07) Sam のギターと Ai の歌 | BIG BLUE SKY -around the world-

07) Sam のギターと Ai の歌

第七話 Sam のギターと Ai の歌


日が暮れた頃、斜め後ろのデッキチェアにやってきた四十代くらいの男女が、タブレットを見ながらギターを弾き始めた。
ギターを弾いて音を確認しては、タブレットへの入力を繰り返す。
しばらくそれを繰り返した後、ギターとタブレットを置いて、ビールを飲み始めた。

「 ギターを貸して貰えませんか 」

Sam の突然の申し出に、さっきまでギターを弾いていた男性は面食らったようだ。
Sam が一生懸命に頼み、DS 夫人からも少しでよいのでと頼まれると、男性は笑顔を見せてギターを貸してくれた。
Sam がギターを弾いて、Ai と一緒に歌う。
ギターの持ち主の男性は、その様子に感心したと言う表情を見せる。

この二人は音楽で結び付いていたのかと、この時初めて分かった。
Ai は小さい頃から歌が好きで、数年前から自作の曲を披露してくれていた。
たまに私が AL 氏宅を訪ねると、待ってましたとばかりに、ノート PC のカメラで撮影した歌とダンスを見せる。
少し前から Ai の Facebook にギターを持った少年が登場していたのだが、それが Sam だったことにこの時初めて気がついた。



[ Sam のギターと Ai の歌] (2015)


ホテルの部屋で、携帯用のロール・ピアノに向かって曲作りを繰り返した。
広場のオープン・カフェで、海風に吹かれながら編曲を繰り返した。
そのような日々の繰り返しの中で、偶然に立ち寄ったクラブで無名の歌手の歌を聴いて、例えようがない衝撃を受けた。
どうしても共演したいと思い、無名の歌手を誘って共作することにした。

半ば強引に誘ったところ、無名の歌手は快く共作・共演に応じ、間もなく互いに相棒と認識するようになった。
曲は直ぐに出来たが、作詞に思いのほか時間がかかり、相棒が何度も書き直している内に帰国の日がやって来た。
相棒は、再会するまでに歌詞を書き上げることを約束した。

広場のベンチに腰を下ろすと、亜熱帯特有の涼風がぬめるように頬を通り過ぎて行く。
ここにいると、私達は誰で一体何処にいるのだろうかという、無国籍で永劫な感覚にとらわれる。
あの時の歌と演奏は、今も風に乗ってあの広場に漂っている気がする。

「 私たちの歌はどうでしたか 」

君たちには才能が有るよ、新しい歌ができたら又聴かせて欲しい。
斜め後ろのデッキチェアから、ギターを貸してくれた男性が拍手するのが聞こえて、Sam は丁寧にお礼の言葉を言った。

あの時の歌と演奏が、今も風に乗ってあの広場に漂っている気がした。


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