21) アスリート氏との出会い | BIG BLUE SKY -around the world-

21) アスリート氏との出会い

第二十一話) アスリート氏との出会い

日本から来たんですか。
土砂降りの雨が上がった夕方、いつものようにスパ店頭のベンチに座っていると、ハジャイに住む日本の人に声をかけられた。
私より一回りは年嵩だが、スポーツシャツを来て日焼けをした精悍な表情は、アスリートそのものだ。
この数日間の自分とは好対照に思える。

この数日間というもの、Erika の住む木の家 (木造二階建てのアパート) の中庭と、大通りの十字路の角に建つスパ店頭のベンチを根城にして、ハジャイの日々を過ごしていた。
日中は近隣を回り、帰って来るとスパ店頭のベンチに座り、屋台料理を囲んで一日を終える。
そんな私には、アスリート氏が日本人のあるべき姿を体現した人物に思えた。



[上がり框は宴席,ハジャイ,南タイ] (2015)  他の住人を気にせずに、外廊下を占有使用


ひとしきり話しをすると、アスリート氏は手を振って去って行った。
・・ な人。 アスリート氏の姿が離れて行くと、ベンチに並んで座ったお嬢が小声で言った。
あの人はお客さんじゃないの?  ちがいます。
でも知っている人でしょう。  あの人が店に寄ったことは有りません。
周りのお嬢たちが口を揃え、男たちは苦笑するのを見ると、いわゆる冷やかしの常連客のようだ。

この一連のやり取りに、かつてのことを思い出した。
華南地区の飲食店でお馬鹿さんと呼ばれていたこと、横浜のタイマッサージ店で日本の視線と呼ばれていたことを。
どちらも、陰で彼の国の言葉で囁かれていたのだが、何度か聞く内に自分への蔑称だと分かった。



[外廊下占有使用の図,南タイ,ハジャイ] (2015)  他の住人を気にせずに占有使用する当人


常連客であっても、慣れて来ると冷やかし以上の蔑称で呼ばれることがある。
ここハジャイの人々は、私のことを何と呼んでいるのだろうか。
そう思うと、そろそろここを発つ時が来たと思った。


< to INDEX >

 [#1066]