27) 遥けき我が家
第二十七話) 遥けき我が家
遠出をした時に、家の近くまで戻って来たなと思う場所が有る。
首都高横羽線に乗った時、東海道線が鶴見を過ぎて紳士の銅像が立つ丘が見えた時、遥けき我が家は近くに在ると思う。
ここ数年、スワンナプーム空港で、必ず立ち寄るカフェが有る。
十卓ほどの小さなカフェ Whittard of Chelsea は、イミグレーションから EFG ゲートへ進んで左側に在る。
ミルク・コーヒーを飲み、ハム・チーズ・クロワッサンを頬張ると、遥けき我が家は近くに在ると思う。
["Whittard of Chelsea" のハム・チーズ・クロワッサン] (2018) 店名は "Simply W" かもしれません
遥けき我が家は近くに在ると思う時、それは前景と背景との転換が起こる時。
晝の夢が長く伸びて、前景と背景との転換が生じる時。
晝の夢は、前景からも背景からも伸びて来る。
カジミール・マレーヴィチのシュプレマティズム作品のように、背景の主題化,前景と背景の転換が生じる。
その時、遥けき我が家は近くに在ると思う。
バンコクから、母国ではない、他の国や地域へ向かう時には、そのように感じることはない。
晝の夢の心理量を比較すると、どちらが前景となるかを推定出来るだろう。
胸の内の埴生の宿からの距離を、推し量ることも出来るだろう。
それでも、心理量を物理量,例えば L*a*b* 表色系での色差 ⊿E で比較することは適わない。
["Whittard of Chelsea" のコーヒー] (2019) 店名は "Simply W" かもしれません
皆様、スワンナプーム空港を訪ねる機会が有りましたならば、Whittard of Chelsea をお訪ねください。
晝の夢が長く伸びて前景と背景との転換が生じる時、遥けき我が家は近くに在ると感じるかもしれません。
ー完ー
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