16) サムチュックの夕暮れ | BIG BLUE SKY -around the world-

16) サムチュックの夕暮れ

第十六話) サムチュックの夕暮れ

六日目は、スパンブリー県サムチュックのバーンカセートスク・リゾートに宿を取る。
一泊 1,300THB (4,165円)。
広い敷地に十数棟のコテージが点在する施設には、開放感が溢れる。
ここでも日本の人は初めてだったので、オーナー夫妻と一緒に記念写真を撮った。



[サムチュックのコテージ] (2016)
The No.1 cottage of Baankasemsuk Resort, Samchuk, Thailand


母屋の東向かいには広い池があり、対岸で風車が回るのが見えた。
池の中ほどに建つ小屋には、音楽機器が所狭しと並んでいる。
時には、小屋をステージとして、音楽パフォーマンスが行われるそうだ。
ご主人と高校生くらいの息子さんが、小屋でギターを弾いて歌う写真が母屋の壁を飾る。

ツアー前に、ここでウォームアップを図るのも良い。
いつでも訪ねてくださいと、ご主人は好意的だ。
蚊が多いのが難点だが、何とかなるだろう。
設備の写真を撮って、ASEAN 組へ送った。



[コテージ前の水田を耕す農夫,サムチュック] (2016)
Paddy field at Sam Chuk in Suphan Buri Province, Thailand


母屋に戻ると、Pop と Erika は池に面した縁台に上がって、ビールを何本も空けていた。
ご主人も一緒に縁台に上がると、ご夫人が作る料理を肴に宴席を囲む。
ご夫人自慢の骨付き鶏肉料理は、初めての味付けと食感だ。
ご主人に勧められるまま、普段以上に食が進む。
休憩を兼ねた腹ごなしの散歩から戻ると、Erika が饒舌に宴席を仕切っていた。



[コテージ前の農地を覆う蒼天乱気流,サムチュック] (2016)
Clear air turbulence above paddy field at Sam Chuk, Suphan Buri, Thailand


Erika の早口の会話は、オーナー夫妻,ご近所の人,他のお客さんを相手に、止めどなく続く。
躁の衝動に突き動かされた、観念奔逸の激流のようだ。
Erika は、ご主人から近くのクラブの場所を聞くと、これから行くよと宴席を囲む人々を煽る。
既に 23時過ぎで、朝帰りは目に見えている。
私は宴席を辞すと、広い池の向こう側の No.1 コテージへと引き上げた。



[サムチュックの夕暮れ,スパンブリー] (2016)
Sunset paddy field at Sam Chuk in Suphan Buri Province, Thailand


コテージの外で Khrong Thip を燻らせると、熱帯の水田地帯特有の甘く湿った空気が頬を通り過ぎて行く。
耕運機を操っていた農夫も、宴席に加わっていたのだろうか。
母屋の方を見ると、数人が車に乗り込んで、出かけて行くのが見えた。

フームーンね。

Erika は、いつものようにオールナイトの符丁を呟いて、出かけて行ったのだろう。
六日目もまた、喧噪の内に過ぎて行った。


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