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慌てて来た道を引き返して、お店の中に戻る。
辺りを見渡すと、お客さんもひとりしかいなさそうだった。
その人は友美の座っていた席に座って、お酒の入ったグラスを眺めている。
その隣を見てもiPhoneらしきものは見当たらない。
少しずつその人に近づくと、徐ろにこっちに向き直った。
黒い帽子にサングラス、マスクを付けている男の人だった。
その人はじぃっと私を見て、ポケットをごそごそし始めた。
そして、何かを取り出して、絞り出すような小さい声が聞こえた。
「…これ、アンタの?」
それは確かに、私のiPhoneだった。
「あ、は、はい…ありがとうございます!」
「こんなとこに忘れたら、誰かに盗まれちゃうよ?」
"よかったね、俺で"って言いながら隣の席にそれを置く。
置かれたものに手を伸ばして、一応中を確認する。
中ではいつもの如く、ニノが爽やかな笑顔を向けていた。
「ほんとにありがとうございました!」
軽く会釈して、立ち去ろうとした時…
「少し、一緒に飲まない?」
彼はそう言って、自分のグラスを持ち上げた。
サングラスをかけているばすなのに、その先にある瞳から逃げられないような感覚がした。
「大物だーって思ったら、誰かの長靴で…」
「そんなアニメみたいなことあるんだ」
「あるある!」
それから数時間、何故か盛り上がってふたりで飲み会。
ほとんど彼の釣り話だけど…
初めてあったのにそんな感じしなくて、
ただのオチのない話なのにすごく楽しい。
ーこんな気持ち、初めてだった。
ふたりともいい感じにお酒が入って、目がトロンとしてきた時、
彼が突然マスクを付けて、サングラスを取った。
その時の瞳は真っ直ぐで綺麗だった。
それから私を見て言った。
「さっき、お友達と話してたじゃん…?
無理して変わらなくていいんじゃねぇ
人生1度きり何だから、
自分の好きなようにすれば」
「え?」
彼の意図が分からなくてじぃっと彼の瞳を見ていると…
ーあれ、私…この人とどこかで…
そう思った。思い出そうとしても分からない。
すると彼が腕時計を見て言った。
「そろそろ帰らないと、終電なくなるんじゃない?」
「え、うそ!??帰らなきゃ…」
帰らなきゃって思うけど、何故だろう、何故か、帰りたくないって思った。
私が自分のお金を出そうとすると、その手を遮られた。
「今日は俺が誘ったしいいよ、ありがとう」
「え、いや!でも…」
いくら対抗しても彼には敵わないだろうなって悟って、お財布をしまった。
「じゃあ…ご馳走様でした」
軽く会釈して、立ち去ろうとした時…
いられなくなって、思わず叫んだ。
「また、会える?」
そう言うと彼は優しく笑って
「会えるよ…」
その言葉がいつまでも私の胸に響いた。
