04) 躁が踊る北東角のワンルーム
第四話) 躁が踊る北東角のワンルーム
「 大家さんと話をしてくるから、部屋で待っていてください 」
コーヒーを淹れると、Erika は階下へと出て行った。
六畳ほどのワンルームには、東側に窓が有り、すぐ近くに隣りの建物が見える。
ドアを入った北東角の突き当りには冷蔵庫が置かれ、冷蔵庫の上は仏教の祭壇となっていた。
壁には仏画が貼られ、冷蔵庫の上には線香と供物の果物が並ぶ。
敬虔な仏教徒としての一面が見て取れた。
[冷蔵庫の上の祭壇] (2015)
東側の壁の天井近くには、掛け時計が設置されていた。
文字盤を彩るのはイスラム文字で、南タイならではの紋様を見せる。
南東の角には寝床が置かれ、カエルの大きな抱き枕が置かれていた。
北側と南側には隣りの部屋とを隔てる壁があるが、屋根と壁の間には三角形の隙間が空いている。
隣りの部屋同士は、天井付近でつながっているのだ。
端の部屋までつながっているのだろうか、生活音が聞こえて来る。
この地域の集合住宅は、このような造りなのだろうか。
中庭側、つまり西側には、部屋に不釣り合いな大きさの洋服ダンスがあり、タンスの上まで派手な色・柄の服が積み重なっている。
入口のドアの前後、廊下にも、派手なサンダルが、ダンスのステップを踏むように並んでいた。
部屋の床には植木鉢が並び、食べかけの揚げ菓子や赤いペットボトルのジュース、灰皿とビール瓶が所せましと置かれている。
部屋のそこかしこに、Erika の躁に突き動かかれる一面が現れていた。
[縁起物で飾られた部屋のドア] (2015) これは外側です。
コーヒーを飲みながら、上がり框に腰を下ろして煙草を燻らせると、熱帯特有の甘く湿った空気が、ぬめるように頬を通り過ぎて行くのが心地よい。
中庭の共同炊事場からは、またもやスープの香りが漂って来た。
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