15) 滝の下流浅瀬への座り込み | BIG BLUE SKY -around the world-

15) 滝の下流浅瀬への座り込み

第十五話) 滝の下流浅瀬への座り込み

ハジャイ市内から 30分ほどで、トン・ンガ・チャンの滝へ到着した。
滝の施設の手前に在る、水辺で遊べるレストランへ入る。
グループ向けの宴席を設けた小屋が、一定間隔を置いて川沿いに並んでいる。
日本のピクニックランドのバーベキュー場のような造りだ。
早速、小さな滝のそばに席を取る。

いつものように、ソムタム (パパイヤサラダ),ガイヤーン (焼き鳥),カオニャオ (小さなお櫃入りのもち米),魚フライ,茹でエビを頼む。
Erika,ヘアケア嬢,泠龍嬢はウィスキーのソーダ割り、私はコーラで乾杯する。
いつものように、Erika は饒舌に話題をリードし、間断無く話し続ける。

ヘアケア嬢と泠龍嬢の話す南タイの言葉は、バンコクとは単語からして違うので、意味は殆ど分からない。
Erika もまた、二人に合わせて南タイの言葉を話す。



[川辺の宴席,トン・ンガ・チャン滝,南タイ] (2015)


宴席を離れて、川の流れを眺めながら煙草を燻らせる。
水流に乗って段差を滑り降りる遊びに興じる兄弟に手を振ると、熱帯の避暑地の涼風が頬を通り過ぎて行く。

Erika の喋る声が近付いて来たので振り返ると、何か早口で電話をしながら私の方に向かって来るのが見えた。
Erika はバンコクの言葉を話している。
聞くともなく聞こえる内容からすると、電話の相手はバンコクで一人暮らしをしている姪っ子のようだ。

川の縁に立って、大きなジェスチャーを交えながら電話をする Erika は、次第に大声で度を超した早口となって来た。
大きなジェスチャーを繰り返したかと思うと、Erika は急に川に入って行った。
そして、子供たちが滑り降りて遊んでいた段差の下の浅瀬まで進むと、そこに座り込んでしまった。
ヘアケア嬢と泠龍嬢は、小屋の宴席から立ち上がって、驚いた表情を見せる。



[浅瀬で電話,トン・ンガ・チャンの滝,南タイ] (2015)


滝の下の浅瀬に座り込んで、大きなジェスチャーを交えながら、大声で早口で電話を続ける Erika を眺めながら煙草を燻らせると、2年前のウボンラチャターニー3年前のヤソートーン5年前のアユタヤ,もっと前の横浜での記憶が、滝で勢い付いた水流のように駆け抜けて行く。

躁の激流に突き動かされて、文字通り川の流れに身を晒しながら、観念奔逸の激流たる早口で電話を続ける Erika。
今日が長い一日になることは、もう疑いようがない。


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