11) 宿り木の花 | BIG BLUE SKY -around the world-

11) 宿り木の花

第十一話) 宿り木の花

三日目 8月3日は、ナイト・バザールに近い、Pornping Tower Hotel に宿を取る。
19階建て 325室 プール付きの中級ホテルで、一泊 1,500THB (4,806円)。
タイでこのクラスのホテルに泊まるのは、初めてかもしれない。
エントランス前の木の幹に絡みついた寄生植物のピンクの花は、初めて見るものだ。



[宿り木の花,チェンマイ] (2016)
Vivid flowers of parasitic plant, Chiang Mai, Thailand


夕刻に、エントランス前のカフェで Pop,Erika と待ち合わせると、先に来ていた二人は、互いに罵り合っていた。
Pop は昨夜の不貞を夫人に隠し切れず、元を正せばディスコで煽った Erika のせいだと、騒いでいた。
Erika は Pop の倍以上の早口で捲し立てる。
カフェの天井に吊り下げられたチェンマイ名産の艶やかな傘が、Pop の頭上で揺れるダモクレスの剣のようだ。

罵り合う二人を促してホテルを出ると、ここ最近出来た自動車専用道路をしばらく走り、郊外のレストランで夕食とする。
広い敷地には観光バスが何台も駐車し、幾つもの建屋に膨大な席数を有するレストランだ。
パタヤーかプーケットのような光景が広がっている。
"北方のバラ" チェンマイも変わったものだ。



[カフェ天井の艶やかな装飾品,チェンマイ] (2017)
Decorations above a cafe terrace, Chiang Mai, Thailand


ホテルに着いた後、2009年・2011年の訪問時に世話になった友人に連絡した。
同い年の友人は、昨年チェンマイを離れて、故郷のナコーンパトム Nakhon Pathom で商売を始めたところだと語った。
もう地元で落ち着こうと思ってと苦笑する。
もし良ければ夕食を共にしたいと思ったのだが、5年振りの再会は適わなかった。
「旅をなぞってはいけない」 と言う、沢木耕太郎氏の警句を思い出す。



[ナイト・バザールの朝市,チェンマイ] (2016)
Morning market at Night bazaar, Chiang Mai, Thailand


Pop は一人離れたテーブルに着いて、ビールのグラスを次々と空けて行く。
イスラム法が及ばないタイには、Pop のように飲酒をする者もいる。
それで非難されることはなく、まして罰せられることはない。
文化・規律は国・地域で異なることを、経験から知っていた。

食事を終えると、Pop は自動車専用道路を 120km/h で飛ばしてホテルへ戻り、物品の買い付けに出かけて行った。
黄色い ATM 横で Khrong Thip を燻らせると、北タイ特有の甘く湿った空気がぬめるように頬を通り過ぎて行く。
ナイト・バザールを一回りすると、Erika はカジノへ出かけて行った。
私はナイト・バザール出口近くのマッサージ店に寄って、一時間のフットマッサージを受ける。



[ポーンピン・タワー・ホテル前の黄色い ATM,チェンマイ] (2016)
The yellow ATM in front of Pornping Tower Hotel, Chiang Mai, Thailand


コースが終わる頃、時計は 12時を回っていた。
黄色い ATM 横で Khrong Thip を燻らせると、ナイト・バザールのバーから '70年代ロックの生演奏が聞こえて来た。
部屋に戻ったら、2008年 5月のアメリカ訪問時に作った、'70年代ロックのプレイリストを聴くことにしよう。
こうして、三者三様の三日目が過ぎて行った。


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