
「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/12/08
消費税率をまずは5%に引き下げる政策連合
第2500号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019120819415261503 ──────────────────────────────────── 消費税の税率が10%に引き上げられて、もっとも深刻な影響が広がっている のは所得の少ない階層である。
平年度ベースで増税規模が5.2兆円であるのに対して、増税対策が2.3兆 円実施されたから、増税の影響は約3兆円規模に圧縮される。
しかし、10年単位で考えれば、増税規模52兆円に対して増税対策2兆円 で、増税規模は50兆円ということになる。
増税対策は目先の目くらまし対策に過ぎない。
増税対策の中心はキャッシュレス決済に対するポイント還元等であり、個人消 費は現金決済の小売店からキャッシュレス決済の販売店に大きくシフトしてい る。
他方で、クレジットカードやスマホでの決済をする手段を持たない個人は増税 対策の恩恵から完全に取り残されている。
零細な小売店はキャッシュレス決済への対応ができない。
この零細な小売店から顧客が遠のいている。
生活必需品を無税にするなら所得の少ない階層への対策になるが、8%と10 %の複数税率では所得の少ない階層への負担軽減にはつながらない。
所得の少ない人々は収入金額のほぼ全額を消費に充当する。
消費税負担は収入金額の10%に接近する。
汗水流して働いて獲得する収入の1ヵ月分以上のお金が消費税で巻き上げられ てしまう。
収入が10億円の富裕層が1億円消費する場合、収入金額に対する消費税負担 率はわずか1%にとどまる。
生活必需品が無税ではない消費税率10%の制度は所得の少ない人々の生活を 破壊する「悪魔制度」である。
12月6日に10月の景気動向指数が発表された。
指標となる一致指数は前月比5.6ポイント低下して94.8となり、201 3年2月以来の低水準を記録した。
速報値でデータ利用が可能な生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出 荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売 業、有効求人倍率の7系列のすべてが悪化した。
同指数から機械的に決定される基調判断は3カ月連続で「悪化」になった。
景気動向指数の「悪化」判断は、景気後退の判断と基本的にはリンクする。
一致指数の前月比マイナス幅は2011年3月以来の大きさで、過去3番目と なる。
先行指数も、最終需要財在庫率や鉱工業生産財在庫率、新設住宅着工床面積、 中小企業売上見通しが悪化した。
2019年10月の小売業販売額は前年同月比で9.1%も減少した。
鉱工業生産指数は前月比4.2%減少した。
出荷に対する在庫の水準を示す在庫率は本年4月から8.5%も上昇した。
労働者一人当たりの実質賃金指数は本年1月から8月まで前年水準割れが続い た。
9月と10月のみ+0.2%、+0.1%になったが、通年では前年比1%程 度の減少となる可能性が高い。
消費税増税の影響は軽微であるとの風説が流布されてきたが、事実は違う。
消費税率10%で日本経済には木枯らしが吹き荒れている。
こうしたなかで株価が暴落していないが、その理由は企業利益だけが膨らんで いるからだ。
法人企業統計に基づく計数では、2018年度の法人企業当期純利益は201 2年度の2.26倍に達した。
一人当たり実質賃金が5%も減少した一方で、法人企業の利益が2倍以上に激 増したのである。
アベノミクスの下での日本経済は極めて不調である。
経済活動の総合成績である実質GDP成長率平均値は+1.3%で民主党政権 時代の+1.7%をはるかに下回る。
一人当たり実質賃金の大幅減少は日本経済不調を端的に示すものだが、この経 済大不調のなかで、企業利益だけは倍増以上の増加を示した。
アベノミクスは「成長戦略」を看板に掲げたが、その「成長戦略」とは「大企 業利益の成長戦略」であって、「国民利益の成長戦略」ではない。
企業利益と国民利益は相反する。
企業利益を拡大させるための最重要の方策は労働コスト削減だ。
