#04-06 Grace Under Pressure/Rush | BIG BLUE SKY -around the world-

#04-06 Grace Under Pressure/Rush

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[Grace Under Pressure/Rush] (1984)


Side-A
1. Distant Early Warning
2. Afterimage
3. Red Sector A
4. The Enemy Within (Part I of Fear)
Side-B
1. The Body Electric
2. Kid Gloves
3. Red Lenses
4. Between the Wheels


カナダのロック・バンド Rush の 10th アルバム。
'70~'90年代の Rush は、ライブ盤を境に音楽性を大きく変えて行きました。この時期は第Ⅲ期に分類され、"Signals" (1982),"Grace Under Pressure" (1984),"Power Windows" (1985),"Hold Your Fire " (1987) の 4作品を発表しています。
私は、Rush の長い歴史の中で、第Ⅲ期前半の 2作 "Signals","Grace Under Pressure" が、最も好きな作品で、最もよく聴きました。この時期の特徴としては、レゲエ/スカ・ビートの導入,ギター・サウンド/プレイに代表される時代の音の導入,キーボードを中心とした音作りが挙げられます。


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[Signals/Rush] (1982)


レゲエ/スカ・ビートは "Signals","Grace Under Pressure" 収録曲の半数に採用されており、曲調の中核を成しています。Alex Lifeson が、The Police の Andy Summers のギター・プレイとサウンドを真似ていることもあり、The Police を彷彿とさせる場面も登場します。Geddy Lee の高域ボイスが聞こえて来なければ、The Police がハードに演奏しているなと思うかも知れません。そのくらい、似た音作りをしています。

但し、The Police や The Clash のレゲエへの取り組みと、Rush のそれとは、明らかに違いが有ると思います。Rush からは、レゲエそのものの影響は殆ど感じられません。ディレイやエコーの効いた音も、ダブそのものからの直接的な影響ではないと感じます。時代の音として、レゲエを取り入れたように聞こえることは、否めないと思います。
それでも "Signals" の "Digital Man" や、"Grace Under Pressure" の "Distant Early Warning","The Enemy Within" では、新しいハード・ロックを作ることに成功しています。たとえ表面的なものであったとしても、楽曲の魅力をピュアに味わえば良いと思います。


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[War/U2] (1983)                        [Synchronicity/The Police] (1983) 


私が、'83~'84年に良く聴いたロック・アルバムは、"Grace Under Pressure" と "Synchronicity" (The Police),"War" (U2) でした。この三枚に共通しているのは、ギターによる、空間的な広がりを感じさせる音作りです。この時期の、Alex Lifeson,Andy Summers,The Edge のギターには共通する要素が多く有りますが、Alex Lifeson が Andy Summers と The Edge の奏法から学んだというのが、事実だと思います。
既に大きな成功を収めていた Rush が、自分達よりもキャリアが短いバンドや若いプレーヤーから学び、成長する姿勢を見て、それこそが音楽家の有るべき姿だと思ったものです。学び続ける姿勢が無ければ、新しい作品を作り出すことは出来ないので、それは当然のことです。もちろん、音楽家に限ったことではありません。


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[日本武道館/Rush] (21-Nov-1984)  ジュースでもこぼしたのかな?


さて私は、'84年の Rush 初来日公演を、11月21日の日本武道館で体験しました。その後 30年を経ても、再度の日本公演が実現していないことを思うと、貴重な体験だったと思います。

私が行った日が最終公演だったためか、会場に着いた頃には公演パンフレットは売り切れていました。九段下の駅で知り合いに出会って、久し振りだねと話し込んだことが裏目に出ました。もう少し早く会場に行っていればと、30年を経た今でも思い出すことが有ります。

公演は、"The Spirit of Radio" で幕を開けました。Alex Lifeson は、シャープな良く伸びるギター・サウンドで、広い武道館を埋め尽くします。Geddy Lee は、スタインバーガー社のベースを持ち、ステージ中央と右手のキーボードとの間を、軽やかなステップで往復します。そして Neil Pert は、まるで雷神のように 360度のドラム・セットに囲まれて、時折くるりと客席に背を向けて、シモンズ・エレクトロニック・ドラムを演奏しました。

ステージ後ろのスクリーンには、プロモーション・ビデオが映し出されます。
"酸性雨に歌う者も、重水に泳ぐ者もいない ... "  巡航ミサイルに幼児が跨って飛ぶ映像に、"Distant Early Warning" の重い歌詞が頭上に圧し掛かる気がしました。
"Red Alert","Incomplete","Absalom"  警告と旧約聖書の登場人物名とが、武道館の空気を重くして行きます。そう、"Grace Under Pressure" のテーマは、Rush の他のどのアルバムよりも重く暗いのでした。


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[A Show of Hands/Rush] (1989)  1986~1989 収録


"Grace Under Pressure" からの曲が続いた後で、"YYZ" のイントロが始まると、不安を煽る曲調なのに何故かほっとしました。私だけではなく、"YYZ" に、会場全体の空気が緩んだのが分かりました。
Alex と Geddy とが、ベアナックル・ファイトをするかのように、ネックで殴り合うアクションを見せると、Neil も機銃掃射のようなドラミングで煽ります。Neil のドラム・ソロが終わる頃には、聴衆の興奮は頂点に達しました。
アンコール 4曲で公演は幕を閉じ、時計を見ると、あっという間に一時間半が過ぎていました。

その後の第Ⅲ期 Rush は、よりキーボードを重視した音作りをするようになって行きました。デジタル・シンセサイザーの進歩と相まって、第Ⅲ期後半の 2作 "Power Windows","Hold Your Fire" では、キーボード中心のアレンジが過剰になって行ったのです。
第Ⅲ期を締め括るライブ盤 "A Show of Hands" は、幾分か過剰なキーボード音が支配しているように聞こえるので、日本公演で武道館を埋め尽くしたギターが懐かしくなりました。後に "Grace Under Pressure Tour" の DVD が登場した時には、喜々として聴いたものです。


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[Grace Under Pressure 1984 Tour/Rush] (2007 DVD/1985 VHS)  1984 収録


2000年代からの Rush は、ギター,ベース,ドラムスによる演奏を中心とした作品を発表しています。'80年代後半から '90年代の作品よりも、どちらかと言うと '70年代の第Ⅰ~Ⅱ期を想起するハードな音作りです。
現在も活発に活動を続けているだけに、是非とも、二回目の来日公演が実現することを願います。

(Rush officcial site: http://www.rush.com/ )


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