10) 8月1日の朝食 | BIG BLUE SKY -around the world-

10) 8月1日の朝食

第十話) 8月1日の朝食


ハジャイ駅近くの団地に住む DS 夫人宅へ、二回目の朝食に招かれた。
この日は、私の宿泊する IDO Boutique まで、バイクで迎えに来てくれた。
私が運転するよと言っても、慣れない街は危ないからと、後ろに乗るように勧める。
朝の街をバイクで走り抜けると、熱帯特有の甘く湿った空気がぬめるように頬を通り過ぎて行く。

団地に入ると、見知った売店のご婦人が微笑みかける。
ジャックフルーツが実る木を左に見て、一号棟の駐輪場へバイクを止めた。
団地の中庭の向こうのタイ国鉄の敷地に、アヒルの親子が散歩しているのが見えた。
こうしていると、南タイへの理解がだいぶ進んで来たことが分かる。



[エビと野菜のお粥/ハジャイ,南タイ] (2018)
Congee (Rice Porridge) with Shrimp and Vegetables/Hat Yai


朝食は、エビと野菜のお粥。
タイでは、朝食に限らず、お粥を食べることが多い。
どこの街へ行っても、お粥専門店を見つけることができる。
友人・知人宅で、お粥をご馳走になったことも何度かある。



[団地一号棟前に見える、タイ国鉄の留置線/ハジャイ,南タイ] (2018)
A train on a storage track of Hat Yai Station, State Railway of Thailand/Hat Yai


お粥を食べ終わって煙草を燻らせると、東側に隣接するハジャイ駅で、汽笛が鳴った。
北へ向かう列車はバンコクへ向かうのだろうか。
ここハジャイを通るマレー鉄道に乗って、バンコクからシンガポールまで旅したのは、もう十一年前のことだ。
鉄道での旅路を共にした、英国人カップル,タイ人一家,そして京都から来た旅の大先輩が、二号車のボックスシートに収まっている景色を思い浮かべる。

それはかつて眺めた景色であり、どこにも無い場所の景色ではない。
当然ながら、そこに自分の姿は無い。
もしそこに自分の姿を見たとしたならば、幻覚・誤謬・想像にすぎない。
列車の窓を開けると、熱帯特有の甘く湿った空気がぬめるように頬を通り過ぎて行った。


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