#05-09 The Very Best of Elmore James | BIG BLUE SKY -around the world-

#05-09 The Very Best of Elmore James

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[The Very Best of Elmore James/Elmore James] (1993)


1. Dust My Broom   2. Hand in Hand
3. Sinful Woman  4. I Held My Baby Last Night
5. Can't Stop Lovin'  6. Sho' Nuff I Do
7. 1839 Blues  8. Sunnyland
9. Happy Home  10. Wild About You Baby
11. Long Tall Woman  12. Knocking at Your Door
13. Take Me Where You Go  14. Rollin' and Tumblin'
15. Done Somebody Wrong  16. Something Inside of Me
17. Stranger Blues  18. Anna Lee
19. One Way Out  20. It Hurts Me Too
21. Look on Yonder Wall  22. The Sky Is Crying


「キーボードでは、ギタリストには勝てない」

キーボードでは、ギターのように、聴く者の心を一瞬で鷲掴みにすることは出来ない。まして Elmore James のように、コード・ストロークやスライド・ギターを、心の奥底まで響かせることは出来ない。ブルーズ/ソウル・バンドに加入して直ぐに、そう思いました。

一般的なピアノやオルガンは、平均律で調律されており、誰でも同じ音程で弾くことが出来ます。一方のギターは、フレットを押さえる位置で一音一音の音程が決まり、音程・音色を指先で操ることが出来ます。"Dust My Broom" のコード・ストロークは、三連のワン・ストロークずつ、さらには、その構成音の一つ一つが音程・音色の揺れを持っている。このような演奏は、ピアノやオルガンでは到底出来ません。

キーボードによるブルーズ演奏と言うと、Jimmy Yancey のピアノや、Billy Preston のハモンド・オルガンを思い出すかもしれません。それでも彼等名手のプレイも、Elmore James のコード・ストロークやスライド・ギターの前では、霞んでしまうと感じていました。楽器演奏は勝ち負けではありませんが、当時の私は、ギタリストに対して、勝てない悔しさのような感情を持っていたのです。


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[Blues After Hours/Elmore James and the Broom Dusters] (1960)


ギターに限らず、音程・音色の揺れは、聴く者の心を揺さぶります。それは、理性を司る前頭前皮質ではなく、大脳辺縁系か大脳基底核の奥深くが駆り立てられて、直接感情を揺さぶられる感覚です。たとえキーボード奏者が、情動や本能に突き動かされた演奏をしても、ギターのようには聴く者の心を揺さぶることは出来ない。そこに悔しさを感じました。

ディストーション・オルガンを弾いても、グリッサンドで鍵盤を軋ませても、ピッチ・ベンドが効いたシンセ・ソロを弾いても、悔しさを解消することは出来なかったのです。

ブルーズ/ソウル・バンドのギタリストにそんな話しをすると、ギタリストは、逆にキーボード奏者には勝てないと思っていたことが分かりました。ギターで非楽音的なフレーズをいくら弾いても、キーボード奏者の弾くトータリティには抗えない。そう考えていたのです。互いの長所を活かして補い合えば良い。それが結論でした。


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[The Blues in My Heart, the Rhythm in My Soul/Elmore James] (1969)


時は流れて 1993年、近藤房之助氏が選ぶブルースの巨人・名作シリーズの第三弾として、Elmore James のベスト盤がリリースされました。今は無きヴァージン・レコード伊勢佐木町店で、この CD を見つけて手に取ると、ブルーズ/ソウル・バンドの日々が昨日のことのように思えます。

オープニングの "Dust My Broom" 冒頭の 2小節だけで、大脳基底核の奥底が揺さぶられました。やはり、Elmore James は最高のブルーズ・マンです。何年経っても、これは変わりません。

Elmore James は、Robert Johnson に強く影響を受けながら独自のスタイルを確立して、後に続くブルーズ・マン,ロック・ミュージシャンに多大な影響を与えて来ました。ギタリストに限らず、キーボード奏者にもまた、影響を与え続けていることでしょう。


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