#03-05 Beat/King Crimson | BIG BLUE SKY -around the world-

#03-05 Beat/King Crimson

BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0501_beat
[Beat/King Crimson] (1982)


Side-A
1. Neal And Jack And Me
2. Heartbeat
3. Sartori In Tangier
4. Waiting Man
Side-B
1. Neurotica
2. Two Hands
3. The Howler
4. Requiem


'82年に発表された、Discipline 期 King Crimson の 2nd アルバム "Beat"。メンバーは Robert Fripp (G),Adrian Belew (G,Vo),Tony Levin (B,Stick),Bill Bruford (Ds) の 4人編成。前作のエンディングそのままに、5拍子系のギター・ガムランでアルバムは幕を開ける。

ギター 2本が 16分音符 1つずつずれていくギター・ガムラン,シンバルに頼らないドラミング,4人によるポリリズム演奏は、前作 "Discipline" と共通している。本作 "Beat" で新たに登場したのは、"Heartbeat" に代表される歌を聴かせるための楽曲、"Sartori In Tangier" でのモロッコ音楽からの影響、"Waiting Man" での西アフリカ風のメロディックなドラミング、そして '50年代アメリカを象徴する "Beat Generation" の世界観である。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0502_ontheroad
[On The Road/Jack Kerouac] (1957)


Beat Generation と各曲との関連は次のようになっている。

Neal And Jack And Me ... Neal と Jack は、Beat Generation を代表する Neal Cassady と Jack Kerouac のことで、Jack Kerouac の小説 "On The Road (邦題: 路上)" にインスパイアされた内容を歌っている。

Heartbeat ... Neal Cassady 夫人 Carolyn Cassady の著作 "Heart Beat" のタイトルを冠した曲。

Sartori In Tangier ... Jack Kerouac の短編小説 "Satori In Paris" から借用したタイトル。Jack Kerouac,William S. Burroughs,Allen Ginsberg ら Beatnik 達が、 Paul Bowles を訪ねたタンジールで出会ったモロッコの音楽 "Jajouka" にインスパイアされた音を聴かせる。

Neurotica ... 元は "Manhattan" というタイトルだった曲で、アルバム収録にあたって Beat Generation 時代の雑誌名と同タイトルに改題された。

The Howler ... Allen Ginsberg の詩集 "Howl" にインスパイアされたもの。この曲のイントロでのギター・ガムラン・リフレインは、まるで Poetry Reading のように聴こえる。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0504_frombeattopop
[From Beat To Pop/和久井光司編] (1997)  Bob Dylan が表紙のビート読本。'82年にこんな本が欲しかった


'82年当時、日本国内での評論・解説で、Beat Generation との関連性を論じたものは皆無だった。また音楽に対する考察も皆無に等しかった。唯一人、この作品を正当に評価していたのは、ギタリストの渡辺香津美氏だけだった。氏は、キーボード・マガジン誌で、"Beat" を '82年のベスト・アルバムに挙げている。また、Kazumi Band の楽曲 "Riboj" では、"Discipline" の影響が窺えるサウンドを聴かせた。これについては、又の機会に紹介したい。

さて、そもそも '82年当時の日本には、Beat Generation に関する情報が殆ど無く、Beat 作家の著作の翻訳出版も数えるほどしかなかった。私は、たまたま開いた雑誌の記事に Neal と Jack の名前を見つけて、二人が Beat Generation を代表する存在だと知った。早速、"On The Road" を始めとして Jack Kerouac,William S. Burroughs の小説を読み、Beat 文学に傾倒して行った。"Beat" は、私にとっては Beat 文学と '50年代アメリカ文化への登龍門となった。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0505_dancinginyourhead
[Dancing In Your Head/Ornette Coleman] (1976)  "Midnight Sunrise" 収録


そして、Beatnik たちの活動を辿っていくうちに、'50年代に彼らが出会ったモロッコ音楽 "Jajouka" を知ることになる。Jajouka 作品を、広く欧米へと紹介したのは、元 Rolling Stones の Brian Jones であった。Brian が現地で収録した "The Pipes Of Pan At Joujouka" ('71) は、先鋭的なミュージシャンに大きな衝撃を与えた。
Jajouka 以上に過激な伝統音楽は聴いたことがない。Jajouka の前には、どんな Heavy Metal,Free Jazz,Punk Rock も、一蹴されてしまうことだろう。
Brian Jones プロデュース作にインスパイアされて、Jajouka と共演した作品としては、Ornette Coleman "Midnight Sunrise" ('76) が最もよく知られている。この曲では、Jajouka が幾分かオフ気味に聴こえてしまうのが惜しいと感じる。

さて、Side-A,Track-3 "Sartri In Tangier" は、前記のように Jajouka にインスパイアされた音だと思う。 Tony Levin の弾く Stick のリフに乗って Robert Fripp の Guitar Synthesizer が唸りを上げる展開は、Jajouka 音楽で Gimbli のリフに乗せて Ghaita が叫ぶように響く場面を想起させる。
Live では、Bill Bruford と Adrian Belew のツイン・ドラムで演奏され、中間部には Bruford の Electric Percussion ソロが用意されていた。Tony の緩やかなリフ,漂う Fripp の Guitar Synthesizer,そして Bruford の Electric Percussion ...  神奈川県民ホールのステージの向こう側に、高原を渡る風と山間部の村が見えた気がした。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0503_satoriinparis
[Satori In Paris /Jack Kerouac] (1966)


もし "Beat"、そして "Beat Generation" との出会いがなかったならば、諸外国を放浪することも無く、"Beat" の語源 "Beatitude" を知ることもなかったことだろう。
"Beat" に出会った幸運に感謝する。

(King Crimson/Discipline Global Mobile officcial site: http://www.dgmlive.com/index.php )
(The Master Musicians Of Jajouka official site: http://www.jajouka.com/ )


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