#04-01 Music for Piano and Drums/Moraz-Bruford | BIG BLUE SKY -around the world-

#04-01 Music for Piano and Drums/Moraz-Bruford

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[Music for Piano and Drums/Moraz-Bruford] (1983)


Side-A
1. Children's Concerto
2. Living Space
3. Any Suggestions
4. Eastern Sundays
Side-B
1. Blue Brains
2. Symmetry
3. Galatea
4. Hazy


'83年発表、Patrick Moraz (Pf) - Bill Bruford (ds) のデュオ一作目。二人は元 Yes として知られている。在籍期間は Bruford '69~'72年,Moraz '74~'76年と重なっていないが、'75年に Yes のベーシスト Chris Squire のソロ・アルバムで共演を果たし、"Hold out Your Fire" のビデオに二人を見ることができる。
'83年当時、The Moody Blues,King Crimson に所属していた二人は、互いのバンドがオフの間にデュオを組み、アコースティック・ドラムとグランド・ピアノで、アメリカのジャズ・クラブをサーキットした。そこで演奏した曲をスタジオ・レコーディングしたのが、本作 "Music for Piano and Drums" である。

Moraz は、Yes にジャズ・テイストを持ち込んだ。"Relayer" 収録曲 "Sound Chaser" では、ファンク・ビートに乗せてピッチ・ベンドたっぷりのミニムーグ・ソロを弾き、第2期 Return To Forever の Chick Corea を彷彿とさせる演奏を聴かせた。そして "The Story of I" を始めとするソロ・アルバムにおいて、ジャズ/フュージョンはブラジル音楽とともに底流を成して来た。
一方の Bill Bruford は、「ジャズにハートを持つのに、何故かロック・バンドでプレイしている」 と Robert Fripp に評されたドラマーである。太陽と戦慄期 King Crimson の集団即興演奏において、その本質を剥き出しにしたドラミングで聴衆を圧倒した。さらに自身の名を冠したジャズ・ロック・バンド Bruford は、ブリティッシュ・フュージョンと呼ばれたシーンの一角を担っていた。

その二人がデュオを組んだ本作は、ジャズ・ライフの新譜紹介ページで大きく取り上げられ、高評価が付けられていた。私は、国内盤の発売を待ち切れず、石川町のタワー・レコードで輸入盤を購入した。そして、根岸線,相鉄線と乗り継いで、真っ直ぐ帰宅するなり LP レコードに針を落としたのを覚えている。

それでは、楽曲を紹介しましょう。

Side-A
Track-1. "Children's Concerto"
Moraz 独特の快活な高音フレーズで始まる、めくるめく展開の楽曲。88鍵を駆け巡るピアノ・プレイと、重厚且つ軽快なドラミングが快い。"Children's Concerto" とは、よくも名付けたものだ。たとえ楽曲名を知らなくても、一聴して Chick Corea "Children's Songs" を想像するだろう。それほど、この時期の Chick Corea と Patrick Moraz の音には共通点が有る。
それにしても 、このアルバムは、何故ジャズに分類されているのだろう? 一曲目を聴き終える頃に疑問が湧いてきた。中盤にテーマをモチーフにした即興が入る以外、Moraz のピアノ演奏は完璧に作曲されている。Bruford のタム回し、バス・ドラを打つタイミングは、ジャズ・ドラミングではない。しかし、ジャズではなくても、"Children's Concerto" が偉大な楽曲であることは間違いない。セールス上のジャンル分けなどとは一切関係なく、Moraz-Bruford にしか成し得ない音に、一曲目にして圧倒された。


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[Children's Song/Chick Corea] (1984)


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[Trio Music/Chick Corea] (1982)


Track-2. "Living Spaces",Track-3. "Any Suggestions"
一曲目とは一転して、インプロビゼーションが繰り広げられる。Moraz の端正な演奏に、Chick Corea "Trio Music" ('82) 収録の "Trio Improvisation 1 & 2" を思い出し、Miroslav Vitous のアルコ奏法が聴こえて来そうな気がする。一年前に発表された Chick Corea Trio の作品を、Moraz はきっと聴いているだろう。
一方、Bruford のドラミングは、Roy Haynes と言うよりも Max Roach のようだと思い、Max Roach (Ds) and Cecil Taylor (Pf) のデュオ・コンサート ('79) が、評判を呼んだことを思い出す。Bruford は、Max Roach and Cecil Taylor への高評価を、おそらく聞いていただろう。
Moraz-Bruford が誕生した背景には、これらの影響が有るのかもしれない。  


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[Drums Unlimited/Max Roach] (1966)  Moraz-Bruford 2nd アルバムでカバーする "The Drum Also Waltz" 収録


