#03-09 六本木ピットイン '83/難波弘之 with 渡辺香津美 | BIG BLUE SKY -around the world-

#03-09 六本木ピットイン '83/難波弘之 with 渡辺香津美

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[六本木ピットイン/難波弘之 & Sense of Wonder with 渡辺香津美] (6-Jul-1983)


第1部
1. Ringworld
2. Jam including Rat Bat Blue
3. オペラの怪人
4. パーマー・エルドリッチの三つの聖痕 Part 2, Part 3
5. Manhattan Flu Dance
6. 渇きの海
7. 夢中楼閣
第2部
8. ピアノ・ソロ
9. Hospital
10. Speechless~ロミオとジュリエット
11. 飛行船モルト号
12. 百家争鳴~ドラム・ソロ
13. トロピカル万国博
14. Racoon Roll
15. 空中の音楽
アンコール
16. Dimension Traveller
17. Nutrocker


Sense of Wonder のメンバーは、難波弘之 (Key,Vo),そうる透 (Ds),荻原基文 (MECKEN) (B)。六本木ピットインでの 3ヶ月半振りのライブは、渡辺香津美 (G) をゲストに迎えての、NHK-FM 用のライブ収録となった。

"オペラの怪人"
Sense of Wonder の客はいつも同じような顔ぶれだったが、香津美氏目当ての客が多いのか、初めて見る顔が多い。香津美氏が 3曲目 "オペラの怪人" から登場すると、いつもとは違う歓声が上がった。
香津美氏がギターを弾くと、キーボード・トリオのために作られた楽曲に、始めからギター・パートが存在していたかのように聴こえる。まるで、楽曲は始めからこの姿で存在していたかのようだ。この演奏を聴いてしまうと、香津美氏のギターが聴こえない "オペラの怪人" は、YMO "Public Pressure" のように物足りなく聴こえてしまうだろう。

"パーマー・エルドリッチの三つの聖痕"
聖なる曲は、エンディング前に突然 4小節のファンク・パターンに変わり、香津美氏のソロが始まった。延々と香津美氏のソロが続く中で、難波氏の弾く聖なるリフが、ゆっくりとクレッシェンドして来る。ファンク・パターンと聖なるリフが二重絵を描く演出に目眩がする。

"Manhattan Flu Dance"
「香津美の譜面にはマル "香" 印のハンコが押してあり、最後に "回覧" というハンコがどーんっと押してある」
難波氏が曲紹介すると、香津美氏は "Manhattan Flu Dance" とは似ても似つかない Robert Fripp を彷彿とさせる一人 Discipline Crimson 演奏を始めて、5/8 拍子のコード・カッティングへと続ける。始まってしまった、このまま 20分か? そう思った瞬間、聴き慣れたブギのリフが始まった。
難波氏が Prophet-5 でピッチ・ベンドを効かせたソロを弾くと、香津美氏はブルー・ノート・スケールのフレーズで応える。まるで、Colosseum II のブギ・ナンバー "Fighting Talk" のようだ。歌物よりもインスト曲の方が、メッセージ性が高く聴こえるから不思議なものだ。

"渇きの海~夢中楼閣"
ギターの存在感を最も感じたのは、この 2曲。特に "渇きの海" のギター・ソロはいつまでも耳に残り、帰宅してから採譜することが出来た。それほど存在感が有るソロだったのだ。香津美氏のライブには何度も足を運んでいるが、このような経験はこの時の "渇きの海" でしかない。音楽が産まれる瞬間に居合わせた幸運に感謝する。

ここで第1部は終了となり、休憩を挟んで、第2部はピアノ・ソロから始まった。


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[PIT INN のステージ] (1983)


"ホスピタル"
SOW のトリオ演奏。香津美氏との共演の刺激からだろうか、この日の演奏はいつもより格段に切れが良い。アコースティック・ピアノも、ドラムも、ベースも、3/8 拍子でのソロも鬼気迫る迫力が有る。これもまた "渇きの海" 同様に、創造の瞬間であった。この年、間もなくして荻原氏は脱退し、その後、この時に迫る "ホスピタル" を聴いたことはない。

"飛行船モルト号"
再び渡辺香津美氏が登場する。難波氏の オルガン,エレピ,リード・シンセでのソロが延々と続くと、香津美氏の出番は? と客席の疑問がどんどん膨らんで行く。すると、客の不満を見透かしたかのように、エンディング前に香津美氏の長いソロが用意されていた。スタジオ盤 "飛行船の上のシンセサイザー弾き" では小川銀次・照夫,両小川氏がギター・バトルを行ったところを、香津美氏はクロマティックやディミニッシュ・スケールを多用して、一人で緊張感を高めて演じきる。高まった客のフラストレーションを最後に解放する、これもまた見事な演出であった。

"百家争鳴"
後半、8小節繰り返しで香津美氏のソロが続いた。完全にロック・ギター奏法。Blues ギター色が薄いので、Steve Howe や Al Di Meola を思わせる。そう言えば、スタジオ盤でこの曲のソロを弾いた北島健二氏を、店内で見かけた気がする。ギター・バトルが聴ければ楽しかったかもしれない。

