25) ハジャイ駅の跨線橋 | BIG BLUE SKY -around the world-

25) ハジャイ駅の跨線橋

第二十五話) ハジャイ駅の跨線橋

32℃。
タイ国鉄ハジャイ駅の東側に在る日系のロビンソン百貨店の外で、煙草を燻らせながらスマートフォンで気温を確認すると、32℃ だった。
体感温度はおそらく 40℃ 近い。
それでも東京よりはましだ。
今日は南タイツアーの最終日なのだから、バイクタクシーに頼らずに、操車場を横切る跨線橋を渡って、DS 夫人一家の住む団地へ戻ることにしよう。



[ハジャイ駅前のトゥクトゥク/ハジャイ,南タイ] (2018)
Tuk-tuks at Hat Yai junction railway station/Hat Yai


駅前に停まるカラフルなトゥクトゥクから、三日前に乗ったトゥクトゥク・ドライバーが、手を振っているのに気付く。
何故だか分からないが、どこへ行ってもトゥクトゥク・ドライバーと仲良くなることが多い。
暗黙の信頼関係が心地良いからだろう。
今夜バンコクへ帰るんだと言うと、又来たら電話をくれと名刺を貰った。
トゥクトゥク・ドライバー氏と、互いの健康を祝して握手を交わす。



[貨車の日陰で休憩/ハジャイ,南タイ] (2018)
A wagon and a family in the rail yard/Hat Yai


跨線橋の階段を上ると、遥か遠くに団地が見えて、前後には自分ひとりきりだ。
熱帯の太陽の下、屋根が無い一本道を延々と歩くのはなかなか厳しい。
操車場では、貨車の短い日陰で休憩する人々が見える。
ホーボーのような人々を眺めて、Cartis Mayfield "People Get Ready" を口笛で吹くと、夕陽に染まる北総 神崎付近の利根川堤で聴いたのは、Jeff Beck & Rod Stewart のカバーだったと思う。



[ハジャイ駅跨線橋よりバンコク方面を望む/ハジャイ,南タイ] (2018)
The Railroad to Bangkok/Hat Yai


北には、バンコクへと真っ直ぐに延びる鉄路。
南には、マレーシアに向かって真っ直ぐに延びる鉄路。
ビートの一本道のようだと思うと、Bobby Troup "Route 66" を口笛で吹き、Jeff Beck '99年ツアーでの "THX138" のステージ背景の映像はビートの一本道だったと思うと、"American Graffiti" のシーンがよぎり、黄色い Deuce Coupe を走らせたいと思う。



[ハジャイ駅跨線橋よりマレーシア方面を望む/ハジャイ,南タイ] (2018)
The Railroad to Malaysia/Hat Yai


跨線橋の中ほどまで来ると、団地一号棟横の仕事場が僅かに見えて、飼い犬の吠える声が聞こえる。
犬の遠吠えさえ聞こえて来ないのは午前一時の東京だったと思うと、跨線橋の上に腐った猫が横たわることは無い。
ようやく跨線橋の降り口に着くと、数十年分の回想は動輪が軋むように音を立てて止まった。
次にバンコクからハジャイに来る時には、2007年8月22日以来のマレー鉄道で来ることにしよう。



[ハジャイ駅跨線橋より団地を望む/ハジャイ,南タイ] (2018)
Apartment complex and rail yard of Hat Yai junction station/Hat Yai


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