RW-25, A Week in the Real World - Part 1/Various | BIG BLUE SKY -around the world-

RW-25, A Week in the Real World - Part 1/Various


[A Week in the Real World - Part 1/Various] (1992)

1. On the Wing/The Grid
2. Tang Uru/Ayub Ogada
3. I Want Jesus to Walk with Me/The Holmes Brothers
4. It šat Duolmma Mu/Mari Boine and Band
5. Omanarzy/Rossy
6. Picoro/La Bottine Souriante
7. Hibrido/Juan Cañizares
8. Lubanga/Geoffrey Oryema
9. Dodoma/Remmy Ongala & Orchestre Super Matimila
10. Slow Down/The Grid
11. Soledad/Totó La Momposina Y Sus Tambores
12. Mother and Son/Pól Brennan, Joji Hirota, Guo Yue
13. Variations on Tong Sal Puri (Eastern Exorcism)/Samulnori
14. Wuming Wuyi (No Name No Meaning)/Sola
15. The Legend of the Old Mountain Man/The Terem Quartet



[Real World Studio] (1991)


『 これは凄いコンピレーション盤だ 』

本作は、’91年 8月に 20箇国・75人以上のミュージシャンが参加して、英国 Box 郊外に在る Real World スタジオで行われた、”Real World レコーディング・ウィーク”で収録されたコンピレーション盤。様々なバックグラウンドを有するミュージシャン,エンジニア,プロデューサーに作詞家までが集合して、新たなる創造に燃えた一週間の記録である。この作品集でしか聴けない、次のように貴重な楽曲が多数収録されている。

① 初めての組み合わせでレコーディングされた新曲
② 初めてのゲストを迎えて演奏された既存曲
③ 野外の芝生で行われたガラ・コンサートでのライブ録音
④ 純粋なる新作のスタジオ・レコーディング



[ear Cover, A Week in the Real World - Part 1] (1992)


それでは、代表的な楽曲を紹介して行こう。

① 初めての組み合わせでレコーディングされた新曲

・Track-1: イギリスのテクノ・ユニット 2人組 The Grid が、フラメンコ・ギタリスト Juan Cañizares や、元 PIL のベーシスト Jah Wobble、キーボード, サックス奏者 Alex Gifford 等、多くのゲストを迎えて収録した楽曲。
エレクトロニカをバックに、Juan Cañizares がアコースティック・ギターを弾きまくる。この曲を聞けば、生楽器がどれほどエレクトロニカと相性が良いかが分かるだろう。ワールド・ミュージックとテクノが急接近して行く近未来を、暗示した楽曲と言える。正にオープニングに相応しい楽曲だ。



[Juan Cañizares (L) and Arona N’diaye (R)] (1991)


・Track-10: Track-1 同様 The Grid + ゲストによる演奏で、Wendell Holmes (The Holmes Brothers) の歌唱をメインで聴かせる楽曲。テクノ楽曲でこのような歌唱を聞かせるとは、Holmes の懐の広さ深さには全く恐れ入る。レコーディング・ウィークでの The Holmes Brothers の活躍ぶりを示す一曲。

・Track-2: ケニア出身 Ayub Ogada の新曲は、何と The Holmes Brothers を迎えて収録された。東アフリカのバラードに、Holmes のギター,ベース,バック・コーラスは、自然に溶け込んで未体験の音世界を形成している。The Holmes Brothers 恐るべし。



[Ayub Ogada at Gala concert] (1991)


② 初めてのゲストを迎えて演奏された既存曲

・Track-8: タンザニア出身 Geoffrey Oryema の既発楽曲に、ウルグアイ出身の Carlos "Pajaro" Canzani がアコースティック・ギターで参加したライブ演奏。Geoffrey の親指ピアノ Lukeme と Pajaro のギターとが、信じられない程の効果を上げている。楽曲は、初めからこの姿で演奏されるために、存在していたかのようだ。この演奏を聴いてしまったら、既発のスタジオ・バージョンは色褪せてしまった。それほどこの演奏は素晴らしい。

