03) アウトロー・カントリー
第三話) アウトロー・カントリー
2016年 8月1日の朝、Pop と Erika と待ち合わせて、北タイへのドライブに向かう。
バンコク市街ラーミンタ 69番地のトラックヤードに、Pop のバンは時間通りに現れた。
助手席の Erika とは昨年 7月のハジャイ以来の一年振り、Erika の遠縁にあたる Pop に会うのはこれが初めてだった。
Pop は Erika の甥の嫁の従兄で、Erika 同様ハジャイに住んでいる。
昨年、Erika から、歳の近い甥が南タイ サトゥーン出身の恋人と結婚する予定だと聞いていた。
Erika と歳の近い甥と歳が近い Pop は、彼女を叔母ではなく名前で呼ぶ。
おそらく、彼女がそうさせているのだろう。
[浅瀬に座り込んで 歳の近い甥と電話,トン・ンガ・チャンの滝,ハジャイ] (2015)
Pop の仕事は旅客観光会社のドライバーで、副業でタイ各地の物品・雑貨の卸販売を行っている。
今回の北タイへのドライブは、物品買い付けを目的としている。
そこに乗った Erika に誘われて、私も同行することにしたのだ。
後部座席に乗り込むと、Pop はトラックヤードを一回りして、大通りへと車を廻す。
Erika がスマートフォンを操作すると、車中一杯にアコースティック・ギターが響く。
幾つものスピーカーから、初めて聴くカントリー楽曲が響いた。
ギターの独奏に続く二曲目は、西部劇のガン・ファイターを描いた歌のようだ。
Erika によると、アメリカの The Heavy Horses のアルバムで、アウトロー・カントリーに属する。
タイではカントリー・ミュージックがとても人気が有り、そのサブジャンルの深いところまで紹介されていた。
[Murder Ballads & Other Love Songs/The Heavy Horses] (2012)
私は不覚にも、アウトロー・カントリーを、この時まで知らなかった。
また文字通りに、アウトロー/無法者のためのカントリー・ミュージックかと思ったのだが、実は違っていた。
カントリーの本場ナッシュビルの保守本流に対抗したサブジャンルで、テキサス出身で多様な音楽性を誇る Willie Nelson がその代表格だと、後に知った。
ジャンル分けはともかく、旅の始まりからご機嫌な楽曲に出合えるとは、幸先が良い。
アメリカの素晴らしい音楽にタイで出会う。
これだからフィールドワークはやめられない。
"Get your gun, Bet your life, If you gamble"
無口に見えた Pop が歌詞を呟くのが聞こえて、北へ向かう一本道の果てにメキシコ国境が待っている気がした。
[With Darkness in My Eyes/The Heavy Horses] (2019)
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