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[Historic Concerts/Max Roach and Cecil Taylor] (1979収録/1984リリース)


Track-4. "Eastern Sundays"
Moraz ソロ作 "Future Memories" ('79) 収録曲の再演。Bruford の和太鼓を模したと思しきドラミングと、Moraz の都節音階が緊張感を高める。終盤、二人のルーディメントがクレッシェンドし続けるのを聴いて、ルーディメントのルーツは、Moraz の母国スイスの軍楽隊へと遡ることを思い出す。無限に続くと思われたクレッシェンドは、Moraz のシャウトで幕を閉じ、気が付くと Side-A は終わっていた。


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[Future Memories Live On TV/Patrick Moraz] (1979)  "Eastern Sundays" 原曲を収録


これは聴くのにエネルギーを要するアルバムだ。Side-A が終わったところで一息ついて、厚木街道沿いの銭湯で英気を養ってから Side-B に針を落とした。

Side-B
Track-1. "Blue Brains"
John Coltrane "Blue Train" のようなタイトルだと思っていると、Bruford の重たいリフに意表を突かれた。シンバルを使わないアフリカン・ドラミングが、大脳基底核の奥底を駆り立てる。それは、太古の衝動だったのかもしれない。
"Blue Brains" は、翌 '84年の Moraz ソロ作 "Timecode" で、"Black Brains of Positronic Africa" と改題されて再演された。その改題された曲名を見て、大脳基底核を揺さぶったコンセプトは、やはりアフリカだったんだなと、納得したことが記憶に残っている。


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[Timecode/Patrick Moraz] (1984)  "Blue Brains" の再演曲 "Black Brains of Positronic Africa"を収録


Track-2. "Symmetry"
テクニカルな楽曲。この曲は文字通り、シンメトリーに作曲されているのだろうか? 一聴しただけでは分からなかったので、採譜して調べようと思ったのだが、楽曲の迫力にいつの間に忘れてしまった。30年が経過したが、未だに採譜も解析もしていない。

Track-3. "Galatea"
美しいメロディーに、一曲目からずっと続いていた緊張感から開放される。Bruford のブラシ・プレイが心地良い。後に Steve Vai が語ったように、アルバム 7曲目にはメロディックな楽曲が相応しい。Moraz ソロ作 "Windows of Time" ('94) で再演された時にも、"Galatea" は 7曲目 (注: 実質的な楽曲として 7曲目) に収録されていた。7曲目にはメロディックな楽曲こそが相応しい。Steve Vai の名言である。


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[Windows of Time/Patrick Moraz] (1994)  "Galatea" を再演収録


Track-4. "Hazy"
アルバム最後を飾る "Hazy" は、ビートとモードが目まぐるしく変わる楽曲。ラスト曲に来て初めて、二人がプログレッシブ・ロックに分類されるバンドに在籍していたことを思い出す。この曲には、"Children's Concerto" から "Galatea" までの全ての要素、Yes から King Crimson,The Moody Blues までの、全ての要素を内包している。 それらは楽曲中に内包されているのではなく、楽曲から外挿した先に存在している。正に限り無くイメージが広がる楽曲と演奏だ。


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[Scenario/Al Di Meola] (1983)


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[Renaissance Man/Jamaaladeen Tacuma] (1984)


本作の発表と相前後して、Bill Bruford はジャズ/フュージョン作品への参加が目立つようになる。Al Di Meola "Scenario" ('83) 収録曲 "Calliope" に Tony Levin と共に参加して、King Crimson 紛いのポリ・リズムを刻み、Al Di Meola のアルバム・コンセプトを体現した楽曲となっている。Jamaaladeen Tacuma "Renaissance Man" ('84) のハイライト曲 "Sparkle" では、スイングしない 4ビートでドラム・ソロまで叩いており、Bruford の隠れた名演となっている。そして '85年にはジャズ・カルテット Earthworks を結成して、ジャズ・フィールドでの活動を本格的にスタートした。

一方の Patrick Moraz は、母国スイスの建国 700年記念祭を前にした '91年に来日して、一晩だけのソロ・パフォーマンスを行っている。私は幸運にも、この公演を観ることが出来た。ピアノ楽曲の合い間に、Moraz-Bruford に関するポジティブなコメントをして、聴衆が湧いたことが印象に残っている。Moraz-Bruford は、誰にとっても特別な経験なのだろう。その後、 Morazは、ピアノ演奏による作品の発表を続けている。

"Music for Piano and Drums" は転機となった作品として理解している。

(Bill Bruford official site:http://www.billbruford.co.uk/ )


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