昔、徳島に住んでいて、今でも遠い場所ではないので、興味を持って観てみた。山奥の祖谷を舞台にどんな映画が作れるのかと、観るまでは半信半疑なところがあった。しかし結論から言うと、想像以上によくできた映画だった。
なぜ祖谷という場所を、映画のロケーションに選んだのかと不思議に思っていたが、監督の名前を見て納得した。監督は監督でも、20数年前の高校野球で活躍した徳島池田高校の蔦監督のお孫さんだった。野球の蔦監督は徳島では有名人で、ゆるキャラにもなっている。
映画の冒頭で、一人山奥で暮らしているおじい(田中泯)の生活が描かれている。茅葺きの家で電気が通っておらず、薪でお風呂を沸かし、かまどや囲炉裏で料理を作る。現代の話のはずだけど、実際祖谷ではこんな暮らしをしているのだろうか。徳島出身の知人に、このことを聞いてみたけど、いくら山奥でもそんな生活している人はいないと言っていた。
映画では、田舎町の現状、問題点が、丁寧に目を背けることなく描かれていた。道路などのインフラ建設に、祖谷の環境を愛する外国人グループが反対運動をしている。こういうの、本当に難しい問題だ。道路も産業もなく、環境守るだけでその地域が発展すればいいのだけど。
害獣駆除のシーンもある。動物好きの人には嫌な話だろうけど、地域の人にとって死活問題だ。僕の実家も過疎が進んでいる田舎だから分かる。田舎の人は、環境守れとか、動物を大切にしようとか言わない。そういうこと言うのは、部外者である都会人ばかりの気がする。
主人公の春奈(武田梨奈)をはじめ、この地域の若者はみんな都会に憧れ、都会に出て行く。地元民から抗議が来ないのか、と心配になるくらい過疎地の現実を描いているところに好感がもてる。本当なら田舎サイコー!ってな感じでロケ地を持ち上げるはずなのに。しかし、山が重なり合う祖谷の隠れ里的な自然の映像美は、十分アピールとなっている。撮影に3年かけて四季折々の情景を収めているのだそうだ。
祖谷では、地元の人が作る布人形が有名で、映画のモチーフにもなっている。僕の奥さんは、ドライブでその人形を見かけると、人間みたいで怖いという。誰でもそう思うのではなかろうか?主演の武田梨奈は美少女空手家として女優デビューをしたが、この映画も含めて、最近はアクション以外にも幅広い活躍が見られる。おじい役の田中泯も雰囲気あって良かった。映画はラスト、ファンタジーだったんだねっていう感じで終わる。
田中 徹矢
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