③ 野外の芝生で行われたガラ・コンサートでのライブ録音

・Track-4: Mari Boine and Band のライブ。『なんというビッグ・ボイスの持ち主なんだろう』と驚愕した一曲。これまでに聴いたことが無い唱法で、ppp の囁きから fff での雄叫びまで歌い上げる Mari に、度肝を抜かれたのだ。ノン・ビブラートで数小節間を引っ張り続けるシャウトは衝撃的だった。
その後、この曲のスタジオ・バージョンを聴いたときには、ライブ並みの迫力を期待していたので、少々抑制が利いた歌唱に拍子抜けしてしまった。良いのだけれども物足りない。それは、Deep Purple の “Live in Japan” を先に聴いてから、”Machine Head” を聴いたときと同じ感覚だった。ライブの迫力の方が勝っていたのだ。

・Track-11: Totó La Momposina Y Sus Tambores のライブ。レコーディング・ウィーク後に出演した WOMAD ’91 横浜でのパフォーマンスの記憶が蘇る。観客たちのすぐ近くで歌い踊る姿が目に浮かぶ。彼女たちの、最盛期のパフォーマンスを観られた幸運に感謝する。



[Mari Boine and Band at Gala concert] (1991)



[Guo Yue (L) and 廣田丈自 (R) at Gala concert] (1991)


④ 純粋なる新作のスタジオ・レコーディング

このレコーディング・ウィークからは、6つの新作と、1つのコンピレーション盤 (本作) の、7つのアルバムが誕生した。

新作
・RW-21, Jubilation by The Holmes Brothers
・RW-22, Mambo by Remmy Ongala & Orchestre Super Matimila
・RW-23, Terem by The Terem Quartet
・RW-29, Majurugenta by Ghorwane
・RW-31, La Candela Viva by Totó la Momposina
・RW-32, Trísan by Trísan



[The Terem Quartet and Peter Gabriel (bottom)] (1991)


これらの作品中で、レコーディング・ウィークのメリットを最も活用しているのは、The Holmes Brothers “Jubilation” だと思う。
Holmes は、タンザニアの Remmy Ongala バンド のギタリスト 3人を迎えて、ゴスペルを披露している。スーク―ス・ギターとの共演は、アルバムのハイライトとなっている。観衆を入れたスタジオ・ライブでのギター・ソロの応酬は、大いに盛り上がっていた。
さらには、サミー・ノルディック Mari Boine, UK インディア Sheila Chandra によるコーラスを収録した楽曲や,Guo Yue の中国の横笛との共演も収録されており、異色のゴスペル楽曲が聴ける。

前出①の The Grid,Ayub Ogada の新曲や、自らのアルバムでの他のミュージシャンとの交流等、The Holmes Brothers はレコーディング・ウィークで最も活躍し、且つ最も恩恵を受けたミュージシャンだと思う。ワールド・ミュージックのイベントで、ゴスペル・グループの活躍が際立っていたとは、いかにも Real World らしいエピソードだ。

以上のように、20箇国・75人以上のミュージシャンが、新たなる創造に燃えた一週間の記録を、是非とも聴いていただきたい。



[The Holmes Brothers & Congolese guitarists] (1991)



[Peter Gabriel on Keyboard] (1991)



Real World #01~25 の紹介記事のあとがき
ワールド・ミュージックの洗礼を受けた日々を思い出しながら、この夏は ’89~’92年の Real World 作品を聴いて過ごした。初期の 25作品の一つひとつを手に取る度に、初めて聴いた日の感覚が蘇って来た。自身の音楽に対する関心の対象領域が、加速度を上げて拡がって行くことへの期待感と高揚感を思い出したのだ。
初期の Real World 作品は、世界各地の音楽を世の中に紹介する役割が強かったと思う。既存音源そのもののリリースや、欧米向けに少々モディファイした作品のリリースで、その役割を果たしていたと思う。その流れが変わって来たと感じたのは、’91年の Real World レコーディング・ウィーク以降の作品だった。RW-25, “A Week in the Real World - Part 1” 収録の ①初めての組み合わせによる新曲や ②初めてのゲストを迎えた既存曲で聴ける新しい音楽の創造が、さらなる存在理由になったと感じたのだ。最初から意図されていたことが、その時期にリスナー側からも見えるようになったのだと思う。
Real World レコードのカタログ・ナンバーは、2024年 5月にリリースされた Bab L' Bluz の新作で、259番に達した。又機会を作って、RW-26 以降の作品も紹介していきたい。



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