろうとした矢先、何者かが背後から腕を掴んだ。
「オーイ…こっちへ…」
ギョッとして振り向くが、そこには誰もいない。雨と風が激しく吹きつけるだけだ。だが、今の感触ははっきりとあった。冷たい手の感触。そして耳奥にまとわりつくような掠れた声――。
「たすけて…帰れない…ニライカナイへ…」
心臓が凍る思いで、漁師は振り切るように足を動かす。しかし、ぬかるむ地面に足を取られ転んでしまう。雨水の混じった水たまりに手をついた瞬間、何かが手首をぐいと引っ張った。
「来て…暗い…沈む…」
波の音に混じって、真っ黒な水の表面に白い顔が浮かびあがる。髪か海藻か定かでないが、ドロドロしたものがまとわりつき、その顔はまるで死人。口が少し開いていて、そこから声が漏れているようだった。
第六章:深夜の遭遇
漁師は悲鳴を上げたつもりが、激しい風にかき消され、声にならなかった。しがみつく冷たい“手”が、漁師の体を引きずる。まるで生きている植物の蔓のように、足首に巻きついてくるものがある。
「くそっ…離せ!」
必死にもがき、コンクリートの柱にしがみつく。すると、柱のそばの古い棚に立てかけてあった棒が倒れ、漁師の足元へ落ちてきた。漁師はとっさに棒を掴み、絡みつく水の塊を叩き払う。
すると、白い顔は「アアア…」という苦しげな声をあげ、波打つように溶けていく。どこへともなく消えていった。しかし、その場には鉛のように重い嫌な空気が残り、漁師は呼吸を整えられずにうずくまった。
遠くの海鳴りが、不気味な低音を響かせている。波の音とは違う、まるで悲しげな“うめき声”のようにも聞こえた。もしかすると、あれがイシャトゥの“仲間”たちの声なのだろうか。
第七章:ニライカナイへの道
激しい台風が島を過ぎ去ると、空は嘘のように晴れ渡った。だが、漁師の心に残る恐怖は消えない。海辺には嵐で打ち上げられた魚や漂流物が散乱しており、中には人のものらしき衣類の切れ端も混じっていたという。
集落では、年配の女性たちが古いお守りや護符を手に、海辺へお祓いに出る準備をしていた。漁師は祖母に連れられ、その儀式に参加することになる。やがて島の神主や長老が集まり、棒に巻きつけたハーブやヨモギ、塩などを焚きしめた松明を手に浜辺を歩いてゆく。
神主は厳かな声で唱える。
「海に沈みし魂よ。ここより先は、ニライカナイへの門を開かん。安らかなる道をたどり、もはや恨みを残さず、光の国へ渡れ…」
漁師も祈るように手を合わせ、嵐のあとの荒涼とした海を見つめた。もしイシャトゥがニライカナイへ行けずに迷っているのなら、せめて成仏してほしい――そう願わずにはいられない。
第八章:語られるイシャトゥの正体
儀式を終えた後、神主は漁師を呼び寄せ、島の古文書に書かれた「イシャトゥ」の由来について説明してくれた。
「この島の先祖たちは、海で溺れたり、他所から攻めてきた船が難破したりして亡くなった者たちの魂が、ニライカナイへ行けずに彷徨うと考えた。彼らは必死に“助けて”と呼びかけるが、生者と死者の境を越えられない。だから、代わりに他者を海底へ連れて行こうとするんだ」
神主は続ける。
「本来、南の海はニライカナイへ通じる神聖な領域ともされてきたが、そこにたどり着けない魂も多い。そうした者が妄執を募らせ、イシャトゥという“海の亡霊”を生んだのだろう」
漁師の脳裏には、あの白い顔が蘇る。助けを求めながらも、人を海に引きずり込もうとする姿。もしかしたら、イシャトゥ自身もひどく苦しんでいるのかもしれない。
第九章:決死の対峙
しかし、儀式を終えても、イシャトゥは完全には消えない。夜になると、相変わらず「オーイ…」という呼び声が海辺に漂い、白い影の目撃談が後を絶たなかった。ある晩、島の若者たちは真相を突き止めるべく、松明や護符を携えて海岸へ赴く。
「俺たちが直接、イシャトゥに向き合う。もう村人が怯えるのは嫌なんだ」
暗い浜辺で、風がザワザワと吹く中、若者たちは松明の光を頼りに進んでいく。やがて岩陰に浮かび上がる白い影を見つけた。いや、それはひとつではなく、いくつもの顔が重なり合っているようにも見えた。
「…助けて…ここは暗い…帰れない…」
どの声も苦しげで、息が詰まるような怨念が満ちている。若者たちは護符を突き出しながら、ぎりぎりまで近づく。そして一人が意を決して叫ぶ。
「イシャトゥよ! お前たちは本来、ニライカナイへ行くべき魂だ。なぜここに留まって人を襲う? 苦しいならば、せめて鎮まってくれ!」
すると、白い顔はにわかに目を見開き、波飛沫のようにうごめきながら長い髪(のようなもの)を振り回す。触手のように伸びてきたそれが、若者の足を絡め取る。
「ダメだ、引き込まれる…!」
必死で護符を握りしめ、仲間たちが引っ張る。押し返せそうにないほどの強烈な力が襲いかかるが、若者たちは結束して声を合わせ、再び祈りの言葉を叫んだ。
「ニライカナイへ! 戻るべきはお前たちの魂だ! 我らを許して安らかに眠ってくれ!」
第十章:永遠の海へ
次の瞬間、白い影は苦悶の表情を浮かべ、歪んだ声を上げる。
「アアア…帰れない…帰れない…」
その絶叫のあと、まばゆい月光が雲間からさっと差し込み、波打ち際を照らす。白い影はしばし月光に照らされると、やがて泡のようにしぼんでいき、潮の流れに溶け込むように消えていった。
あたりに不気味な静寂が訪れ、若者たちはその場にへたり込む。夜風だけが寂しく海の表面を撫でていた。
その後、島では何度か鎮魂の儀式を重ね、海に向かって灯篭を流すようになった。ニライカナイへの道を指し示す灯篭――そんな気持ちを込め、波間に光を送り出す。すると、次第に「オーイ…」という悲痛な声は聞かれなくなり、白い影の噂も消えはじめた。
だが、島の長老は言う。
「完全にイシャトゥが消えたわけじゃない。海は多くの命をのみ込み、同時に多くの恵みもくれる。いつかまた、大きな悲劇が起これば、イシャトゥのような幽霊は再び生まれるだろう。それがこの海の宿命なのさ」
南国の青い海は、昼間はまばゆいほどの美しさで人を魅了する。だが、その奥底には多くの魂を抱えている。悲しみや未練を抱えた魂は、ニライカナイへ向かう門を見失ったまま、彷徨い続けることもあるのだろう。
――こうして、イシャトゥの名は今も島の人々によって語り継がれている。“海の彼方にある理想郷・ニライカナイ”に向かうことのできなかった幽霊たちの嘆きと恐怖が、いつまでも波間にさざめき続けているのかもしれない。
それでも、島の人々は海と共に生きるため、祈りと鎮魂の心を忘れない。優しい海風と、どこか悲しげな波音の中で、「イシャトゥ」という存在は、この先もずっと人々の記憶を揺り動かし続けるだろう。