13) 木の家の中庭の朝の風景 | BIG BLUE SKY -around the world-

13) 木の家の中庭の朝の風景

第十三話) 木の家の中庭の朝の風景

Erika から鍵を借りたリンゴちゃんの部屋で目を覚ます。
時計を見ると 8時過ぎ。

点けっ放しの TV では、リロイ・ジェスロ・ギブスが容疑者を追い詰めていた。
木の家のリンゴちゃんの部屋で、FOX チャンネルを見ながら寝てしまったようだ。
日本では放映されたことが無いホラー番組のタイトルは、アルファベット三文字だったと思うが、思い出すことができなかった。

リンゴちゃんの部屋は、木の家,木造二階建てのアパートの、二階の南西側の角に位置している。
部屋の外に出て煙草を燻らせると、熱帯特有の甘く湿った空気がぬめるように頬を通り過ぎて行く。
その私の横を、ピンクのバスタオルを巻いた若い女性が通り過ぎ、階段を降りると共同シャワーの小屋へ入って行った。
共同シャワーとトイレの小屋の屋根の上には、直径 80cmくらいの青いプラスティック製のタンクが置かれている。
鳥のさえずりに交じって、シャワーの音が聞こえて来た。



[木の家二階のキッチン,ハジャイ,南タイ] (2015)

 

中庭の南東に在る共同炊事場では、昨日と同じご婦人が又何か料理を作っている。
ご婦人と目が合ったので手を合わせて挨拶を交わすと、南東二階の男性住人も私に向かって手を合わせる。
Erika によると、彼はあまり豊かではない画家とのことだ。
彼の部屋の前には鳥かごが下がり、赤いくちばしをした見たことが無い鳥が小さな声でさえずる。

二階の南西の廊下の南側の突き当りには、南側の一辺を占める大き目の部屋が在り、ドアの前には専用のキッチンが作られていた。
コンロが置かれ、壁にはフライパンや鍋といった調理器具が並ぶ。
あの共同シャワーとトイレの小屋の屋根の上の、ニンニクと赤唐辛子の天日干しは、そのキッチンの持ち主の物なのだろう。
部屋と小屋の境界は、キッチンの存在とともに曖昧となっている。



[中庭のキッチン,ハジャイ,南タイ] (2015)  昨日と同じご婦人
 

 

Erika の部屋には鍵が掛かり不在だったので、一階に降りて木の家入口の鉄格子を抜けて、左斜め向かいの売店でコーヒーを買い、木の家の前のベンチに座る。
昨夜の宴席の後は綺麗に片付けられていた。
向かいの席でスマートフォンを眺めていた青年が、胸の前で手を合わせて私に挨拶をする。
昨夜、このベンチでの宴席に、青年も少し加わっていた。
しばらくすると、先ほどシャワーを浴びていた若い女性が来て、青年のバイクで一緒に出かけて行った。

木の家の中庭に戻ると、共同炊事場にご婦人の姿はなく、白い猫が一匹寝そべっている。
猫を撫でて遊んでいると、後ろから声をかけられた。

「 朝ご飯にしましょう 」

振り返ると Erika が、ヘルメットと買い物袋を持って立っていた。
Erika について階段を上がると、今日も長い一日になりそうな気がした。



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