02) 7月28日の夕食 | BIG BLUE SKY -around the world-

02) 7月28日の夕食

第二話) 7月28日の夕食


DS 夫人が、歓迎の夕食を振舞ってくれた。
タイでは歓迎される側が費用を負担する。
ソンクラーの市場でカニ・エビ・イカ・野菜・飲み物等、私が負担した金額は 2,670THB、およそ 9,300円に上った。
2008年に、初めてタイで歓迎の宴を開いて貰った時には、この慣習に戸惑ったものだ。
普段とは異なる意味の場を、殆ど理解する間もなく、初めての宴は過ぎて行った。



[大振りのカニとエビ,スパイシーソース添え/ハジャイ,南タイ] (2018)
Big Crabs and Shrimps with Spicy Nam-Phrik Sauce/Hat Yai


慣れ親しんだ場所ではないところでの食事は、単なる食事ではない。
料理を食べながら様々な事を感じ取り、経験を積むのである。
その経験によって感覚は変わり、タイ料理の辛い味付けの先に在るものを、感じ取れるようになる。
旅先での食事は、日常の食事とは意識の向く先が変わるため、対象領域の拡張へと直接的につながる。



[魚のトムヤム・スープ,魚の丸揚げ,魚のすり身揚げ,サトゥー豆とエビ炒め,タイ野菜/ハジャイ,南タイ] (2018)
Tom-Yam-Pla, Whole Fried Fish, Fried Minced Fish Cake with Spicy Nam-Phrik Sa, Stir-Fried Bitter Beans and Shrimpsuce, and Thai Vegetables/Hat Yai


DS 夫人の家庭料理は、複数の工程を経て味付けされ調理された料理と、ほぼ味付けされていない食材に自家製のタレ (ナム・プリック) を付ける料理とに、大別される。
一つひとつは全く類似性が無い皿が並んでいるのだが、それらは同じタイ料理に属するものとして、一体的に合成されて食卓を飾る。

そして私は、食卓中で最も地味だった、タイ茄子とナム・プリックの皿に、箸を付けるのを忘れていた。
この事は DS 夫人を大いに嘆かせたと、宿に引き上げた後に AI からメッセージが届いた。
初日の反省点として、次の機会からは、地味に見える料理から優先的に箸を付けるようにした。
やがて数日を過ごす内に、料理の作り手が格別な意識を向ける対象を、感じ取れるようになっていた。

慣れ親しんだ場所ではないところでの食事は、単なる食事ではない。
料理を食べながら様々な事を感じ取り、経験を積むのである。


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