#04-10 Anthem/Black Uhuru | BIG BLUE SKY -around the world-

#04-10 Anthem/Black Uhuru

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[Anthem/Black Uhuru] (1984)


Side-A
1. What Is Life
2. Solidarity
3. Black Uhuru Anthem
4. Try It
Side-B
1. Botanical Roots
2. Somebody's Watching You
3. Bull In The Pen
4. Elements


「Black Uhuru は、凄いグループだったんだよ」
私より年嵩のスーツ姿の男性が、傍らの女性に話すのが聞こえました。今はもう無い新宿のヴァージン・メガストアの、レゲエ・コーナーでのことです。初めて聴くのならこれがいいよと、"Liberation: The Island Anthology" を勧めていたので、おそらく '90年代半ばのことだったと思います。


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[Liberation: The Island Anthology/Black Uhuru] (1993)


スーツ姿の男性は、Balck Uhuru のエピソードを語り続けました。

Bob Marley が亡くなった後、ルーツ・レゲエのスターの座に付いたこと。
ラヴァーズ・ロックを、スポンジ・レゲエと斬り捨てる硬派だったこと。
Islands レコードと契約して、ワールドワイドな人気を得ていたこと。
来日して、よみうりランドで炎天下のライブを行ったこと。
"Anthem" でグラミー賞を受賞したこと。
そしてその絶頂期に、リード・シンガーの Michael Rose が脱退したこと。
その後、ルーツからダンス・ホールへ路線転換して、急激に失速したこと。
Puma Jones がガン療養のために脱退して、その後亡くなったこと。


この人は、私と重なる人生を歩んで来たのだなと思うと、あの '84年 7月 28日のよみうりランド EAST 以来、 10年振りの友人と再開した気がします。


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[Black Uhuru]  from L to R: Michael Rose, Puma Jones, Derrick "Duckie" Simpson


Black Uhuru は、Michael Rose,Derrick "Duckie" Simpson, Puma Jones の、トリオ編成のレゲエ・コーラス・グループです。'84年の来日公演でバックを務めたのは、Sly Dunbar (Ds) と Robbie Shakespeare (B) に加えて、Darryl Thompson (G),Franklyn "Bubbler" Waul (Key),Christopher "Skyjuice" Birth (Perc) の 5人でした。

レゲエの Black Uhuru が、ジャズの野外フェスティバル "ライブ・アンダー・ザ・スカイ" になぜ? という当然の疑問は有りました。しかし、'84年は、Hearbie Hancock が Rockit Band で出演した年です。ジャズ・フィールドのセッションにも参加していた Sly & Robbie が、プロデュースして且つバックを務めるとなれば、誰も文句は言いいません。'84年とは、そのような時代でした。


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[Tear It Up: Live/Black Uhuru] (1981収録/1982リリース)  "Guess Who's Comming to Dinner" 収録のライブ盤


Sly は、赤いシモンズのエレクトロニック・ドラム・キットで登場しました。Skyjuice のパーカッションと Sly のシモンズが良く溶け合い、Robbie のベースのグルーブと相まって、Sly & Robbie 独特のビートがうねり続けます。そのビートの上で、Darryl は、Roland G-707 を通常のロック・ギター・サウンドで鳴らします。ロック・ファンにも違和感なく聴けて、それでいて最高にパワフルなレゲエ・アンサンブルです。

"Guess who's coming to dinner, Natty Dreadlock"

Michael は、Island 期以前の曲で、客に掛け合いを迫りました。Live 盤 "Tear It Up" には収録されていましたが、知らない人の方が多かったのかもしれません。最初は小さかった歌声は、掛け合いを重ねる毎に大きくなって行きました。Machael 独特の Ululation ともつかない節回しが、観客の間をぬめるように通り過ぎると、いつの間にか誰もが掛け合いに参加していました。

炎天下だったので、男女ともに上半身裸に短パン姿の観客が多い中、ステージ上の Michael は白い長袖長ズボンのつなぎ姿で、終始軽やかにステップを踏んでいたことが印象に残っています。炎天下でもスマートに涼しげに振舞う姿に、修羅場を軽やかに駆け抜けるラスタマンを見た気がします。


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from L to R: "Sinsemilla" ('80), "Red" ('81), "Chill Out" ('82)

 


さて "Anthem" は、日本公演を行った '84年に、Islands/Mango レーベルからの 4作目のスタジオ・アルバムとしてリリースされました。"Anthem" は、当初のプロデュース/ミックスに問題が有ったために、Paul "Groucho" Smykle がミックスし直したと伝えられました。

私は、"Anthem" を一聴して、音が平面的で弱い印象を受けました。過剰なプロデュースの結果、レゲエ独特の空間とダイナミズムが失われて、平面的になってしまったと感じたのです。楽曲が良いだけに、とても惜しいと思いました。

しかし、結果的には "Anthem" でグラミー賞を受賞した訳ですから、私の感想とは裏腹に大成功を収めたことになります。自分が大好きなアーティストが、自分があまり好きではない作品でグラミー賞を受賞するとは、何とも複雑な気持ちになりました。


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[Anthem/Black Uhuru] (Jamaican Mix 盤)


さて '84年当時、"Anthem" には Jamaican Mix 盤が存在しており、それは US Mix 盤からは考えられないくらい、強力なレゲエ・サウンドだと噂されていました。私が、その Mix を初めて聴いたのは、ベスト盤 "Liberation: The Island Anthology" (1993) に収録された Original Mix バージョンでした。噂は本当で、US Mix とは全く別モノの、パワフルでダイナミズムに溢れるサウンドでした。10年目にして初めて知った、驚愕の事実です。

グラミー賞を取る大成功を収めながらも、リード・シンガー Michael Rose が脱退し、Islands/Mango との契約更新にも至らなかった。その背景には、"Anthem" の製作過程での諸々の事が、有ったのかもしれないと思いました。


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[Chicago 84/Black Uhuru] (1984収録/2010リリース)


Balck Uhuru は、現在も本国ジャマイカで活動を続けています。ここ 10年ほどは新作の便りが届きませんが、Islands 期音源の再編集盤やライブ盤の発表は続いています。
("Anthem" 各種 Mix を収録した 4-CD セット "Complete Anthem Sessions" も、2006年にリリースされました)

2010年にリリースされた '84年のライブを聴くと、あの日、よみうりランド EAST で、頬をぬめるように通り過ぎて行った熱風を思い出します。もう一度見たい公演を挙げるとしたならば、あの日の Balck Uhuru を最上位に挙げることは間違いありません。


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