#04-12 Discovery/Mike Oldfield | BIG BLUE SKY -around the world-

#04-12 Discovery/Mike Oldfield

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[Discovery/Mike Oldfield] (1984)


Side-A
1. To France
2. Poison Arrows
3. Crystal Gazing
4. Tricks of the Light
5. Discovery
Side-B
1. Talk About Your Life
2. Saved by a Bell
3. The Lake

'84年発表、Mile Oldfield の 9th アルバム。前作にも参加した Simon Phillips (Ds),Maggie Reilly (Vo) に加えて、元 Triumvirat の Barry Palmer (Vo) が参加しています。本作 "Discovery" は、前作 "Crises" と対を成す印象を受けましたが、ほぼ同じメンバーで、ほぼ同じ曲調なので、そう感じたのでしょう。


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[Crises /Mike Oldfield] (1983)


'80年代は、非ポップス系アーティストにとって不遇の時代でしたが、Mike Oldfield も無縁ではありません。エクソシストのテーマ曲で知られる "Tubular Bells" は、創業間もない Virgin レコードに大きな収益をもたらし、経営路線を決定付けたかに思えました。しかし '70年代後半に New Wave 路線に転換した Virgin レコードは、Mike Oldfield に対して、楽器演奏中心の大曲ではなく、歌物のポップスを作るように強く指示していたと伝えられています。

これに対して Mike Oldfield は、'79年作品 "Platinum" 以降、"QE2","Five Miles Out",前作 "Crises" と、LP 一面に大曲を収録して,他の一面には歌物の小品という構成から成る作品を発表しました。本作 "Discovery" では LP 一面を占める曲は無いものの、12分のインストルメンタル大曲 "The Lake" が収録されており、同様の構成と言えます。

これは、レコード会社の要請と、Mile Oldfield 本来の作風との、妥協点を見つけたものだったのでしょう。そして、これらのアルバムからは、何曲ものシンプル・ヒットが生まれてチャートを賑わして行きました。"Discovery" からも、"To France","Tricks of the Light" がシングル・カットされて、ヨーロッパ各国でヒットしました。Mike Oldfield は、アーティストとしての本質と作品水準とを堅持して、'80年代という時代へ対応することが出来た数少ない存在だと思います。


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[To France (EP)/Mike Oldfield] (1984)


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[Tricks of the Light (EP)/Mike Oldfield] (1984)


さて '84年頃、私の車には "Crises" と "Discovery" のカセット・テープが常備されていました。Mike Oldfield の作品は、特に音楽系人脈外の友人・知人には親しみ易く評判が良かったので、この 2作が定番でした。そのような背景が有って何度も聴いている内に、歌詞の情景が記憶に刷り込まれて行ったからなのか、今でも "Crises","Discovery" 楽曲を思い出して、歌詞が口をつくことが有ります。

フェリーの甲板から遠くの街の灯を眺めた時、スコールの後に大きな虹を見上げた時乗合バスで霧の立つ峰を超える時 、路地裏の点滅する街路灯でメモを読み書きした時 ...  "To France" が口をつきました。


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[ソンテオに乗って霧の立つ峰を越える時、"To France" を口笛で吹く] ('09年 8月)


"Discovery" がリリースされた '84年頃は、'50年代アメリカのビート・ジェネレーション文化に出会って、Jack Kerouac,William S. Burroughs,Allen Ginsberg といったビートニクの著作を読んでいた時期でした。

"Walking on foreign ground like a shadow, roaming in far off teritory.
Over your shoulder stories unfold you are searching for sanctuary.
You know you are never going to get to France ..... "

歌詞のこの部分が、ビートニクの放浪への憧憬と、結びついたのだと思います。"To France" の歌詞もまた、文章が切れ目なくつづいて、どこまでが一文なのかが曖昧なところが、Jack Kerouac の文体を思わせました。


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[On The Road/Jack Kerouac] (1957)  過去記事 も参照下さい

 

 

では、旅先での "To France" に関する、エピソード を一つ紹介しましょう。

2009年 8月に、タイ北方の都市チェンマイから、西方のドイ・ステープ山へ向かって、乗合バスのソンテオで山道を登っていた時のことです。乗客は、50代くらいのオランダ夫婦,20台前半のイスラエル女性とバンコク女性、そして私の 5人でした。
私は景色を見ながら、何となしに "To France" のメロディーを口笛で吹いていました。すると、「 その歌が好きなのですか? 」 とオランダ婦人から質問されたのです。「 好きだよ 」 と答えると、驚いたことに乗客全員が '84年のヒット曲 "To France" を知っていました。オランダ,イスラエル,タイでは、比較的よく知られているそうです。「 日本では Milke Oldfield の知名度は低く、"To France" を知っている人は少ない 」 と言うと、意外な顔をされました。

Mike Oldfield がヨーロッパで人気が高いことは知っていましたが、イスラエルやタイでもよく知られているという事実に、少し驚きました。旅をしていると、そのような発見を伴う理解が度々有ります。

その後、2011年のクリスマスに、Kim Wilde が "To France" をカバーしており、この曲の浸透ぶりがうかがえました。


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[To France /Kim Wilde] (2011)


さてさて '84年の秋のことです。横浜駅西口のスタジオでのバンド練習を終えて、メンバー一同、私の車に乗ってボーカリスト宅へと向かった時のことでした。"Discovery" のテープをかけて、一曲目の "To France" が始まった途端に、ドラマーとギタリストとベーシストが口を揃えて批判しました。

「 何だこれ、やめてくれよ、中島 XXX かい 」  「 フォークかよ、なんだよこのギターは 」

プレーヤーとして優れた技量を持った仲間が、一人も Mike Oldfield の新作を知らず、音楽をスタイルだけで批判する現実に失望しました。私は、批判には一切構わず、ボリュームを上げました。

三曲目の途中くらいで、ドラマーとギタリストとベーシストから、それぞれ 「 ドラマー/ギタリスト/ベーシストは誰? 」 と聞かれて、「 Simon Phillips/Mike Oldfield/Mile Oldfield だ 」 と答えると、彼等は批判を止めました。彼等にも音楽を理解する力が有ったのかと言うと、ミュージシャンの名前に圧されただけだったのでしょう。ミュージシャンと言うよりも、スタジオ・ミュージシャンを目指していた、彼等の本性が見えた気がしました。私がこのバンドを辞めようと思ったのは、正にこの時でした。

(余談の後日談ですが、唯一人黙って聴いていたボーカリストだけが、後に音楽家として大成して大成功を収めたのでした。彼が黙っていた理由は、一つ年嵩の私に気を遣っただけだと思いますが)


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[Pictures in the Dark (12" EP)/Mike Oldfield] (1985)


Mike Oldfield は、'84年秋にサウンドトラック盤 "The Killing Field"、'85年には 12インチ EP 盤 "Pictures in the Dark" を発表して、少しずつ "Crises & Discovery" 路線から作風を変えて行きました。この時期は、アナログからデジタルへの移行期でもあり、多くのアーティストが変革して行った時期に当たります。

私はと言うと、くだんのバンドが辞める前に自然消滅した後、自身がリーダーを務めていたプログレッシブ・ロックを演奏するバンドを解散して、ブルーズ・マンに転身することに決めました。この先は、別の物語として、またの機会に紹介したいと思います。


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