アベノミクスが推進してきた最重要の施策が「労働コスト削減推進」である。
安倍内閣は労働政策を全面的に見直してきた。
具体的には、1.正規から非正規へのシフト加速、2.長時間残業合法化、 3.残業代ゼロ雇用制度拡大、4.外国人労働力導入拡大、5.解雇規制緩 和、を推進してきたのだ。
その結果、労働者が下流へ下流へと押し流されてきた。
安倍内閣は雇用数が増えたことをアベノミクスの成果だとアピールするが、増 えたのは低賃金の非正規雇用ばかりだ。
国民を不幸せにする安倍政治に終止符を打たなければならない。
政治における最重要課題は、どのような経済政策が実施するかである。
もちろん、憲法を含む平和主義の取り扱いは重要であるし、原発事故を踏まえ て原発稼働即時ゼロを実現することも重要だ。
だが、国民生活に直結する政治課題としての経済政策の重要性を否定すること をできない。
経済政策上の最重要課題として消費税問題を位置付けるべきだ。
消費税が導入されたのは1989年、平成元年のこと。
平成が終わり令和になった。
消費税こそ平成という時代の「負の遺産」である。
消費税が導入された1989年度から2018年度までの30年間の税収推移 を見ると、消費税収累計372兆円に対して、法人三税減収が291兆円、所 得税・住民税減収が270兆円である。
消費税収累計額よりも法人税減収累計額と所得税減収累計額の合計値の方がは るかに大きい。
消費税は財政再建や社会保障制度維持のために導入、増税されてきたと説明さ れているが、事実はまるで違う。
消費税の税収累計額よりも法人税と所得税の減収累計額の方がはるかに大き い。
つまり、消費税の税収は法人税減税と所得税減税のためだけに使われてきた。
それでも足りず、さらに法人税減税と所得税減税が上乗せされてきたのだ。
その消費税が、所得の少ない人々を生存の危機に追い詰めている。
所得税の場合、収入金額が一定水準に達するまでは、所得税負担はゼロとされ る。
生存に必要不可欠な収入に対して税金を徴収していない。
夫婦子二人で片働きの標準世帯の場合、年収354万円までは所得税がゼロ だ。
ところが、消費税の場合、収入がゼロでも10万円でも、消費金額の10%を 税金でむしり取る。
収入の少ない人は収入金額の全額を消費に充当するから、収入金額全額の10 %が税金でむしり取られる。
上記の所得税の場合は、年収が354万円までは税金がゼロだ。
年収354万円までは税金と取ってはいけないこととされている。
消費税との差は歴然としている。
格差拡大が最大の経済問題となっているいま、安倍内閣が推進しているのは、 その格差のさらなる拡大である。
東京五輪にすでに1兆円もの公費が投入されている。
利権支出には糸目をつけずに血税を注ぎ込む一方、すべての国民に対する支出 である社会保障支出が真っ先にカットされる。
75歳以上の国民の医療費自己負担が1割負担から2割負担に変更されること が検討されているが、言葉のマジックに騙されてはならない。
医療費を負担する側から見ると、医療費負担は倍増するのだ。
1割負担から2割負担への変更という表現は国民の側に立つ表現でない。
国民の側から見ると医療費負担倍増の検討なのだ。
安倍政治を支えているのは、選挙で必ず投票する主権者の25%勢力だ。
この人々は、何らかのかたちで利権財政支出のおこぼれを頂戴しているのだろ う。
「いまだけ、金だけ、自分だけ」の「三だけ主義」に基づいて安倍自公に投票 している。
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しかし、残りの75%の人々にとって、安倍政治は「百害あって一利なし」で ある。
現状では、この75%の人々の3分の1しか選挙に行っていない。
しかも、投票先が分散してしまっており、「三だけ教」信者25%が投票して いる自公が国会議席の7割を占有してしまっている。
このために、人々を不幸にする経済政策が続いてしまっている。
75%の主権者が結集すれば、たちどころに日本政治が一新される。
現在、投票所に足を運んでいる25%の反安倍自公勢力の人々が、結束して反 安倍自公政治勢力に投票を集中させるだけでも、自公と反自公は伯仲状態にな る。
人々を不幸にする経済政策をやめさせるために、私たちが行動しなければなら ない。

