21) ハジャイの水上市場 | BIG BLUE SKY -around the world-

21) ハジャイの水上市場

第二十一話) ハジャイの水上市場


土曜日なので、市場へ行きましょう。
ツアーの世話役 Abang の提案で、ハジャイ市内のクローンヘー水上市場 (Khlong Hae Floating Market) へ向かった。
Abang は彼女を連れて来た。
モスレムの Abang には妻子が有るが、二番目の彼女がいる。
ハジャイ市内でモスレム向けのレストランを営む彼女は、鮮やかなブルーのヒジャブとドレスが美しい。



[クローンヘー水上市場の屋台舟/ハジャイ,南タイ] (2018)
Khlong Hae Floating Market/Hat Yai


市場は、外国人向けの観光施設として、2010年代に作られた新しいものだった。
バンコク近郊の水上市場とは違って、整然と屋台舟が並び、飲食用のテーブルが並ぶ。
ハジャイらしく、マレーシア,シンガポール,インドネシアの観光客の姿が多い。
ASEAN 組と一緒に売店を廻り、土産物を手にする。

ふと見ると、Abang の彼女が一人歩く姿が見えた。
美しい横顔が曇って見えて、薄幸などという言葉を思い出す。
Abang の一番目の奥さんは 50代半ば、二番目の彼女は 30代後半だと思う。
軽く目礼して私の前を通り過ぎる彼女に、声を掛けるのは差し控える。
Abang はツアーの世話役で、ビジネスパートナーであり、友人ではないので、詮索はしなかった。



[伝統音楽に合わせたダンス/ハジャイ,南タイ] (2018)
Traditional Thai dance at Khlong Hae Floating Market/Hat Yai


外国人向けの観光施設らしく、伝統音楽に合わせたダンスを見ることができた。
少女達のダンスの水準は高くはないが、一生懸命な姿に好感を持つ。
伝統音楽の演奏会場では、ASEAN-T が場を盛り上げる。
マレー歌謡にも似た、メリスマの効いた歌唱は、南タイならではのものだ。



[夕闇迫るクローンヘー水上市場/ハジャイ,南タイ] (2018)
Burnin’ sky over the Klong Hae Floating Market/Hat Yai


夕闇迫る水上市場で煙草を燻らせると、熱帯の川辺特有の甘く湿った空気が、ぬめるように頬を通り過ぎて行く。
2013年に、アンパワ―水上市場 (Amphawa Floating Market) を、DS 夫人と AI,そして BK 氏と訪ねたことを思い出す。
バンコクの南に位置するサムットソンクラーム県まで、AI の伯父 BK 氏の車で往復した。
アンパワ―水上市場で、土産物の T シャツを買ってあげると、AI は何度もお礼を言う。

それはかつて眺めた景色であり、どこにも無い場所の景色ではない。
当然ながら、そこに自分の姿は無い。
もしそこに自分の姿を見たとしたならば、幻覚・誤謬・想像にすぎない。
熱帯の甘く湿った空気の蛇行を辿るように、コウモリが揺ら揺ら飛び行くのが見えた。


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