明治時代に公布された出版法は、出版物に関する取締りを規定する法律です。時代が進み表現に対する重大な制約になるとして廃止されました。これを契機に出版界は、自由な空気を胸一杯吸った勢いで大きく羽ばたき隆盛を極めます。その片隅で事実と異なる偏見に満ちた情報が、誹謗中傷の原因となり対象者を精神的に打ちのめす結果を招きました。取材する側とされる側には相反する価値観と意識が存在します。話し手の言葉が文字に書き起こされた段階で校正の時間確保が重要です。発信者と受信者の間には立場の相違があります。発信する側は正しく受信できるよう配慮するのが不可欠です。それでも過誤が生ずれば法の裁きに委ねます。出版に関する表現の限界は司法の判断を仰ぐしかありません。
出版の表現は司法が許容する範囲であれば自由ですが、いま出版の差し止めが大きな話題となる事例が起きています。小説の主人公のモデルとされた女性が、個人情報の掲載によるプライバシー侵害と名誉毀損もあるとして出版差し止めと損害賠償を求めました。この裁定が認められるためには法律の明文の規定が必須です。しかしながら明文の規定が無いにもかかわらず、今回初めて権利の侵害による出版差し止めの訴訟が認められました。これでは長い時間をかけ多額の費用を費やして発行した本が禁制になるだけでなく、損害賠償金なども負担せざるを得なくなります。物理的な代価以外にも、社会的制裁を受ける覚悟も持たなければなりません。
日本は日本国憲法第21条で言論や出版の表現の自由を保障しています。これは個人が有する権利ですが、近年は出版社やその従事者にも適用されています。自分で判断し闊達に意見を述べるには、多様な知識や情報を得るのが肝要です。そのためには各種媒体から事実だけでなく、送り手による意見も汲み取る必要があります。受け手が知る権利を全うするためには確かな情報の収集と分析が欠かせません。現実とかけ離れた資料を元に推察された主張は、蜃気楼のように焦点の合わない論拠となるからです。したがって報道のみならず取材においても、自立した立場が守られる環境が求められます。さらに原稿の執筆に当たっては横槍を入れないのが切望される要件です。時の権力者が検閲などで意に沿わぬ刊行物を封じ込め、世論が統制されれば空虚な日々に押し潰されます。
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上記の文章は、パブリックスピーキング講師養成講座で作成したスピーチ原稿です。
*規定文字数:900文字前後