13) 祈り満つる聖地 | BIG BLUE SKY -around the world-

13) 祈り満つる聖地

第十三話) 祈り満つる聖地

四日目 8月4日は、旅の中日。
山の寺ワット・プラ・タート・ドイ・ステープから戻り、黄色い ATM 横で Khrong Thip を燻らせる。
Pop は今日も又どこかへ雑貨を買い付けに行き、Erika は今日も又カジノへ出かけて行った。
私はと言うと、この日の午後は旅の休日に充てることにした。


[ブラジル 祈り満つる秘密の聖地で,ドキュメント 72時間] (2016)
Document 72 hours, Sanctuary in Brazil



部屋に戻って TV をつけると、日本語のナレーションが聞こえて、ブラジルの風景が流れる。
”ドキュメント 72時間 ブラジル 祈り満つる秘密の聖地” で、リオデジャネイロ・オリンピック開幕を前にしての特別編だ。
サンパウロ郊外に在る宗教/黒魔術の聖地を取材したものだ。



[聖地の呪術師,ブラジル] (2016)
Document 72 hours, Sanctuary in Brazil


番組中で紹介された一神教ウンバンダ Umbanda のことは、ブラジル音楽を通じて知っていた。
バイーア州の音楽は、アフリカ起源の宗教カンドンブレとともに在る。
ブラジル音楽のルーツを辿ると、文化・宗教を巡って、カンドンブレやウンバンダに行き当たる。
アフリカ起源が色濃いカンドンブレに比べて、ウンバンダはカトリック等との混交が進んでいる。


番組では、呪術師が次々と現れては祈りを上げ、人々は奇蹟に感謝する。
こんなに刺激的なブラジルを紹介した番組は、見たことが無い。
よくも NHK でこの企画が通ったものだ。
またサンパウロ郊外の聖地は、よくもここまで異教徒による TV 取材を許したものだ。



[Kindala/Margareth Menezes] (1991)  バイーア出身の歌手によるサンバ・レゲエ作品


ドキュメント 72時間が終わると、ナイト・バザールの南東角のマッサージ店でフットマッサージを受け、中ほどの広場でアイスコーヒーを飲みながらカントリーの弾き語りを聴き、ハラル食品を売る店の近所の CD ショップを眺め、再び黄色い ATM 横に戻って Khrong Thip を燻らせると、今日も又ナイト・バザールのバーからは '70年代ロックの生演奏が聞こえて来る。
旅の中日は休日に相応しい。



[南タイの祈り満つる祈祷所,ハジャイ] (2016)
Shamanism in South Thailand


部屋に戻ると、ほどなくして Pop と Erika が現れた。
Erika はカジノで 5,000THB (16,019円) 負けて、Pop から借金をして払って来たと言う。
5,000THB と言えば日本の感覚で 50,000円相当で、タイの平均月収からすれば相当な額だ。
涼しい顔の Erika の横で、Pop はとても付き合いきれないという表情を見せる。



[南タイの祈り満つる祈祷所,ハジャイ] (2016)
Shamanism in South Thailand


Erika は以前日本にいた時に、とある賭場で 30万円を超える借金をしていた。
オーバーステイで送還が決まった時には、これで借金は帳消しになると涼しい顔をした。
その頃と同じように、今日の彼女は躁の衝動に突き動かされているように見える。
このようにして、旅の中日の休日は、喧噪の内に過ぎ去って行った。


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