#03-03 Honky/Keith Emerson | BIG BLUE SKY -around the world-

#03-03 Honky/Keith Emerson

BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0301_honky
[Honky/Keith Emerson] (1981)


Side-A
1. Hello Sailor  includes "Bach Before The Mast"
2. Salt Cay
3. Green Ice
Side-B
1. Intro-Juicing
2. Big Horn Breakdown
3. Yancey Special
4. Rum-A-Ting
5. Jesus Loves Me


'81年にイタリアでリリースされた Keith Emerson 初のソロ・アルバム。
"Honky" は、ELP "Love Beach" ('78) と同様に、バハマ,ナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで録音された。Keith は "Love Beach" 制作後もバハマに留まり、現地ミュージシャンとのスタジオ・ワークを続けていた。その成果が、本アルバム "Honky" として結実したのだった。"世界で最も美しい場所で、プレッシャーを感じずにレコーディングした、特別な思い入れの有る愛すべき作品" Keith は、"Honky" のオフィシャル CD 化 (2000) に当たって、このようなコメントを寄せている。

当初はイタリアのみの発売だったために、入手は困難を極めた。輸入盤屋に行ってもいつも品切れで、ようやく手に入れたのは、リリースから一年が過ぎた '82年の秋だった。新宿帝都無線で LP レコードを手にとり、光沢紙に印刷された色鮮やかなジャケットに、しばし見とれてしまった。先の Keith のコメントにある幸福感が、そのまま伝わってくるようなジャケットだったからだ。

何回か聴いて、「これが "Works" ('77) に続く ELP 作品だったら良かったのに」 と溜息をついた。"Works Tour" での圧倒的なパフォーマンスを聴いて、次の作品に期待していただけに、"Love Beach" での失望は大きかった。"Works" に続く作品としては、"Love Beach" よりも "Honky" の方が何万倍も相応しい。しかし、Greg Lake,Carl Palmer と一緒では、この作品はあり得ない。嬉しくもあり寂しくもある、複雑な気持ちになったことを覚えている。


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[Looking Out For #1/Emerson, Lake & Palmer]  '77 Works Tour のブートレグ LP


さて、楽曲を紹介しましょう。

Side-A
1. Hello Sailor : バハマの波音で始まり、George Malcolm 作のバロック楽曲 "Bach Before The Mast" のピアノ・ソロを挟んで、Keith 曰く Led Zeppelin 風の "Sailor's Hornpipe" へと進む。バハマのミュージシャンのファンキーな演奏に、Keith のハモンド・オルガンが良く合っている。黒人ミュージシャンとの共演で、Keith のリズム/タイム感覚は幾分か矯正されているようだ。本アルバムを象徴する楽曲と言える。

2. Salt Cay : "Hello Sailor" のコーダそのままに "Salt Cay" が始まる。Kendal Stubbs (B),Frank Scully (Ds,Perc) とのトリオで、グルーブ感溢れるヘビーな演奏を聴かせる。Keith は、Kendal,Frank のリズム・セクションを気に入っていたようで、 その後の映画音楽作品や、'88年のソロ・アルバム "The Christmas Album" でも共演している。また、ファンの間でもあまり知られていないが、この曲にはビデオ が存在する。Keith が野外で KORG PS3300 を弾く、貴重な映像が残されている。

3. Green Ice : ピアノ・トリオで演奏される緊張感溢れるナンバー。こんな曲は、Keith にしか作り得ない。"Toccata","Creole Dance" のオリジナル作曲者 Alberto Evaristo Ginastera が聴いたら、何と評すだろう? '81年には Ginastera は存命中であったから、この曲を聴いたのではないだろうか? などと想像を誘われる。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0303_keithemerson
[KORG PS3100/3300 と Keith Emerson]


Side-B
1. Intro-Juicing : アメリカのラジオ局用 ID を使って、Keith 自身の紹介で Side-B が始まる。

2. Big Horn Breakdown : ジャズ・ピアニスト Billy Taylor の楽曲を、Keith はお得意のラグタイム調で演奏する。Keith 曰く、Barn Dance/Hoedown スタイルで、つまりは田舎風ダンス/フォーク・ダンスを意図したスタイルで演奏している。

3. Yancey Special : Meade Lux Lewis 作の Boogie-Woogie ナンバー。"Honky" が最初にリリースされたイタリアでは、かつてKeith のソロ・シングル "Honky Tonk Train Blues" が大ヒットしているので、同じ Meade Lux Lewis の曲を入れたもの。意表を突いたレゲエ・リズムが、Boogie-Woogie 楽曲に良く合っている。

4. Rum-A-Ting : Kendal Stubbs (B),Frank Scully (Ds,Perc) とのトリオ演奏によるファンク・ナンバー。リコーダー音によるリフ、高音で鳴き続ける鳥のようなシンセ音、滑らかで軽いベース・プレイとパーカッション、CP-30 の電子発振式ピアノ音によるソロ、そしてリコーダー音によるソロ ... Keith Emerson の、バハマ・レコーディング・ワークス集大成の感が有る。Keith Emerson の数多い楽曲の中で、私は "Rum-A-Ting" に最も幸福を感じる。

5. Jesus Loves Me : 一種のゴスペル・ソング。Keith は、バハマの教会での激しい祈りに関心を持ち、度々教会を覗いていたらしい。信者達に見つかって、「お前の教会はどこだ?」 「英国国教会です」 などというやり取りを経て、録音の許可を得たようだ。それが冒頭部の喧騒のような音声である。Junkanoo Festival の国バハマならではの、ゴスペル・ソングだ。


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[Honky LP のリア・カバー]  Endurrance Cafe 前にて、"栄光の果ての落ちぶれた酔っ払い" を演じる Keith Emerson


"Works","Love Beach" でメインで使われた Yamaha GX-1 に代わって、"Honky" では KORG PS-3100/3300 が活躍している。この頃、Keith は今後が期待されるメーカーとして、KORG (京王技研工業(株),現在の(株)コルグ) を挙げていた。それが縁で、Keith と KORG の付き合いが始まることになる。KORG,YAMAHA,Roland 等,日本メーカーの製品が、Moog,ARP に代わって世界を席巻する時代の始まりでもあった。

さて '90年頃に、Chord レコードから発売された CD 版の "Honky" は、オリジナル LP 版とは全く違ったものに改編されてしまっていた。"Rum-A-Ting" は収録されず、曲順も全く違っている。Keith は、Chord レコードとの権利争いを続けていた。その甲斐あって "Honky" は、2000年にめでたくオフィシャル CD として、Keith 自身の解説を加えて再発されたのだった。

私の iPod には "Honky" が入っている。"Honky" を聴けば、何時何処で何をしていても、リラックスすることが出来る。皆さんも、見かけたら是非手に取ってみて下さい。お勧めします。

(Keith Emerson Official Site: http://www.keithemerson.com/ )
(Keith Emerson "Tha Land Of Rising Sun 「日出ずる国へ」 ": 2011年3月11日に作曲・録音された日本へ贈る曲)


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