23) バミーとアイスコーヒー
第二十三話) バミーとアイスコーヒー
ハジャイ空港に着くと、Erika は昼食にしようと誘う。
チェックインを済ませて、ターミナル内の軽食屋に入った。
Erika は、バミー (タイのラーメン) とアイスコーヒーのセットを頼む。
妙な組み合わせだなと思いながら、自分も同じものを頼んだ。
「 リラックスできましたね 」
木の家の中庭と、スパ店頭のベンチのお蔭だ。
そして Erika の部屋の上がり框でくつろぐ猫のように、全ては Erika のお蔭だ。
バンコクの姪っ子は大丈夫かと聞くと、あれは甥っ子です。
もう大丈夫ですよと応じた。
[部屋の上がり框でくつろぐ猫,ハジャイ,南タイ] (2015)
甥っ子は南タイ,トゥラン出身の恋人と結婚する。
その結婚式を南タイで行うに当たり、ハジャイに住む事情に明るい叔母に相談していた。
Erika は困っている人を放って置くことが出来ない。
歳の近い姉弟のような甥っ子の相談事を真面目に考え過ぎて、滝の浅瀬に座り込んだのだろう。
食事を終えると、アイスコーヒーをテイクアウトのカップに入れ換えて貰い、建屋の外西側の喫煙所に向かった。
Erika と並んで煙草を燻らせると、南タイ特有の甘く湿った空気が、ぬめるように頬を通り過ぎて行く。
コーヒーカップを持つ Erika の左手には、銀のブレスレットが鈍い光を放つ。
二年前,三年前,そして五年前と寸分違わぬ展開に杜子春を思い、Erika は鉄冠子が見せる幻影かもしれないと思う。
[バミー (タイのラーメン) とアイスコーヒー,ハジャイ空港,南タイ] (2018)
二本目の煙草に火を点けて、二年前にパーテームの断崖で聴いた Erika の有節歌曲形式の歌を繰り返すと、Erika は比丘尼のように感心する。
「 ありがとうございます。また来て下さいね 」
横浜にいた時と同じ別れの挨拶を交わすと、二年前,三年前,五年前,そして横浜にいた頃と寸分違わぬ展開に、部屋の上がり框でくつろぐ猫を思い、Erika と私はバミーとアイスコーヒーかもしれないと思う。
―完―
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