"トロピカル万国博"
レゲエ風ナンバー。ミュート気味サスティン短めの音での、バッキングとコード・カッティングが心地良い。香津美氏が Sly & Robbie と共演する "Mobo" のリリース前だったので、氏のレゲエ風ギターを聞いたのはこれが初めてだったと思う。
この曲が始まると寝入ってしまうことが多く、この日も気が付くと寝てしまっていた。香津美氏がノイズを響かせる音で目が覚めるが、何も起こらないので再び寝てしまった。

"Racoon Roll"
荻原氏が聞き覚えが有るベース・フレーズを 2拍分弾いたところで、ステージに北島健二氏が登場する。
「せっかく、北島健二が来たので、ここでもう一曲香津美の曲を、二人のギター・バトルで死ぬほどやってもらおうと思います」 "百家争鳴" での願いが通じたかのようだ。
難波氏はさらに客席を見て 「会場に桂文珍が来ています」 と紹介する。そしてバンドの五人が演奏する Led Zeppelin "Heartbreaker" に合わせて、桂文珍氏がステージに登場する。
「難波さん、大麻だけは吸わないで頑張って下さい」 のコメントに、難波氏は 「今日は、NHK の収録中だから...」 と冗談で応じる。美少年コンテストだ、香津美・北島健二・難波・そうる透の 4人は同系列の顔と評判だった頃が有るなんて、変な話題がしばらく続いた。
(美少年コンテストは、'83年当時 "笑っていいとも" の人気コーナーでした)

「それでは、正常な営業活動に戻ります」 難波氏が今度は曲を紹介して、Kazumi Band "Ganaesia" 収録曲 "Racoon Roll" が始まった。北島氏かと思うと香津美氏、香津美氏かと思うと北島氏のソロだったりする。勉強トリオのライブでも、山岸氏かと思うと香津美氏で、香津美氏かと思うと石田氏で... という場面が多々有る。それがまた、ギター・バトルの醍醐味なのだろう。

"空中の音楽"
11/8 拍子の曲。中間のリズム隊が 8/8 拍子で演奏するポリ・リズム部の始まりで、ちょっとミスったかに見えた香津美氏だが、編曲の一部として貼り付けたかのように自然に修正する。この修正力は後々の勉強になった。


ここからアンコール。難波氏が香津美氏を "植木等" と紹介して、会場が沸いた。

"Dimension Traveler"
この曲は、難波氏が椎名和夫氏とのバンド "Gear" のために作った曲。
「僅か 15秒のイントロが難しくて、皆、朝早く起きて練習したので、イントロだけよく聴いて下さい」
確かに、Return To Forever 風のイントロは、譜割りが細かくてとても難しそうだ。その後は、Kenso 風の 7/8 拍子部が一回登場したくらいで、ファンク・パターンで各人のソロが続く。難波氏のソロは、リング・モジュレータをかけたかのような音程感で、浮遊する金属音で始まった。中間部に差し挟まれた数小節のストリングス音は、"オペラの怪人","百家争鳴" のようだ。エンディングで "未知との遭遇" のフレーズが響いたことが、今思い出すと時代を感じさせる。(私も引用したことが有りました)

"Nutrocker"
「やらない予定だったんですけど」 と言いながら、SOW の三人で二回目のアンコールに応じて、いつもの ELP 版 Nutrocker が始まった。途中、"Jeff's Boogie" に変わって、三人のソロ応酬が続く。難波氏の Clavinet 演奏は暴力的でもある。"Promnade" の冒頭部が差し込まれて一瞬ハッとするが、そうる透のバスドラに飲み込まれて消えて行く。このままいつまでも演奏が続いて欲しいと思うが、必ず終演の時はやって来る。やがて、楽曲は終わり終演を迎えた。


この日の観客数はどのくらいだったのだろう。300人くらいだろうか。皆一様に満足そうな表情で帰途について行った。
その後、この日収録された演奏は、NHK-FM で "渇きの海","飛行船モルト号","オペラの怪人","Racoon Roll" の 4曲がオン・エアされた。ナレーションが被りフェード・アウトする内容で、当日の雰囲気の数パーセントも伝わって来ない、ファンには不満が残る放送であった。しかし、難波氏の音楽を広くプロモーションする効果は有ったのだろう。その後難波氏は、メディアへの露出度が増えていった。


さて、もう 29年前のことではあるが、今でも当日の素晴しい演奏を思い出すことが出来る。六本木ピットインでは、たくさんのライブを見たが、何か一つと言われれば '83年7月6日の難波弘之 & Sense Of Wonder with 渡辺香津美を挙げるでしょう。
この日、ライブ収録した音源は、今もどこかに眠っているのでしょうか。リリースされることを願っています。

(Hiroyuki Namba official site: http://www.vega-net.ne.jp/namba/ )


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